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ホール内は泰善高校の生徒や父兄、それから一般客で大半の席が埋まっていた。
創樹は手近に空席を見つけ、腰を下ろす。そしてホール全体を静かに見回した。
「………?」
その視線がホールのある一角で停滞する。
「………………」
ゆっくりと視線を引きはがし、再び緩やかな移動を始めた創樹の瞳が、今度はホールの扉で止まった。
その扉が開き、泰善高校の制服を着た生徒が入ってきた。
創樹の視線はその人物には行かず、床の上をすべるように移動した。
彼女の腕が、さりげなく床に伸ばされる。
ホール内に流れていたゆったりとした曲が止まった。
「ただいまより、泰善高校、クリスマスミサを開祭いたします」
開祭の宣言に続き、全員が立ち上がり、入祭の歌を歌う。
創樹は起立したものの、口を開くことはない。
再び彼女の視線が扉へと移った。
扉が開く。
入祭の歌に迎えられ、神父とシスターが現れた。
創樹は二人の姿をじっと見つめる。
うっすらと口許に微笑を浮かべ、一定のリズムで神父が歩む。
創樹のいる列にさしかかった時、神父はハッと顔を上げた。
創樹と神父の視線が交錯する。
息をつめ、こわばった表情で歩調を乱す神父に、周囲が無言の疑問符を投げかけた。
神父は気を取り直すようにぎこちなく前方に視線を戻し、硬い面に無理やり笑みを浮かべ、機械的に歩を進めた。
創樹はスッと目を細め、小さく頷くと、神父の姿を目で追った。
神父がステージに上がり、まもなく歌が終わった。
静かに客席の全員が腰を下ろした。
厳かにミサが始まる。
創樹は微動だにせず、神父を見続けた。
時折、壇上から会衆を見回す神父は、明らかに創樹の瞳につかまるのを怖れ、避けていた。
ミサが着々と進む中、創樹は静かに待っていた。
時間と比例して、神父の面から笑みがはがれてゆく。
神父の顔が完全に無表情になった。
そして今度は、その表情が刻々と険しくなってゆく。
前列の客席にいる者たちは、不思議そうに互いに顔を見合わせては首をひねる。客席後方は、まだ気付かない。
神父の表情が険しさの極致に達した。
そして、彼は唇をゆがめた。
………いや…、これは…笑っているのだ。
創樹の眼光が鋭くなった。
神父の言葉が途切れる。
ホール全体にざわめきがのように広がる。
創樹の肩口で、異変が起きていた。
霧散する映像を逆再生するように、何かが形を成してゆく。
神父が手にしていた聖書が床に落ちた。
創樹の肩には、外で別れたはずの二匹の猫が乗っていた。




