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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第9話 重すぎる夜会のドレス

「何これ?」


夜会の二日前のことだった。

職場から帰宅すると、部屋の中に三つの箱が置かれていた。

執事のジャンが「お嬢さまへの贈り物です」と説明してくれた。


(贈り物って――夜会前だし、レスターだと思うけど……ドレスって言ってなかった? なんで三箱も?)


箱の宛名を見ると贈り主は全てレスターだった。


(やっぱり――……)


「あらまあ、素敵!」


侍女のアンは箱を開封しながら、思わず声をあげた。

1つ目の箱には、エメラルドグリーンに金糸の刺繍が施されたイブニングドレスが入っていた。碧に金の色調は、贈り主を思わせる組み合わせだった。随所に細かな刺繍が施され、チュールが何重にも重ねられている。一目で手の込んだものだということが分かる。


(これ――一体、いつから用意していたの? しかもこのドレスに縫い付けてある宝石、イミテーションじゃない……。一体いくらするドレスなのよ!?)


恐ろしくなりながら、2つ目の箱を開けるとドレスと揃いで履ける金色の靴が入っていた。


(まさか、3つ目は……)


3つ目の箱を開けると、イヤリングやネックレス、髪飾りなどの装飾品が入っていた。


「お嬢さま、すごく素敵ですわね!」


どれもドレスに合う一級品だ。アンはすっかり、贈り物にうっとりしている。


(素敵――だけど……。ああ、貧乏性って嫌だわ。一体総額いくらかかったのかが気になってしまう! 婚約を断ったりしてこの代金請求されたら……。我が家ではとてもじゃないけど、払える気がしない)


「すごいドレスだな。明後日の夜会用か?」


仕事から帰ったローレンスが、サラの部屋に立ち寄った。

アンが整理しているドレスを見て、驚いたように見上げた。


「ずいぶんと、重いドレスだな……」


(重い? まあ、確かに宝石もあちこちに散りばめられているし、チュールの量もかなり多いから、袖は通していないけれどそれなりの重量はありそうではあるけど)


「イブニングドレスだもの。こんなものなんじゃない?」

「そうか? 色はあからさまにレスターの色だし。どう考えたってオーダーだろう?」

「え? 色?」

「いや、色以外もだけど。なんだよ、この刺繍。一体いつから作っていたんだ」

「刺繍はそんなに重さはないんじゃない?」

「は? サラ。お前、何言ってるんだ?」

「何って――……お兄さまが重いって言うから。まだ袖は通してはいないけど」

「はあ? サラ、お前……」


ローレンスはサラの鈍感さに口を閉じた。

ローレンスとアンは、呆れたように目で会話をする。


「そういうことか。サラは、本当に子どもの頃から妙に達観して大人っぽいのに。こういうところはずいぶん子どもっぽいというか。鈍いというか……」

「――何よ」


(子どもの頃から達観しているって、そりゃ物心つく頃から、前世の大人の記憶があったんだからしょうがないじゃない)


「俺が言った重さっていうのは、精神的なもの。愛の重さ」

「……愛?」

「だって、まだ婚約者でもないわけだろう?」

「まあ」

「一応、ただエスコートするだけだって言っているのに、こんなドレス用意するか? 普通」


兄の問いに「普通はしない」という意味で首を振った。


(婚約者だったデニスとは、数えるほどしか夜会には言っていない。アドキンズ侯爵夫妻が気を利かせてドレスを贈ってくれたことはあったが、デニス本人からは一度もない。色合わせをすることもあったが、デニスの色に拘られたことはなかった。あまり気にしていなかったけど……)


「重いだろう。どう考えても」

「でも――……このドレス、どなたかのために用意していたものみたいだし……」


言って良いものなのか分からず、ごにょごにょと小さくつぶやいた。


(さすがに既婚者の姉へのものではないのだろうけど――……。前に言っていた、色々声をかけられているって言っていたご令嬢のものなのかもしれないし)


「他の女のために? レスターが?」


兄の問いに、こくんと頷いた。

サラに贈られたドレスを、兄はマジマジと見直した。


「それは――……ないだろう」


兄はサラにはっきりと言った。


(そんな……。じゃあ、なんでレスターがこんなドレス用意しているのよ? 私は先日までデニスと婚約していたんだから、私のために用意しているなんて有り得ないのに)


サラは豪華すぎるドレスを前に、新たな疑問が募っていた。


(好きな人から、こんな素敵なドレスを贈られているというのに、素直に喜べない自分が嫌になる。余計なことを考えないで喜べたらいいのに……)


◇◇◇


夜会当日――。


「すごい。ピッタリだわ」


レスターがプレゼントしてくれたドレスに袖を通すと、恐ろしいほどにサイズがぴったりだった。もちろん、採寸はしていない。


(どうして? いつ、私のサイズを?)


もう、レスターと関わっていると、次から次へと疑問が尽きない。


「お嬢さま、本当によくお似合いです」


侍女のアンが、ドレス、メイク、ヘアセットを完璧に施してくれた。

煌びやかなドレスの効果もあって、いつもの地味めな私が百倍――いや、千倍華やかに仕上がっている。サラは薄茶色の髪に、榛色の瞳という、この国でごく平凡な髪と瞳の色をしている。どのパーツも実は整ってはいるのだが、全体的に全て小さく、あっさりしているため、印象が薄くなる。つまり、地味に見える。しかも長時間労働のせいもあって、普段はナチュラルメイク――というか、ほぼすっぴんに近い。


(今日の瞳は、いつもの倍はありそうだわ。お化粧の力ってすごい。やっぱり「馬子にも衣装」ね)


コルセット効果で、腰はいつもよりくびれているし、胸も寄せてあげた効果でいつもより谷間がくっきり見える。


(この姿なら――レスターの隣でも、恥ずかしくないかも)


鏡を見ながら、ちょっと自信が芽生えていた。


「お嬢さま、ヴィヴィアン侯爵が参りました」


レスターの到着を知らせる執事のジャンの声が聞こえた。

玄関へ降りると、レスターは振り返った瞬間、何かを言いかけて——静止した。

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