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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第88話 別々の場所へ

「いや、本当にそんな顔しないでよ」


ジャックは神妙な顔をするサラに、困ったように笑った。北部研究所専属職員に最終的に白羽の矢が立ったのは、人の良いジャックだった。ジャックは北部に縁のある人間ではない。結局派遣する人間が決まらず、困った3課長がジャックに泣きついたかもしれなかった。


(北部の研究所の件を提案したことは後悔していないけれど、こうやって誰かの人生が変わっていくのを見ると……――)


「僕はラッキーだと思って引き受けたんだ」


ジャックはせっせと荷造りを進めていた。


「僕にとっては異例の大出世。悲しいかな、別に婚約者や恋人がいるわけではないし。それに、給与も劇的に増えるから家族も助かるんだ」

「家族……?」

「――病気の弟がいてね。治療費に結構お金がかかっていたんだけど、今回の北部行きのおかげで賄えそうなんだ」


ジャックの家庭事情を聞くのは初めてだった。ジャックは、いつも穏やかで優しい先輩だった。そんな事情を抱えているなんて、考えもしなかった。ジャックはサラに微笑むと「だからさ」と言った。


「君がそんなに僕に申し訳ない顔をする必要はないんだ。マリアくんは中々手ごわそうだけど、僕は結構猛獣使いなんだよ?」


あの後、デニスの説得を受けてマリアも研究所で働くことを承諾していた。マリアも屋敷から出るきっかけを探していたのかもしれない。この前あった苛烈なマリアの姿を思い出して、サラは思わず苦笑した。


「猛獣使い、ですか」

「言いえて妙だろう?」

「確かに……」

「僕もさ、君ほどではないだろうけど。北部の人の役に立つよう新薬を開発できると良いと思っているんだ。まあ、楽しみに見ていてよ」


ジャックはそう笑うと、軽やかな足取りで北部へと赴いた。ジャックが赴任してくれるのなら、北部研究所はきっとうまくいく。そうサラは心の底から思うことができた。


◇◇◇


「火焔狐の回復薬も順調のようだな。ランドン令嬢も、今のところ揉めごとは起こさず回復薬づくりに精を出しているようだぞ」


レオンはジャックからの報告書を目に通していた。


「そのまま続けば良いですが……」


ロージャー団長は、いまだマリアを信用できないという態度を崩さなかった。


「一度北部へ視察がてら、火焔狐の骨粉を運びに行ってもいいな」

「王太子自ら足を運ばれるつもりですか?」

「ああ、サラもそろそろ行く予定だったな。それに同行するのもいいだろう。どうせ、またレスターも同行するつもりなのだろう?」

「ええ。サラの出張の護衛は、どうしても他に譲る気がないようで……。まあ、レスターが同行するようであれば、騎士を複数同行させる必要もないので人員は割かれなくて良い点もあるのですが」

「試しに公私混同だと外してみたらどうだ?」


レオンはいたずらっぽく笑った。


「勘弁してください。手が付けられなくなりますから」


ロージャー団長は、憤怒するレスターを想像して頭を押さえていた。


◇◇◇


「……言霊って言うのは、あるのかもしれないな」


ロージャー団長は、魔獣討伐に向けて部下に指示するレスターを見て頭を抱えていた。


「何か言いましたか?」


レスターは無表情に準備をしていたが、ピリピリとした空気を纏っていた。それは同行する部下にも伝わっているようで、皆一様に無駄な動きをしないよう努めていた。


「いや、何も言っていない。すまないな。北部同行だったのに、急に――」


ロージャーはピリつくレスターの背にそう声をかけた。


「仕事ですから」


そうレスターは淡々と答えたが、目に苛立ちが隠しきれていなかった。

王太子の冗談を聞いた2週間後、サラの北部出張の日程に重なるように、魔獣討伐の緊急要請が入った。王都に団長も副団長も不在になるわけにも行かず、北部出張予定だったレスターが東の国境沿いの魔獣討伐に赴くこととなった。


(頭では分かっているようだが、緊急魔獣討伐の話をした瞬間、目が血走って……本当に――気を遣うというか……。さきほど北部へ赴くサラの馬車を見送るときには、代理の騎士のラリーに、しつこいくらいにサラと適切な距離を保たない男への対処について話し続けるし……。まあ、元婚約者がいるというのが許せないんだろうが……もう、あいつなんか敵じゃないだろうに。いつまでも目の敵にして……。俺ですら、デニスにちょっと同情し始めるというか……)


ロージャーはレスターの背を見ながら、ため息をついた。


「どうかしましたか?」

「いや――……なんでもない。魔獣討伐の件、頼んだ」

「すぐに殲滅させて帰ります」


そう言うと、レスターはひらりと馬にまたがった。「行くぞ」と部下に声をかけたかと思うと、待つ気がないのか、レスターは猛スピードで馬を走らせた。部下たちは、異常なスピードで馬を走らせるレスターに必死でついて行った。あっという間に小さくなる一団を見送りながら、ロージャーは同行させた部下たちに「頑張れ」と心の中でエールを送っていた。

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