★chapter39 「役員貸付金と役員借入金」って何!?
あるけやき祭(文化祭)でのこと…
”トントントントン…”
”ジュゥゥゥゥゥ…”
鉄板の上に広がる食材たちを、華麗にさばく煉先輩。
「…それにしても、『パソコン部が飲食店』って意外な発想は、美琴だからできたようなものだよな…」
「えへへ!!もっと褒めてくれていいんですよ!煉先輩♪」
今年の文化祭で、パソコン部は私の発案で外での模擬店を出店することになり、私と煉先輩が今は店番担当になっていた。
「おお!!頑張っていますね♪」
「若林先生!」
「売れ行きはどうですか?」
「今日の目標は達成しました。今は余分に買えた食材で引き続き販売を続けています!」
「そうですか!」
「それで先生…ご相談がありまして…」
「…食材費を増やしたい…のではないですか?」
「よくわかりましたね…」
「ずいぶんと工夫をして食材を手配したのを知っていましたから」
”ゴソゴソゴソゴソ…”
若林先生が、財布から数枚の1万円札を取り出し、私に手渡した。
「先生!こんなにいいんですか!?」
「お店の売り上げから返してもらいますから、気にせず使って下さい」
「ありがとうございます!!」
「若林先生!ちょっといいですか?」
「酒井先生、どうしましたか?」
「実はですね…」
”スタスタスタスタ…”
「先輩!良かったですね!!」
「ああ。早速だけど美琴、帳簿に若林先生から受け取ったお金の処理をしておいてくれ!」
けやき商の文化祭では、商業高校だけあって、実践さながらの経理処理をして会計報告をすることになっている。
私はノートパソコンを立ち上げると、『仕訳帳』『総勘定元帳』『現金出納帳』のデータを開き、処理を始めた。
「えーっと…お店的には現金が\50,000増えた訳だから、借方は現金で良いとして…貸方は………」
「美琴!若林先生を、この店の役員だと思って処理すれば良いんだよ!」
「役員役員…ああ!!『役員借入金』だ!!」
「その通り。役員である若林先生が店のためにお金を出した訳だから、店的には役員である若林先生からお金を借りたことになる。即ち
(借方(左側))現金 50,000
/
(貸方(右側))役員借入金 50,000
という処理をすれば良いということさ」
「了解しました!!」
”スタスタスタスタ…”
「…危うく、本題を忘れるところでした…」
「若林先生!!本題とは!?」
「校長先生から、飲食店を出店しているお店の商品を数人分用意するようにお達しが出ましてね」
「今日いらっしゃっている校長先生のお客さんに振る舞われるんですね」
「美琴さん。出来合いもので結構ですから、3食分袋に詰めてもらえますか?」
「かしこまりました!」
”ガサゴソ…ゴソガサ…”
「お待たせしました!こちらをお持ち下さい!」
「美琴さん、それに煉君。ありがとう」
”スタスタスタスタ…”
「…若林先生……お店の商品をお金を払わずに持っていってしまいましたね…」
「若林先生が持っていった分は、役員借入金とは逆の処理をしておいてくれ」
「『役員借入金』の逆………『役員貸付金』ですね!!商品の原価は、1食いくらで計算しますか?」
「そうだな…100円で良いんじゃないか?」
「分かりました。つまり…
(借方(左側))役員貸付金 300
/
(貸方(右側))仕入 300
ですね!」
「オッケーだ。役員が店の商品を私用で持ち出した時は、役員貸付金で処理して、商品の処理は原価分を仕入を減らせば良いからな!」
「若林先生は絶対やらないでしょうけど、もし役員が店の現金を私用で持ち出した場合も、今回処理した仕訳の仕入が現金に変わるだけでしたよね!」
「その通り。そして、もしこの後、若林先生が商品代金を払いにいらっしゃったら…
(借方(左側))現金 300
/
(貸方(右側))役員貸付金 300
という仕訳をすれば良いからな!」
「了解しました!!」
「すみませ~ん!5食お土産にしてくださ~い!!」
「は~い!!少々お待ちくださ~い!!」
「まだまだ、お客さんは途切れそうにないな!俺も、次のシフトの部員が来るまで頑張らないとな!」
chapter40 に続く