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召喚送還師  作者: 銀槍
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スカーレット

俺の命が狙われているかもしれないと言われた時、違う意味で心臓がバクンバクンし、心なしか胃がキリキリしてきた。


なんで一般市民の俺が命を狙われなきゃいけないんだ。

ドラマじゃあるまいし。


するとあれか、ドラマみたいに街を歩いていると、すれ違いざまにお腹にナイフをドンと刺されたり、後ろからナイフをお腹にドンと刺されたりするのだろうか。


一刻も早くこの場所から離れたら安全なのか。


トーマスさんの話だと、お兄さんはかなり執念深そうだ。俺の素性も調べられているかもしれない。

そうなると、ここを離れても完全に安全とは言い難い。


王都で商売をしている最中に、商品にいちゃもんつけられて、路地裏に連れ込まれて、顔をぼこられて最後にナイフで腹をドンと刺されて殺されてしまうのか。


仮に崖の洞窟の部屋に籠っていても、お兄さんがこの領地の実権を握ったら、現状トーマス派とみなされている俺は反乱の目を断つ為に、命を狙われ続けるだろう。


どうしてこうなった。


ドラマではこういう場合どうなった。


颯爽と主人公を護るナイトが現れるが、俺にはそんなもの来るはずが無い。


ならばどうするか。


ドラマでは主人公を護るナイトの職業は、エスピーとかスペシャルセキュリティーサービスとか護衛の仕事の人だったな。


ようするにボディーガードを雇えば良いんだ。


この世界にそんな職業の人なんているのか。


仮にいたとしても雇える金が無い。


所詮世の中金か、金なのか。


仮に雇えたとしても、その人は信用できるのか。


俺を殺しに来る殺し屋と繋がっていたりはしないのか。


俺を殺しに来た殺し屋と共謀して、俺を殺そうとするかもしれない。


ならば奴隷ならどうか。


奴隷も俺から解放されたいが為に、殺し屋に俺の身を差し出すかもしれない。


八方手詰まりか。逃げ続けるしかないのか。


逃亡者になるしかないのか。


「…………沖田さん、大丈夫ですか。顔色が悪いですよ。」


「ああ、トーマスさん大丈夫です。」


どうやら考え込んでいたようだ。


「沖田さん、少し落ち着きましょう。お茶でも飲んで気分転換しましょう。」


トーマスさんはベルを鳴らしてメイドを呼ぶ。


するとノーラさんが直ぐに部屋に入ってきた。


「御呼びでしょうか旦那様。」


「お茶を二つ頼む。」


「畏まりました。」


一礼して部屋を出て行くノーラさん。


しかし、これから如何したらいいんだ。

ダメもとでトーマスさんに訊いてみるか。


「トーマスさん、俺の身の安全の為に護衛を雇いたいのですが、お勧めの奴隷とかいませんかね。」


お金が無いので当然奴隷になる。トーマスさんの物件を売却してお金を作っても良いんだけど、売るまでに時間がかかるし、俺は今護衛が欲しい。


「それなら沖田さんが倒した襲撃者なんてどうですか、かなりの手錬ですよ。」


今この人何て言った?。

俺が倒した襲撃者を奴隷にだと。

頭おかしいんじゃないか。

俺に倒されたなら、俺の事恨んでいるに決まっているじゃないか。


トーマスさんは俺に死ねと言っているのか。

腹にナイフでドンされろと言いたいのか。

ふざけるな。


「俺が倒した襲撃者が、俺を護るなんて考えられないんですけど…。」


「ああ、沖田さんは奴隷について詳しくないんですね。大丈夫ですよ、沖田さんには絶対に危害は加えられませんよ。」


どういうこっちゃ?


「それはどういう……、」


「奴隷には、契約時に制約の魔法が掛けられます。その魔法のおかげで奴隷は主人に逆らう事が出来ません。」


えええ、何それ、奴隷に人権は認められていると聞いたけど、それじゃ人権なんてあって無い様なものじゃないか……。


でも、今はそのおかげで助かるか。

希望が見えて来た。


「それじゃあ是非お願いします。」


「はい、判りました。それに沖田さんに会わせたい人もいますから。」


「会わせたい人?。誰です。」


「ええ、それは……。」


「失礼します。」


言いかけたトーマスさんの声を遮って、メイドのノーラさんが室内に紅茶のセットを持って入ってきた。


ノーラさんは手慣れた手つきでカップに紅茶を注いでゆく。


無言で2人の前にカップを置く。紅茶が注がれたカップの中から紅茶の香りが漂ってくる。


良い香りだ。俺は紅茶のカップを手に取ろうとするが……


「ノーラ、私は急に飲む気が失せたので、君が飲んでくれないか。」


トーマスさん、何か急に喋る口調が変ったぞ。どうしたんだ。


「いえ、旦那様の物を私が飲む訳にはいきません。これは私が処分しますね。」


そう言ってトーマスさんの前に置かれたカップを取ろうとするが…


「じゃあ言い方を変えよう。ノーラ命令だ。その紅茶を飲め。」


「…………」


ノーラはトーマスを見詰めたまま黙っている。


「飲めないか、そうだろうな、お前はノーラじゃないからな。そうだろう、スカーレット。」


「!!!!!」


スカーレットと言われた途端、表情を変えず、少しだけ後ずさるノーラ


何だ、何が起きている?


しばしの沈黙の後…、ノーラは両手を頭まで上げて


「あ~~あ、何でばれちゃったのかしら、完璧に化生した筈なのに。」


「私がそれを教えると思うか。暗殺者スカーレット。」


「……まあいいわ、ここは私の正体を見破った貴方に免じて引いて上げる。」


喋りながら、窓へと向かうスカーレット。そして振り返り、


「そうそう、貴方の命は私が貰うからそれまで死んじゃダメよ、伯爵様。それと、隣りのボウヤもまたね、チュッ♡」


此方に投げキッスをして、助走をつけて腕をクロスして顔を護り、一気に窓に突っ込むスカーレット。


スカーレットが突っ込んだ衝撃で2階のまどが砕け散る。

窓ガラスの破片と共に、外へ飛び出るスカーレット。


空中に飛び出しかなりの高さなのだが、片膝をついて見事に着地を決め、そして走り出す。


トーマスさんと俺は呆気に取られていたが、スカーレットの姿を追うべく窓側へ移動する。


窓側へ移動して窓の外を見ると、逃走を図ろうとするスカーレットと、窓が砕け散った音に気付いた兵士の数人が外に飛び出していた。


「そのメイドを捕まえろ、敵だ。」


トーマスさんが、音に気付いて集まってきた兵士達に告げる。


兵士達がスカーレットを追い駆ける。


スカーレットが逃げ続けた先は壁になっており、行き止まりだ。


俺は追い詰めたと思ったが、スカーレットは懐から小さい実を取り出し口に含んだ。


するとスカーレットの身体の輪郭がスライムみたいに歪み、形を変え、ドンドン縮み、やがて姿を変えて鳩の姿になると、メイドの衣服だけをその場に残して、青空の中を飛び立っていった。


「一体何が起こったんだ?」


人間が鳥に変身した状況に追いつけない俺にトーマスさんが、


「化生の実…、彼女は別名、化生の実使いのスカーレットと呼ばれています。」


「化生の実?」


「あれ?、沖田さんのその若返ったその姿も、化生の実を使ったからじゃないんですか。」


「うん、そうだけど」

はい、また嘘つきました。


「化生の実は比較的手に入りやすいですが、普通の人にはまず使いこなせません。彼女はある意味天才と言えるでしょう。」


思いだした、確か植物図鑑に載っていた。


化生の実……、食べれば老若男女あらゆる者に姿を変える事が出来る実。だが、変身後の姿を立体かつ精密にイメージしなければならず、普通の人は一重を二重にしたり、鼻の高さを少しだけ変えたりしてプチ整形にして使っている。


しかも変身後の力は変身前と変わらない。竜に変身しても力は人間のまま、しかも変身前の傷跡も消せない。


こんな逸話が有る。


ある日、若い男に恋をした年老いた老女が、化生の実を使い魅力的な若い女に変身して男に近付き、口説き落とし結婚した。


そして数年後、女は老衰で死亡した。


死亡して化生の実の効果が切れた妻を見て、男は絶望したと言う。


「それにしても、彼女が偽物だと良く判りましたね。」


「古傷ですよ。」


「古傷?」


「ノーラには無かった右手の甲の古傷が、彼女にはあった。それだけですよ。半分は勘でした。」


「そうでしたか。」


「それよりも早く本物のノーラを探し出さなくては。」


「スカーレットに殺されてる可能性はありませんか。」


「それは無いでしょう。彼女は狙った獲物以外は殺しはしませんから。」


そうなのか。だったら俺は大丈夫なのか。

トーマスさんの紅茶には毒物が仕込まれている。それはスカーレットの態度を見れば明らかだ。


だったら俺の紅茶はどうなんだろう。

毒物が入っていたら、俺も殺人のターゲットになる。でも入っていなかったら、俺の情報はトーマスさんのお兄さんの元へは届いていないんじゃないか。


調べる価値はあるか。


「トーマスさん、俺の紅茶に毒物が入っているかどうか調べて貰えませんか。もし入っていたら俺もトーマスさんの兄に狙われているという事になります。それを確かめたいんです。」


「判りました。早速手配します。」


2人は行動に移るべく部屋を出た。


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