心休まらず
俺は今、焼け落ちた館から程近い場所にあるトーマスさんが所有するもう一つの屋敷の一室に居る。
焼け落ちた館程ではないが、こちらの館もそれなりに大きく立派だ。
本当なら直ぐにでもおさらばしたかったのだが、トーマスさん側の警備の体勢の立て直しが整うまで、トーマスさんに直に頼まれてしまった。
トーマスさん、その可愛さは反則です。
ベッドに腰掛け、先程の戦闘の様子を思い返している。
俺は、今まで武具の能力の超高性能のお陰で生き残れたものだとばかり考えていたが、自分があんな人間離れした動きが出来るとは思いもしなかった。
戦闘の後で、トーマスさん達に俺の戦い方を聞かれたが、速くて俺の動きがとらえきれなかったそうだ。
まさか自分がこんなに人間離れした怪物になっているとは思いもしなかった。
見た目が全然変わらんのに、中身が全くの別物になっている。
(元の世界に戻ってもやっていけるのかよ。)
元の世界に戻る為には、もっと力を付けなければならない。それは即ち、今よりも遥かに人間離れした存在になると言う事だ。
て言うか、今の俺の力ってこの世界ではどれくらいの強さなのだろう。比べる相手が居ないからさっぱり判らない。
悪くて下の上、良くて中の下だと思っていたが違うのか。
この世界に来てまだ数カ月しか経っていない自分がそんなに強いとは思えない。
そうだそうだよ、デススコルピオンを一人で引きずる怪力を持つゴメスだって、この世界では下の方の実力かもしれない。
仮に俺が強かったとして、素手でデススコルピオンの群れと戦闘になったとしよう。
無理です、勝てません、死ぬイメージしか湧きません。
貧弱な俺と、鋭いハサミと針を持ち、更に巨体のデススコルピオン。死にます。
ウジウジ考えていても仕方がない。元の世界に帰る為には、まだまだ強くならなければならないのだから。
(悩むのはそれからだ。)
考えが落ちついたら、今度は腹が減った。
飯を食べようと召喚術を使おうとしたら、メイドのノーラさんが部屋に入ってきた。
「沖田様、お休みの所誠に申し訳ありません。旦那様がお呼びです。」
旦那様ってトーマスさんだよな、もしかしていよいよお金の話になるのかな。お金を頂いたら、こんな物騒な場所からさっさとオサラバしよう。
ノーラさんの案内でトーマスさんのいる部屋に向う。
案内された部屋の中では、トーマスさんがソファーに座って俺が来るのを待っていた。
俺をトーマスさんの元まで案内したメイドのノーラさんは、トーマスさんに一礼してから、部屋から退室した。
今この部屋に居るのは、俺とトーマスさんの二人きりになった。
「沖田さん其方に座って。」
差し出された先にはソファーがあり、テーブルを挟んでトーマスさんとは反対側のソファーへ腰を下ろす。トーマスさんと向かい合う形になる。
「沖田さん、あなたを危険な目に遭わせてしまって済まない。」
頭を俺に下げるトーマスさん。
「トーマスさん顔を上げて下さい。あなたが無事で良かった。」
本音は違うけど、建前で社交辞令で返事を返す。これが社会で上手に生きて行くコツだから。
「もし、あの時僕が死んでいたら、エドも……、本当にありがとう。」
「トーマスさんそんなに気にしないでください。俺も貴方も無事だったんだから。」
本音は違うのよ、本音は…、でもまあ、お互い無事で良かった。
「所で、俺に何か用ですか。」
金の話だよね。そうであってくれ。もうこんな怖い所ヤダ。
「実は僕の領地は財政的に苦しくてね。新しく見つかった鉱山の初期開発費用でお金が掛ってしまい、君に支払うお金が無くなってしまったんだ。」
この領地は昔は、財政的に安定していたが、兄の放蕩で一気に傾いた。兄を追い出し、なんとか立て直しを図っているが、まだ道半ばで苦しい。
本来なら、俺に支払われるお金の分はちゃんと確保していたが、兄による館の襲撃の所為で、館の建て直しやら、亡くなった家臣や兵士に対する慰問金やその他諸々の支出から俺への支払いができなくなった。
「代わりに僕の家の資産の物件をお金の代わりに支払いたいんだ。」
差し出された紙の束には、伯爵家の資産の物件が細かく載っていた。
パラパラとめくって紙に書かれた内容を確認すると、かなり高額な物件が多い。
そういえば、俺の貰えるお金は幾らくらいなんだろ。
「トーマスさん、俺の貰える金額って幾らくらいなんですか。」
数千万かな、もしかしたら1億行くかな。緊張で心臓の鼓動が速くなってきた。
「約25億円だね。」
「……高額ですね」
ヤバい、心臓がバクンバクンしてる。
「神のデススコルピオンを王都のオークションに出したんだ。神の力にあやかりたい宗教家や裕福な貴族が競ってね、かなりの高額で落札されたんだ。」
「でも神のデススコルピオンを倒したのは、青い鎧の騎士天使ですよ。」
もうあの姿で人前に現れることは無いと思いたい。
「沖田さんだって、召喚術で攻撃していたじゃありませんか。貰う権利はあります。」
「有難う御座います。」
再度紙に書かれた物件を見る。
飛行船まであるのか。飛行船の下に書いてある飛行船ドックとは何だ。
「トーマスさん、此処に書かれている飛行船ドックとはどういう物ですか。」
「飛行船ドックとは飛行船を停留させたり、修理や整備する場所です。都市では飛行船を飛行船ドックに停留させます。飛行船をドックに停留させている間は、飛行船の持ち主は、ドックの持ち主に場所代を支払います。」
なるほど、パーキングエリアみたいなものか。
「なるほど、わかりました。」
奴隷も物件なのかよ。
王都の土地もあるのか。
王都の土地を貰って、小さい家を建てて、サスケと一緒に住むのもいいな。
でも家を建てる金が無いか。
王都の土地だけ頂いて、後は分割でお金を貰えないかな。家を建てて、そのお金をローンの返済に充てられないかな。
いや待てよ、そもそもこの世界に分割やローンなんて仕組みがあるのか。
もしもトーマスさんが殺されて、兄が領主になっても金は支払われ続けるのか。
そんな事トーマスさんに質問できないし。早くトーマスさんが勝たないかな。
この場合、攻めるより守る方が圧倒的に不利だ。早く兄の居場所が判ればいいのだが。
「トーマスさん、お兄さんの居場所は判ったんですか。」
「手を尽くしているのですが、兄の居場所は未だ判りませんが、兄はこの領都に居ると僕は考えています。」
「それはまたどうしてですか。」
「兄は僕と父を憎んでいます。僕が兄の目の前で死ななければ、兄の気は済まないでしょう。」
寂しそうな顔をして、床に目を向けて顔を俯くトーマス。
なるほどね。自分の行いは棚に上げて、自分勝手に好きにやる奴ね。周りが幾らその行いを非難しても、言い訳ばかりして、自分は悪くないと言って反省しない。だから周りの迷惑も考えずに同じ事を繰り返す。だから性質が悪い。関わりたくないタイプ。
でも、家族だから仕方ない。しがらみってやつだ。
「それに沖田さんには、また迷惑を掛けてしまうかもしれません。」
ちょっと待て、これ以上何が有るっていうんだよ。もう勘弁してよ。
「僕は、後少しで死んでいたでしょう。それを邪魔した沖田さんを、兄がそれを知ったら、兄は沖田さんを殺そうとするでしょう。」
(…………ノオォォォォォ、イヤァァァァァァ)




