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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第11話 夜会の主役

「レスター・ウェズリー・ヴィヴィアン侯爵令息、サラ・ジャスミン・ハーヴィー伯爵令嬢のご入場です」


レスターと共に入場すると、会場中の視線が集中した。


(ううぅ、いつもは空気のような存在なのに。こんなに見られるのは……)


思わず下を向くと、レスターは優しい声音でそっと「顔を上げて」と囁いた。

サラはハッとして、慣れない社交用の微笑を維持しながら顔を上げた。

レスターとサラのツーショットは明らかに注目されていた。


「副団長の婚約者? あのご令嬢は一体誰なの?」

「え? あの、婚約破棄の? 地味な子だって話だったじゃない」

「あの副団長が溺愛しているって話よ」


ひそひそと貴族たちが囁き合うのが漏れ聞こえる。


(レスターにだって聞こえているはずなのに、全然気にしていないみたい)


「ずいぶんと注目を集めているね~」


二人の後ろから影のようについて来たローレンスが、興味津々の貴族たちを観察している。


「実はレスターが迎えに来てくれているから、3課以外の人にも噂されているみたいで……」


はじめてレスターに馬車で送ってもらった日以後も、何度かレスターが帰りに迎えに来てくれていた。


「そうか。私は誰からも何も聞かれないから、気付かなかったよ」


(まあ、レスターに直接聞ける猛者は、中々いないわよね)


レスターは涼しい顔で微笑んだが、兄はそんなレスターを怪しむ視線を向けた。


「お前、わざとやってるんだろう?」

「何のことかな?」

「本当、よくやるな……。お前も忙しいだろうに」


ローレンスは呆れた目でレスターを見た。

サラもローレンスの言葉にハッとした。


(なんとなく、当たり前に受け入れていたけど。レスターは騎士団の副団長なのだから、忙しいに決まっている)


「そうよね。レスター、有難いけど今後は迎えに来てもらわなくても……」

「サラ、ローレンスの言葉は気にするな。俺が好きでやっているんだから」

「でも……」

「いいから!」


レスターはサラににこっと笑って納得させた。

その後、レスターがローレンスには鋭い視線を向けたことに、サラは気が付かなかった。


(それにしても、デニスの婚約破棄のことで色々言われることを覚悟していたけど、ほとんどがレスターとの噂ばかりみたい。デニスより、レスターの方がインパクトがあるのね。もしかして、レスターはこういうことを分かって噂を広めて……?)


涼しい顔をしているレスターを見上げると、「ん?」と微笑んだ。


「レスター」

「どうかした?」

「その、ありがとう。レスターのおかげで、デニスとの件は、あまり噂されていないみたい」

「そうかい?」

「そのために、あんな風に迎えに来てくれていたのね?」

「たまたまだよ」


レスターはサラを穏やかに見つめた。


(やっぱり、レスターは優しい……。忙しいのに、そんなことのために時間を割いてくれていたのね)


思わずうっとりレスターを見ていると、ローレンスが「サラ、よく考えすぎだぞ」と背後からすかさず声をかけた。馬車の中で続いていた討論が再び始まるのかと思った瞬間のことだった。


「サラ! レスター!」


久しぶりの声が聞こえて振り返ると、姉のユーニスと、夫のシミオン・アドルフ・モンロー次期子爵が立っていた。仲の良い姉だが、シミオンに嫁いでからは会う機会は減っていた。


「お姉さま!」

「久しぶり、サラ。とっても素敵なドレスじゃない。贈り主は聞かなくても分かるわね」


ふふと笑いながら、レスターを見上げた。

レスターもユーニスを見て、「似合うだろう?」と得意気にほほ笑んだ。

レスターの麗しい笑顔を見ると、なんだか胸の奥が苦しくなった。


(お姉さま、相変わらずお綺麗だわ)


ユーニスとサラは姉妹だが、父似のユーニスは大人っぽい顔立ちだが、母似のサラは全体的に小動物のようで姉妹と言ってもあまり似ていない。

今日のユーニスはマーメイドラインのドレスで、色はシミオンと合わせている。あっさりとした柔和な顔立ちのシミオンと、きつめの美女であるユーニスの組み合わせは、いつも絶妙に似合っている。


(今日の私は地味令嬢だなんて言わせない仕上がりだけど、横に並ぶと……違いが際立つわ。レスターにはこういう華やかなタイプがしっくり来るような気がしちゃうのよね)


「あれ? サラ、背高くなった?」

「え? あ、いつもより高めのヒールだから」


そういうと、ユーニスはニヤニヤと言う笑いを浮かべた。


「レスター、あなた本当に抜かりがないわね」


レスターは得意気に「まあね」と言った。


「なんのこと?」

「サラ、気付いてなかったの? レスターを見上げてご覧なさいよ」


ユーニスに言われるがまま、隣のレスターを見上げた。


(あ……。そういえば、いつもより、首が痛くない。それに……ちょっと近くて――恥ずかしい)


意識すると、カアッと顔が火照った。


「この方がダンスのときも、バランスが良いかなって思ってね。歩きにくかったら、いつでも私に掴まればいいからね」


レスターはユーニスに会ってご機嫌なのか、いつも以上に破壊力のある笑顔で見つめてくる。


「あ……ありがとう」


ユーニスはそんなレスターに「はいはい」と呆れたように笑った。

「ユーニス、私もいるんだが。無視は寂しいな」

「あら。お兄さまもいたの!? 全然気が付かなかった」

「天然でスルーされるのも悲しいけど――。まあ、今日は仕方ないか」

「そこら中で噂されているわよ、二人のこと。レスターに聞けないものだから、私に色々聞いて来る人たちもいて、困っているんだけど……」


ユーニスは思わせぶりにちらっとレスターとサラを見た。


「それは悪かった」

「で、どうなの? ついにレスターと結婚するってこと?」

「ついにって……」

「だって――」と、ユーニスが楽しそうに口を開こうとすると、「ユーニス」とレスターが次の言葉を制した。何か視線だけのやり取りをしたかと思うと、ユーニスは黙った。


(何……? 何なの?)


二人だけしか分からないやり取りにもやもやが募る。

ユーニスの横で終始にニコニコ穏やかな笑みを浮かべているシミオンと目が合った。


(あ……。もやもやしていたの、気付かれた、かも?)


「サラちゃん」

「はい」

「今日のドレス、本当に似合っているよ」


シミオンはのほほんとした笑顔で、優しくそう言った。


「ありがとう、ございます」


(シミオン様って、私と似て地味系なのに……独特な雰囲気ですごく癒される。不思議な人だわ)


シミオンに微笑みかけた瞬間、レスターに腰をぐっと引かれた。


(な、何?)

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