前編
勢いで書きました。どうぞよろしくお願いします。前編中編後編の3話になります。
「君を愛することはない!」
と宣ったのは今日結婚したばかりの旦那様、レオナルド・フェラー侯爵令息21歳。金髪碧眼で鼻筋が通ったまるで彫刻のような美丈夫である。
フェラー侯爵領はこの2年間領地に大雨が降り続き、すっかり作物が実らなくなり深刻な財政難に陥っていた。
だからこそ、私アンナ・フランソワと政略結婚に踏み切ったのに、結婚初日でこの言い草だ。
いいでしょう、私は売られた喧嘩は買う主義だ。
我がフランソワ伯爵家は貿易で財を成してた大富豪だ。
確かに私は華やかな容姿ではない。
だがよく手入れされた艶のある栗色がかった金髪を持ち、愛嬌のある茶色い大きな瞳。鼻も唇もバランス良く整っている。正直そこそこ可愛いと思っていた。
そう社交界に出るまでは。
我が家では両親はじめ兄や使用人達が「可愛い、可愛い」と甘やかしてくれていたのだ。だが貴族社会は広かった。結論から言おう。私はザ・平凡だった。
綺麗な令嬢など履いて捨てるほどいる世界だった。
だが私は口は立つし、実家は湯水のごとく財力があり何より頭が良い。貴族社会で生き抜いていける自信なら、大いにある。
目の前の結婚相手がキラキラし過ぎているだけなのだ。
そもそも頭を下げこの縁談を申し込んで来たのはフェラー侯爵家だというのに、この旦那様は本当に何も分かっていない。
「分かりましたわ。それで構いません。ところで、そのテンプレのセリフ何処でお知りになったのですか?以前から興味がありましたの。一体どなたが使われるのだろうと。まさか自分が言われるなんて思っていませんでしたけど」
「えっ?」
驚いたように目を見張る旦那様に、私は容赦なく言葉を畳みかける。
(自分に気がある大人しい娘だと侮っていたのかしら?数回しか会っていないし、お茶会でも媚は売っていないつもりだったのだけど)
「恋愛小説でとても流行っていると知っておりましたけど、まさか生で聞けるとは思いませんでしたわ」
「えっ?」
「やはり小説ですの?それとも身分の低い愛人の方から吹き込まれました?」
「…あ、愛人なんていない。侍従に借りた恋愛小説で読んだだけだ!」
「あら、そうなのですね。期待を裏切らない答えで安心いたしましたわ。では、男の方がお好きなのですか?」
「し、失礼だな、君は。男なんて好きではない!」
赤くなって反論する彼に、私はふっと笑ってみせる。
「愛人がいなくて私を愛する気もないなんてあちらの性癖の方かと思いましたわ。それに失礼なのは旦那様の方ですわ。初夜にいきなりあのような言葉を言われるなんて充分失礼だと思いますけど。そんなに私との結婚が嫌なら拒否されればよろしかったのです」
じりじりと追い詰めてやる。
「…家の為に、仕方なくだ……」
「私も同じですわ。お断り出来るものならしたかったですけど、格上の侯爵家からの申し込みですもの。仕方なくて」
「…断りたかった…?仕方なく……」
驚愕に目を見開く旦那様に私は極上の微笑みを向けた。
「あら嫌ですわ。ご自分の容姿と家柄であれば誰もが喜んで嫁いで来ると思っておられたのですか?傾きかけた家に?」
「うっ!」
「そうなのですね?それならお金のことなどお考えにならずに、ご自分が気に入った別のご令嬢と結婚されれば良かったのに。でも残念ですが結婚したばかりですので直ぐに離婚は出来ませんわね?」
「………」
(御しやすいと思っていたのがとんだじゃじゃ馬で残念でしたわね)
「それでは期限は一年といたしましょう。後で揉めるといけませんので契約書を作りましょうか?よろしいですよね」
矢継ぎ早の私の言葉にただ「はくはく」と頷くだけの旦那様を相手に、私は結婚に関する書類を作ることにした。
提示した内容はこうだ。
一 これは白い結婚とする
二 期限は一年とする
三 支度金は返還する
四 人の目がある所では仲の良い振りをする
「これは後で義両親様に見ていただいきますので二部作成致しましょう」
結婚式の後なので義両親はまだ新館にいらっしゃるはずだ。賑やかな宴の歓声や音楽が響いてくる。
新婚夫婦の為にと敷地内に別邸を建てもらっていた。
もしかしたら私の両親やお兄様もまだいるかも知れない。
これは侯爵家の跡取り息子の馬鹿さ加減を、両家に知って貰ういいチャンスではないだろうか。
お互いにサインが終わると、私はきちんと着込んだガウンを翻すと部屋のドアへ向かった。
「ま、待ってくれ!すまなかった。許してほしい!」
振り返ると青を通り越して白くなった顔色の夫が、スライディング土下座を決めていた。
「何を許すのですか?あの「愛することはない」という言葉ですか?私もああ言われてまで愛していただこうとは思いませんのでご安心なさってくださいな。むしろ早めに言っていただいて良かったですわ。心がない人に寄り添うなんて無駄なことをしなくて済みましたもの」
旦那様の顔色が白を通り越して土気色になっている。
「……俺が愚かだった。政略結婚の意味をはき違えていた。自分ばかりが我慢をしているのだと思っていた」
「そうでしょうね、それでなければ初夜にあの言葉は出ませんわよね」
冷たく突き放そうとした私に、彼は床に額を擦り付けんばかりに叫んだ。
「頼む、私を捨てないで…欲しい。あなたはなんてかっこいい人なんだ!好きになってもいいだろうか?」
今度こそ旦那様が壊れた。
読んでいただきありがとうございました!




