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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第86話 夕食会

「サラちゃん! 結婚式振りだわ。元気にしていたの? レスターがあなたを独り占めにしているから全然会えなくて寂しかったわ」


結婚式振りに会ったネリーが、そう言いながら大げさにサラを抱きしめた。

サラの隣に立つレスターは、ネリーの発言は大半を聞き流すことにしているのか、無反応を貫いた。微動だにしないレスターに代わり、サラは申し訳なさそうにした。


「お義母さま、私もお会いできて嬉しいです。私が夕食会のこともすぐに気が付けば良かったのですが、仕事にかまけてしまって侯爵夫人としての勤めを後回しにしてしまって……」


身を小さくするサラにネリーは慌て微笑んだ。


「そんなことはないのよ。こうして夕食会に招待してくれて嬉しいわ」


シリルとローレンスと夕食会の約束をしてから、2週間後――。

ニックと、ナタリー、レスターの協力を得ながら、初めてサラが侯爵夫人として仕切る夕食会をさっそく催すこととなった。


(今回身内ばかりだから気楽なものだけど、そのうちレスターの賓客を招いての晩餐会もありそうだし。よい機会になったわ)


サラは国王に耳打ちされた「いま最も英雄に近い男」という言葉を重く受け止めていた。レスターは後継ぎではないのだから気楽にと言ってくれていたが、本当にレスターが“英雄”になった場合は、サラが求められる社交は気楽なものではなくなるはずだ。


(いつまでも社交は苦手、なんて言っていられないし、前と同じように仕事だけにかまけていればいいわけではないわ。北部の件も課長の差配にお任せする段階だし)


夕食会のメニューはもちろんのこと、招待状、テーブルフラワー、食器類、テーブルクロス、部屋の装飾など一つひとつに渡って、ナタリーやニックと綿密な打ち合わせをしながら準備をした。結婚後は勤務日数を減らしていたはずが、本格的な新薬製造が始まってからは結婚以前のような働き方に変わっていた。良い機会なので少し休みをもらい、夕食会の準備に専念することができた。


(皆に参加してもらえて良かったわ)


ヴィヴィアン侯爵家からは、義父のエリオット、義母のネリー、義兄のシリル、シリルの妻のアナベルが、モンロー子爵家からは、姉のユーニスに、その夫のシミオン、ハーヴィー家からは、父のリアムと兄のローレンスが参加した。

こうして両家の家族がそろうのは結婚式以来だ。ゆっくりと時間を一緒にするのは初めてかもしれない。


「それでは、ハーヴィー伯爵家、モンロー子爵家、ヴィヴィアン侯爵家の絆がより一層深まる夕食会と、多忙を極める中、本日の夕食会を主催してくれた私の愛する妻・サラに……」


レスターは、一堂に会した家族に目を向けたかと思うと、隣に座るサラを見つめて「乾杯」とグラスを掲げた。


(え? ……わ、私? いくらカジュアルな夕食会と言っても、そんな挨拶ある!?)


サラはまさかの夫の挨拶に驚きを隠せぬまま、乾杯をした。


「私の愛する妻って……。本当に人目を憚らなくなったな」


ローレンスが呆れた声を上げた。ローレンスの隣座る父は、聞かなかったことにしたのか「止さないか」と息子を窘めた。


「サラも幸せそうで良かったわ。」


ユーニスがローレンスに同調した。こちらは、隣に座るシミオンが顔を赤らめたサラを見ながら「サラちゃんも、幸せそうで良かったね」と、ほのぼのオーラを発していた。


「レスター、あなた仕事にかまけてサラちゃんを放っておいたりしていないでしょうね?」


ネリーがさっそくレスターに厳しい目を向けた。


「俺がサラを放って置くわけがないでしょう。俺がサラに放って置かれるならともかく――」


レスターは隣に座るサラをいたずらっぽく見た。


「そんな! 私は放ってなんて……」

「サラはいま新薬開発に夢中で、俺のことなんか眼中にありませんから」

「あら、そうなの?」

「“王宮薬学研究所・特効薬処方シリーズ”の話は聞いていませんか?」

「ああ、その薬のことだったら、この前の夜会でも話題になっていたが」


シリルがレスターを見た。


「その薬は私もお茶会で伺ったけど、あれにサラちゃんも関わっているの?」

「関わっているも何も、サラが開発者ですから」


ネリーの問いに、レスターが自慢げに答えた。


「「「「え!?」」」」


ヴィヴィアン侯爵家の面々が、目を丸くしてサラを見た。


「開発者!? 製造で関わっているのではなくて?」

「あなた、なんでそんな大切なことを黙っているのよ!」

「サラの新薬製造の件や北部の研究所の設立の件と、色々立て込んでそれどころではありませんでしたから……」


驚きの目を向けるシリルやネリーに、レスターは口の端に笑みを浮かべた。


「そうか……。あの薬はサラが開発をしていたとは――。いや、優秀な女性だとは思っていたがまさかそこまでとは……」


エリオットのつぶやきにネリーが頷いた。


「やはり北部研究所の件は、サラたちだったのか」


ローレンスがサラとレスターに目を向けた。


「さすがローレンス、気が付いていたか」


レスターがローレンスに頷いた。


「お前たちの出張の届やら、北部研究所の予算書やらが回って来るからな」

「北部に研究所ができるのか?」


シリルがレスターに問いかけた。


「ああ、サラが王太子に直接かけあった」

「「「「王太子に!?」」」」


家族の視線が一斉にサラに集まった。


(レスターったら――……)


サラはレスターの振りによって、何度も慣れない注目を浴びることになった。


(今夜の夕食会は、家族の親睦を深めるはずだったのに……私の話ばかりじゃ……――)


サラは得意げな顔でサラの話を続けるレスターに戸惑っていた。たじたじになっていた瞬間、ふわりと良い香りが食卓に漂い、使用人たちがメイン料理を運んで来た。


「ああ、良い香りだな」


エリオットが一匙口に運び舌鼓を打った。


「うまい」


それに同調するように「しっかり煮込まれているからか、柔らかいわ」「うん。美味しいわね」と続いた。


「しかし、これは一体何のシチューなのかな?」


エリオットの問いかけに、レスターは「ヴァルグのシチューです」と答えた。


「ヴァルグ? 魔獣かい?」


エリオットは驚いた顔をした。魔獣料理はまだ一般に親しまれているわけではない。レスターが家族たちに「驚かせたかもしれませんが――。私とサラは最近、魔獣料理を食べる機会が増えまして。これも俺が討伐したものです」


家族たちは驚いた顔はしたが、嫌な顔はしなかった。メイン料理は何が良いかと考えあぐねていたが、レスターと相談した結果、ヴァルグ料理にした。新薬開発をきっかけに、サラもレスターも最近は魔獣を口にする機会が増えていた。さまざまな調理法を知り、魔獣の肉がただ廃棄されているものが多いという状況を勿体なく思っていた。


「思ったより癖がないんだな。うん、うまい」

「こんなに美味しいものなのね」

「食糧難で苦しんでいる地域もありますから、魔獣料理が広がれば救われる地域もあるのではないかとレスターと話していまして……。魔獣料理は失礼かと思ったのですが、皆さまにも知っていただきたくて……」


サラの話を聞き、ネリーは深く頷いた。


「ヴァルグのシチューがこんなに美味しいなら、お茶会のときに奥さまたちにもご紹介できるわね。あとでレシピを教えてほしいわ」


ネリーは微笑んだ。

お読みいただきありがとうございます!

リアクション、ご評価、ブクマありがとうございます。励みになります。今週末完結予定です。ぜひ最後までお付き合いください。

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