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カイルからの報告を受けてから数日後。
だんっ!!
エレオノーラがテーブルを激しく叩きつける音に、執務室の空気が一瞬で凍り付いた。
目の前に立つ二人の魔導士が目を丸くする。
「珍しく荒れてんな、お姉さま」
「嫌なことでもあった?お姉さま」
リンとガイがおどけて声をかけると、エレオノーラの温度のない目が二人を射貫いた。
「「こわ!!!」」
震える二人に据わった目を向けたままエレオノーラの唇がゆっくり動く。
「リリアーヌが…」
ごくりと二人の喉がなる。
「……恋をしました」
この世の終わりのような顔で絞り出された声は低い。
リンとガイが顔を見合わせた。
「…へぇ?良いんじゃねえの?」
「リリアーヌ様もお年頃だもんね?」
ギン!
エレオノーラの鋭い眼光に、「ひっ…!」と、リンとガイが肩を震わせる。
「良いわけありますか!由々しき事態ですわ!」
「…いや、妹の恋愛に口挟むと嫌われるぞ」
リンの一言に、エレオノーラは再び机に突っ伏した。
「そんなことは分かっております!」
あまりに珍しい光景に、リンとガイの方が戸惑いを隠せない。
「え?嫌なヤツなの?」
「ヴァランシエール家の庭師ですわ」
くぐもった声が不本意そうに返ってきた。
「身分が釣り合わねぇとか、そういうヤツか?」
「…当家は自由恋愛推奨です」
「え!?そうなんだ」
新たな事実に驚愕しながら二人は首をかしげた。
「じゃあ、何が嫌なんだよ」
「誰が来たって嫌ですわ!」
「「理不尽!!」」
しかし、突っ伏したままの上司を放っておくわけにもいかない。
渋々二人がエレオノーラの肩に手を置く。
「そろそろ、妹離れなんじゃね?」
「元気出して。快く祝福してあげなよ?」
エレオノーラがゆっくりと微笑んだ。
「……減給」
出来るだけ優しくしたのに、無慈悲で理不尽なエレオノーラの一刀両断にリンとガイが叫ぶ。
「なんでだよ!」
「リリアーヌ様の恋は、俺たち無関係なのに!」
「お黙りなさい。私への慰謝料です!」
きつく二人を睨みつけたエレオノーラは、ふと何か引っかかりを覚えて首を傾げた。
何か忘れているような…。
急に動きを止めたエレオノーラを恐る恐るリンとガイが覗き込む。
顎に扇子を当てて、宙を見つめる。
少し間をおいて、エレオノーラは手の内で扇子を打った。
「そういえば、あなた達に近々『何か』大変なことが起きるらしいわよ。気を付けなさいね」
「何だよ、その雑な話!」
「『何か』ってなに!?」
エレオノーラは扇子を片手に、面倒くさそうに手を振った。
「私が知るわけないでしょう?聖女サクラからの伝言です。伝えましたからね?」
「急に出てきたな、聖女サクラ」
「聞いたことある気がするけど、誰だっけ…?」
すっかりリリアーヌの恋の話に心を奪われたエレオノーラに聞いても答えなど出るわけもない。
二人の間に、妙な沈黙が落ちた。




