第10話 夜会の幕開け
「レスター、ドレスありがとう。こんな立派なドレス初めて着るわ」
サラのドレス姿を前に、レスターが何故か絶句している。
「おお、サラ。すごく似合っているじゃないか」
「完璧な淑女だよ、サラ」
レスター到着の声に、父と兄が玄関ホールに現れた。
「ありがとう。お父さま、お兄さま」
ハーヴィー家は早くに母を亡くしている。
末っ子のサラは、母と過ごした期間が短いが、寂しいと感じることがないほど父や兄、姉に愛されて育った。過保護なところはあるけど、いつもこんな風にサラのすることに喜んでくれている。
(いつもは、家族に褒められれば十分満足できるのに――。
レスターは、なんで黙っているのかしら。想像以上に私の出来が酷かったから、後悔している、とか? いや、そんなこと――。レスターに限って。それに今日はアンのおかげでそれなりに見られるようにして貰っているはずだし……)
サラは勇気を持って、固まっているレスターの顔を覗き込んだ。
「!?」
「レスター?」
「あ……すまない。その――……あまりに、美しすぎて……意識が――」
レスターは赤くなる顔を抑えながら、呟いた。
――あまりに、美しすぎて……?
(さすがにそれは褒めすぎでしょう!?)
レスターに言われたサラの方が、恥ずかしくなり赤面する。
「レスターが意識を飛ばすのは分かるな。今日のサラはいつも以上にかわいい」
ローレンスは何故か得意気にレスターの言葉にかぶせている。
(やめて、恥ずかしい! いたたまれない!)
「レスターがいれば、変な虫が寄って来ることもないし」
ローレンスの軽口にレスターの目が鋭く光った。
「当たり前だ。……念のため、帯剣した方がいいか?」
(夜会に何を持って行こうと言うの!? 物騒な……!)
「やめてください」
騎士団ジョークなのかもしれないけど一応止めておくと、レスターは「そうだな。素手でも君に群がる虫は払いのけられる」と、握った拳を反対の手で包みこんで指をポキポキ鳴らした。
「そんな人、いませんから!」
どんどん話が物騒な方向に流れるのを止めようとサラは叫んだ。
すると、ローレンスとレスターに同じタイミングで凝視された。
「「いるに決まっているだろう!」」
見事に二人の声が重なり、サラも、父も、乾いた笑いを漏らすしかなかった。
(お兄さまとレスターは、やっぱり気が合うのね……)
◇◇◇
「ローレンス、君もさっさと婚約者の一人でも見つけたらどうだ?」
ヴィヴィアン侯爵家の馬車には、サラと、ローレンスも一緒に乗車した。
ローレンスは迎えに行く人もいないため、レスターの馬車に同乗することになった。
「レスター、お前には言われたくない」
「私は――」
そう言って、レスターは得意気に私の肩に手を置き、抱き寄せた。
(今日もやっぱり、レスターは私の隣に座っている。もう大分慣れては来たけど、家族の前だと恥ずかしい)
「なんか、サラの婚約者面しているようだけど、保留中だろ?」
兄のド直球な言葉に、レスターの笑顔は少し歪んだ。
「サラは慎重な性格なだけだ」
兄に向き合っていたレスターは、急にサラに視線を向けた。
「サラ、今日は良い返事が聞けると思っていいのだろうか?」
「えっ、あの、その――」
(夜会のときに返事を……とは言われていたけど。慌ただしくて、結局同じことをぐるぐると考えていただけで……)
レスターは戸惑うサラにずいっと身体を近づけた。
「俺と結婚することで、何か不安に思うことはあるかな? 自分で言うのもなんだが、女性関係でのトラブルは一切ない。侯爵家の次男だから割と自由な身だし、副団長として働いているからそれなりの収入はある。もちろん、騎士としての鍛錬も怠っていないから君を守る力もあるつもりだよ」
自分の存在を完全に無視して話すレスターに、ローレンスは呆れた顔をした。
「よく自分で言うな」
「事実だ」
「お前の欠点はそういうところだと思うぞ。どんどん外堀を埋めて、逃げられなくしているだろう。本当に変わらないな」
「外堀を埋めて、逃げられなく……?」
「ローレンスは黙っていてくれ。話がややこしくなる。サラ、ローレンスの戯言は聞かなくていい」
レスターはサラの両耳を手でふさいだ。
(ちょっと……なんなの?)
「俺はサラの兄だ。妹の幸せな結婚を願って何が悪い。妹の耳をふさぐな、耳を」
「サラの幸せを願うなら、俺との結婚を全力で応援しろ。間違いなく幸せにする」
「だから、サラにきちんと考える時間をやれって言ってるだけだろう」
「考える時間はやっている」
「静かに考える時間だ。次々、サラの思考を邪魔するようなことをするな」
「仕方ないだろう。また、デニスみたいなポンコツをあてがわれたら困るからな。まったく、君も伯爵も見る目が……」
レスターがローレンスを睨むと、痛いところを突かれたローレンスは「うっ」とたじろいだ。
「それは……俺も反省しているけど」
「だったら俺の応援をしろ」
「だから……応援はしているだろう」
「お前の言動は、応援しているんだか、邪魔をしているんだか分からん」
サラの頭上で、ローレンスとレスターの言い争いがヒートアップしていく。
(この二人、仲が良いのか、悪いのか……。まあ、お兄さまのおかげで、すぐに返事をしなくてよくはなったけど……。あまり返事も先延ばしにはできない。今日、お返事はしなくては……)
ローレンスとレスターの喧嘩を聞いていたら、あっという間に王宮に辿り着いた。
着飾った貴族たちが、夜会の会場に集まっている。
(夜会に来たのは久しぶりだわ。デニスとの件もあるし……。今日は、変な注目を集めそう)
サラの不安が伝わったのか、ローレンスとの言い争いが終わったレスターがそっと肩に手を置いた。
「心配はいらない。私が君を守るから」
レスターは、ヴィヴィアン侯爵家の馬車を興味津々に見る貴族たちを睨みつけた。
お読みいただき、ありがとうございました!
ついにサラが返事をする夜会に辿り着きました。
夜会では一波乱待ち受けています。
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