2 準備と出発
このままある程度投稿します
画面が切り替わり、文字が流れ始めた。
〈迷宮へようこそ。残念ながら、あなたは迷宮を攻略し終わるまで元の場所に戻ることはできません〉
どうやら始まったようだ。そして、迷宮とやらを攻略しないと元いた場所に帰れないらしい。
一体何なんだろうか。こんなふうに俺を監禁してまですることなのか?
〈迷宮はとても危険な場所ですが、それと同時に大変価値のあるものが眠っている場所でもあります。あなたの任務はその迷宮を攻略し、底に眠る宝を回収することです〉
危険な場所って……そもそもなんで俺なんだ? 他に適任は多くいるだろ。
それに、迷宮ってなんなんだ。何かの遺跡? ギリシャ神話で登場したあのミノタウロスの迷宮だったりするのかな。
だが、もしそうだとしても遺跡発掘に関して何も知らない奴に行かせるか? それも1人でなんて。
価値のあるものっていう文面は少し気になるが、それ以上に危険という文字に視線が向かう。わざわざ迷宮の底なんて表現をしたんだ。迷宮とやらはかなり大きいんだろうな。
〈おそらく部屋は散々調べたでしょうが、お察しの通りここには迷宮への入り口である扉とこのパソコン以外何もありません。このままだとあなたは餓死するでしょう。死んでも生き返りますが、食料と水を用意しました〉
「うわっ!」
部屋のちょうど真ん中辺りの、なにもない場所がいきなり光り始めた。光り始めたといっても一瞬光っただけだったが、暗闇になれた目にはきつい光だ。
目がくらみ終わったあと、部屋の中央を見るとそこには水の入ったペットボトルと、乾パンの缶が大量に置いてあった。
……おい、今のって幻覚じゃないよな……。さっきまでそこには何も無かったはずなのにいつの間に……。
本当に現実か確かめるために恐る恐るペットボトルを手を近づけ、取った。
普通の500mlのペットボトルだ……。しかもかなり冷えている。
乾パンの方も同じく変なところはない。
…………そういえば今日起きてから何も食べて無かったな……。
多分だけど毒とかは入ってないだろうし、ここは倒れる前に腹に入れておくべきだろう。
〈1ヶ月分の食料と水です。これが尽きた場合には、ショップで食料を購入することになります〉
乾パンを口に放り込みながら、文字を目で追っていく。どうやら食料は1ヶ月分しか無かったらしい。あまり食べすぎないようにしよう。
というか、生き返るってさも当然のように書いてあるけど、冗談だよな……。
〈食料以外にも、これから迷宮を攻略するにあたって必要になる道具や武器、家具や部屋の拡張の権利なども購入する事が可能です〉
文字を読み終わると、そのショップとやらに画面が切り替わった。
迷宮ショップか……安直な名前だ。
〈ショップで商品を購入するのに必要なポイントは基本的に迷宮内で敵を倒すか、迷宮内で長時間過ごす、装備を売ることで入手可能です。
また、武器や防具といった装備品は敵を倒した際に落とすことがあります。基本的に、その敵が強ければ強いほど入手できる装備も強力なものとなるでしょう。〉
眺めていると、いろんな商品が流れてくる。
服や食べ物といった普通のものから、剣や槍、甲冑や騎士が着るアーマープレートのような武器防具、確か一般所持が禁止されているはずの薬品から爆発物まで、それこそ何でも売っているようだ。
それに金額の単位が全部Ptになっている。これがこのショップでの通貨で、迷宮で敵を倒せば増えるやつだな。レートは……大体日本円と同じぐらいかな?。
ちなみに今日はパン祭りらしい。……スーパーみたいなこともしてるんだな。
〈装備を購入してください〉
画面の端に避けた文字がそう指示してくる。
最初からポイントは持っているらしい。が、あまり多くはないな。
とにかく、装備を買うんだったか。武器は……とりあえず槍でいいか。
柄の部分が木で、先端の部分が鉄、足の先から腹ほどの長さの、ゲームでの初期装備みたいなやつだが、こんなもんで十分だろう。
一応銃もあったが、結構いい値段がした。
ギリギリ買えないこともないが、あまりポイントを使いたくない。それに銃の使い方なんて知らないしね。
防具は……革の防具にフルプレート、甲冑もあるのか。色々あるんだな。
とりあえず、防弾チョッキとヘルメットでいいか。
あと買うものは……保存食をいくつかと、なにかに使えるかもしれない救急バッグ、大容量で動きやすそうなリュックサック、腕時計、あと動きやすい服だな。ジャージでいいか。
……そうだ! いちばん重要なものを忘れてた。トイレとか買えるんだったら買っておかないと。ポイントが無くなったときに悲惨なことになってしまう。
あとは部屋の照明だな。ずっと暗いままパソコンを見続けるのも目に悪い。
こんなもんでいいだろう。
よし、購入っと。
決済が済んだあと、乾パンが現れたのと同じように部屋の中央が光り、買ったものがこれまた同じように光の中から現れていた。
「やっぱり……幻覚じゃないよなぁ」
ここは本当に現実なんだろうか。
ほぼ瞬間移動と言っていいくらい一瞬の間にここに閉じ込められたことといい、このいつの間にか買ったものが現れてる現象といい、現実味がない。
自分が知らないところでテレポート技術が開発されていて、今勝手に実験されているとか? そうだとしてもこの状況は謎すぎる。
夢かとも考えたが、そう言い切るにはあまりにもリアルすぎるしなぁ。
もし本当に現実だとすると、さっきからチュートリアルの中に何度も出てきてる迷宮ってのも本物ってことになるのか……。
元の場所に戻るには迷宮を攻略しないといけないんだよな。迷宮には敵がいるらしいし、死ぬこともあるぐらいに危険なんだろ?
生まれてこの方戦ったことはおろか武器を握ったことも無い、運動音痴のこの俺にとってはかなりきつい。
とはいえ、ポイントを稼がないと飢死することになるんだ。いや、死ぬことになるとはいっても生き返るみたいだけど、飢えるのなんてまっぴらごめんだ。
どのみち迷宮とやらを攻略する以外に選択肢はない。やるしかないのか……。
ところで、チュートリアルの方はどうなってるかな。
〈チュートリアルを終了しますか? [Yes] [No]〉
どうやらこれで終わりのようだ。
Yesをクリックする。すると、扉の方からガチャリと鍵の開いた音が聞こえた。
ドアノブに手をかけ、回し、扉を開く。
まず最初に目に入ったものは、ゴツゴツした壁と、金属製の柱、それにかかった薄暗いランタンだった。
そうか、やっぱりこの扉は外に繋がってなかったか。
チュートリアルでも『この扉は迷宮への入り口です』って言っていたのに、これで外に出られるんじゃないかと少し期待している自分がいた。
その小さな希望も、これで完全に無くなったってわけだ。
これからは迷宮とやらで敵を倒してポイントを稼ぎながらここで暮らして行くしかない。
家族は心配しているだろうか。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。
そう考えると辛くなってくる。
いや、だめだ。そのことを考えるのはよそう。
今はとにかく、迷宮を攻略することに集中するんだ。
そうでもしないと、心が折れそうだ。
そして俺は自分の気持から目を背けながら、足を一歩前に踏み出した。




