3 探索と戦い
お読みいただきありがとうございます
迷宮へ繰り出してからどれくらい経過しただろうか。
まだそれほど時間は経過していないと思うが、扉からかなり離れたところまで来た。
肝心の迷宮はというと、かなり暗い。壁に所々明かりがあって辛うじて見えてはいるものの、ところどころ明かりが消えているところもあるし、そもそも光があまり強くない。正直不気味だ。
それに加え地面に岩なんかが転がっていて歩きにくい。
戦うには流石に暗すぎるし、一回戻って準備し直したほうがいいかもしれない。
そうも思ったけど、迷ってしまった。
今、完全に迷子になっている。
……まあ死んでも生き返るってチュートリアルには書いてあったから、気楽に行くほうがいいのかもしれない。
……いや、普通に死ぬのは嫌だな。
とにかく、もう戻れない以上前に進むしかないか。
明かりは……まあ明るい所もあるし、なんとか目を凝らせば大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら前へと歩いていく。
少し進むと、不自然に凹凸がない壁を見つけた。どうやら何か書いてあるようだ。
『M………rat――al――Mine』
ところどころかすれていて、かなり読み辛かった。だけど、一部はかろうじて読むことができた。
Mine……ここはもしかして鉱山なのか。
そう言われればそう見えなくもない。最初は洞窟かなにかかと思ったけど、所々壁が補強された跡があるし、空気を循環するためのパイプか何かが張り巡らされている。
なるほど確かにここは鉱山のようだ。でも、かなり荒れていてその面影もない。注意深く観察して初めて分かるほどだ。
なんだか想像してたのと違うな。迷宮って言うんだからもっとファンタジーしてると思ってたのに、妙にリアルというか、夢がない。
いやでも案外そんなもんなのか……? よくよく考えるとRPGとかでも鉱山はよく登場している。案外ピッタリの場所かもしれない。
まあそれはともかく、俺は迷宮の底にある宝を手に入れればいいんだ。敵もいるみたいだし、余計なことを考えないで集中しよう。
そんなことを考えながら歩いていると、ちょうど曲がり角の向こう側から音がした。
敵か!
急ぎつつもゆっくりと、音を立てないように壁に背をつけた。
体を傾けて、曲がり角の先を見る。暗くてよく見えなかったが、数メートル先に腰の高さほどの大きさの何かがうごめいているのがかすかに見えた。
多分だが、あれが敵だろう。ここが暗いせいではっきりとは見えないが、分かる。
あれは人間ではない。猫や犬みたいな動物でもない。多分だがあれはゴーレムというやつじゃないだろうか。
かなり緊張してきた。手汗がものすごいし、心臓の鼓動がこんなにもうるさく聞こえた事なんて今まで経験したことがない。
自分はちゃんと戦えるんだろうか。とにかく怪我をしないように、そして死なないように立ち回らないと。幸い、敵にはまだ気づかれていない、その上ここは暗いし、どうやら敵はこちらの方を向いていないようだ。
槍を握りしめ、音を立てずに敵の後ろへと近づいていく。背後までたどり着いたら、全力で、思い切り突き刺すという寸法だ。
ゆっくりと、かつ慎重に。着実に背後へと向かっていく。
よし、無事に背後を取れた。
――今更気がついたのだが、岩の塊であるゴーレムに槍で突いて大丈夫なのか。このまま突き刺しても倒せずに槍が折れるだけじゃ……。
そうなったら…………いや、今更そんなことを考えても意味はない。今は、こいつを倒すことに集中するんだ!
「うぉぉらぁ!」
槍を構え、ゴーレムの頭を思い切り突いた。刀身がぶつかった瞬間、火花とともに金属音が辺りに鳴り響き、その衝撃で思わず槍を握っていた手を放してしまった。
肝心のゴーレムはというと、思い切り槍で突いた衝撃で倒れている。
倒せた……のか?
なんだ。そんなに大したことはないな。戦えるかどうか心配だったけど、杞憂だったようだ。
それよりも、武器がどこかに飛んでいってしまった。この暗い中じゃすぐには見つけられないだろうな……。
というか、手首が痛い。特に右手の手首が痛い。
もしかして……捻った?
やっぱり槍は失敗だったか。多分槍を突き刺したときの衝撃をもろに受けたからだろうな……。
今はまだ我慢できる痛みだけど、これから更に痛み出してくるかもしれない。
救急バッグに湿布って入ってたっけな。
とりあえずサックを下ろしてと。
ふぅ。ずっと背負っているのも疲れるな。座って探そう。
えーと、これは違う、これも……おっ、あったあった。
本当は冷やしてからのほうががいいんだろうけど、あいにく冷たいものは持っていない。保冷剤でもあればよかったんだけどな……。
だからといって、何もしないよりかは遥かにいいだろう。
「痛っ」
触れると痛みが走る。さっきよりも痛みが強くなってきた。
……湿布を貼ったら武器を探さないとなぁ。
そんなことを考えていたその時、背後から音がした。
振り向くと、ゴーレムが拳を振り上げているのが眼前に映し出された。
え…………。
いきなりのことで思考が固まる。
やばい!
そう考えたそのときにはもう遅かった。岩の塊が側頭部へとかなりの速度でぶつかり、ヘルメットが吹き飛んだ。
なんだ……よ。何が起きたんだ……?
視界がぐるぐるする。気持ち悪い。地面にベッタリと赤いものがついている。
かろうじて、ゴーレムがまた腕を振り上げ、こちらを攻撃しようとしているのが見えた
まずい、避け……ないと。
立つことはできないまでも、這いずりながらなんとか回避しようとした。
だが、そんな状態で避けれるはずもない。足が潰された。
「――――――っ!!」
あまりの痛さに頭にかかっていたモヤが一気に晴れて、さっきよりかはまだまともな思考ができるようになった。だがそれと同時に、今まで経験したことがないほどの痛みもまた襲ってくる。
まだ動かせるもう片方の足で、ゴーレムを思い切り蹴飛ばした。
ヤバイヤバイヤバイ! どうしよう。速く逃げないと。でもどこに? クソ! 痛い! とてつもなく痛い! 足が動かない。
なんなんだよ! 俺が何したってんだよ! なんでこんな目に合わなきゃならないんだ!
吹き飛ばされたゴーレムが立ち上がり、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
なんとか逃げようとして、立ち上がろうとするも、無理だった。
どうしよう。どうすればいい!? 武器は無い。逃げられない。そもそも武器は効かないだろうし、足も潰された。
だめだ。もう何も打つ手が無いように思える。だめだ。なんとかして逃げないと。でもどうやって? こうして考えている間にもジリジリと敵は迫って来ているんだぞ!
「クソっ。こっち来んじゃねえよ!」
地面に散らばっている小石や瓦礫、とにかくなんでも手当たりしだい投げつけた。
当然そんなものは効くはずもなく、気にもとめないでこちらに歩いてくる。
なにかないのか、何でもいい! とにかく今この状況から脱する事ができるものはないのか。
考えろ! 考えるんだ!
武器は拾いに行けない。近くにあるものは、石。岩。サック。救急バッグ。それくらいだ。役に立ちそうなものはない。
よく見ると、ヒビが入っている――ゴーレムにだ。
もしかして、今までずっと武器は効かなかったと思っていたけど、本当は効いていたんじゃないのか? それが本当なら…………。
あの岩の塊が近づいてくるのを待つ。目と鼻の先まで近づいてくる。
まだだ。もう少し……今だ!
ゴーレムが腕を振り上げたその時、右手で手元に隠しておいた岩を掴み、ゴーレムへと思い切りぶつけてやった。
ゴーレムの体に更にヒビが入っていく。
ここぞとばかりに追撃をかけた。馬乗りになり、両手で、全身の体重と怒りを込めて、痛みなど忘れるほどの勢いで思い切り殴りつける。
何度も、何度も。動かなくなるまで、怪我をしても構わずに、何度も、叩きつける。
最終的に、周囲に散らばっている石と見分けがつかないほどにバラバラになった。
「はぁ……はぁ……どうだ、思い知ったか……」
ここまで砕いたんだ。もう動くことなんて無いだろう。
緊張の糸がほどけると同時に、強烈なめまいが襲ってきた。
まずい……ここで気絶したら、死んでしまう。
まずは……とにかく……傷の手当をしないと。
救急バッグの方へと体を動かそうとした。だが、ピクリともしない。それどころか、いつの間にか地面に倒れ込んでいた。
なんだよこれ……体が自由に動かせない。それに手足が寒い。
なんとか頭を動して周囲を見た。ベッタリと赤く染まっている。
うわ……。これ全部俺の血かよ……。
意識も朦朧としてきた。
だめだ、まだ死にたくない。
目も霞んできて、もう殆ど何も見えない。
こんなところで死ぬのなんて嫌だ。
体の感覚はもう殆ど残っていない。弱々しく鳴っている自分の鼓動だけが聞こえる。
もう……だめ……だ。まだ……死にたくない……のに……。
こうして、俺は死んだ




