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神宿り  作者:
第2章
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22/103

5

「ミャーゥ…」

 黒猫が鳴いた。

 哲哉が反射的に創樹に場所を譲る。


 制止するものがなくなり、遼介は再びふらふらとステージへ歩き出した。

 スッと創樹が右手を遼介にかざした。目前の創樹の掌に、あれほどステージへステージへと向かっていた遼介の足が、ぴたりと止まる。


 白猫が創樹の腕を伝い、トコトコと遼介に近付いた。

 創樹の掌が、遼介の額に触れた。

 白猫が鳴く。

 遼介のまぶたがスーッと閉じ、その体から力が抜ける。


 崩れ落ちる遼介の体を、慌てて哲哉と石原が支えた。

 哲哉が創樹を振り返る。

「…………大丈夫。眠っているだけ…」

 それだけ言うと、小さく鳴いた白猫と一瞬瞳を交わし、頷いてから、創樹はステージの階段に足をかけた。


 ステージの上では、虎が横たわる神父のそばに立ち、創樹を待っていた。

 シスターは霧のような、雲のような、もやもやとしたものに包まれている。


 ステージに立っている若い女が、鋭い眼光で創樹を見据えている。その腕の中の小動物も、創樹から視線を外さない。近くで見ると、狐に似て白く、大きさはハツカネズミくらいだろうか。不思議なことに尻尾が二又に分かれている。

 シスターが床へ崩れ落ち、彼女の体を包んでいたもやが、ゆっくりと晴れた。


 創樹は自分を見つめる女の前を静かに通り、虎のそばへ。

 虎は、くわえていた球状の物を床に置き、創樹を見上げる。

 黒猫が一声鳴いて、虎の背に飛び降りた。創樹がやわらかい手つきで虎の美しい皮毛を撫でる。


 客席のどよめきは最高潮に達していた。

 創樹は虎に頷くと、右腕を肩の高さまで持ち上げた。

 白猫が創樹の右肩から左肩へ移動する。


 創樹の右腕に、大きく、優美な鳥が現れた。

 ホール内の誰もが息を呑んだ。

 炎をまとった鳥が、ふわりと舞い上がる。虎が床に置いた球体が霧散したことに、幾人が気づいただろうか。


 鳥は旋回しつつ、神父に光を注いだ。それから今度はシスターに。

「飛天」

 声を上げた創樹の瞳の先に、遼介がいた。

 鳥が遼介の頭上を舞い、光を注ぐ。

 遼介が光に包まれた。


 鳥は創樹の元へと戻り、さし出された腕にとまった。

 創樹と虎が視線を交わす。

 創樹はひとつ頷くと、今度は鳥を見つめる。鳥が小さく一声鳴いた。

 鳥の体から光が放たれ、ホールに満ちた。光に触れた瞬間、まるで穏やかな春の日差しを浴びているかのような、暖かさを感じる。


「ありがとう」

 創樹が言うと、鳥は嬉しそうに彼女に頬擦りして――消えた。


 じっと見つめていた女は、創樹をにらんでから顔を背け、倒れ伏すシスターの額に手をあてる。

 スッとシスターから記憶が抜き取られるのが、創樹には分かった。


「………神代さん…、君は、何なんだ…? これは、一体…? 遼介は…」

 鎮まらないどよめきの中、哲哉が創樹に歩み寄った。

「………………」

 創樹は無言で哲哉に瞳を向ける。

 見つめ返すことさえためらわれる、静かで、澄み切った瞳…。


 真っ向からその瞳に見つめられた哲哉は、視線をそらすことも出来ずにいた。

 創樹は瞳に囚われた哲哉を解放するように、そっとまぶたを伏せる。

 哲哉は途端、楽になった呼吸に、無意識に息をつめていたのだと気付いた。

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