中編
読んでいただきありがとうございます。
「気持ちは直ぐに切り替えられませんし、申しわけありませんが信用できませんわ」
「うっ!そうだよね。さっきの時間に巻き戻せるなら自分をぼこぼこに殴りたいくらいだ。どうかもう一度チャンスをくれないだろうか。これからあなたを全力で口説かせて欲しい。一年の間に好きにさせてみせるよ。駄目だったらその契約書が有効になるだけだ。あなたに損はさせない」
「女性を口説くのに自信がおありなのですね。マイナスからのスタートですがよろしいのですか?」
「口説いたことはないよ。いつも取り囲まれていたけど香水が臭くてうんざりしていた思い出しかない。少し話をしただけで口説かれたとか付き合っていると言われるんだ。隙を見せないようにするのが大変だった」
「モテるのも大変なのですね」
(モテて喜んでいるとばかり思っていたわ。聞いてみないとわからないものね)
「だからあなたもそうだと誤解してしまったんだ。ごめん」
少し顔色が戻ってきたようだ。
「政略の意味を理解していただけて良かったですわ。今日は疲れました。もう休みたいですわ。どちらで休めばよろしいでしょうか?」
「この部屋で一緒に眠ってくれないだろうか?僕はソファーで寝るから。もちろん手は出さない。縛ってもらってもいい」
「縛るなんて面倒ですわ。それに朝使用人に見られてそういう性癖だと思われるのは嫌です」
「言い方 ……もう少し恥じらいを持って言ってくれないだろうか?」
「あら、旦那様には言われたくありませんが、気をつけます。では私は隣の部屋で眠ります。旦那様はこちらでお休みくださいませ。真相を知るのは僅かな者だけでいいと思いますので偽装をお願いしますね」
「偽装?」ぽかんとした顔で夫が言った。
「初めてですので……その…」
流石に恥ずかしい。察してくださいませ。
「…ああ、直ぐに気が付かなくて悪かった。指を切って血を落としておくよ」
「指を切られるのでしたら手当てをいたしますわ。さあどうぞ」
「さあ、どうぞって。変わっていると言われないか?」
「言われているかもしれませんわね」
私は薄く笑った。気が強いとは言われるが、変わっていると面と向かって言われたことはない。陰では言われているのかもしれないが。
夫は腕をペーパーナイフで傷つけシーツに血を垂らした。私は薬を塗り清潔なガーゼで傷を塞いでおいた。指にしなかったのは見えにくいからだろう。案外思いやりがあるのかしら。いや、あんなことをいうのだ。自分が可愛いだけだろう。
謝られても不信感は拭えていない。
「あの……花嫁姿、とても綺麗だったよ。今も綺麗だけど。お休み。良い夢を見て」
「……ありがとうございます。お休みなさいませ。旦那様も良い夢を」
こうして私は自分の部屋に行きベッドに身を横たえた。今日は色々ありすぎた。
目を瞑ったら直ぐに意識は遠のいていった。
うわぁ初夜に大失態を犯してしまった。何とか謝り倒したけど、そう簡単には許してもらえないかも知れない。
今まで私の周りにいた秋波を送ってくる令嬢の中の一人だと思っていたけど大違いだった。顔合わせの時もあんなに気が強い雰囲気は微塵も見せていなかった。完全に猫を被っていたんだな。
あのまま拗れていたら、親族の前で俺の馬鹿さ加減が暴露されるところだった。
今思えばゾッとする。
早く気が付いて本当に良かった。首の皮一枚で繋がった。
だがあれくらいしっかりしていたら復興に力を貸してくれるはずだ。
後一年でどれだけ復興を進め、彼女を口説き落とせるかが俺の課題だ。
俺はベッドの上で気を引き締めた。
さっきの凛とした妻の姿が目に焼き付いて離れない。これでは、中々眠れそうにないな……。
後1話続きます。よろしくお願いします。




