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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第79話 食えない王太子との直接交渉

バンッ――。


慌て過ぎた課長が、不敬にも王太子の部屋の扉を乱雑に開け放った。

その後、自分のした行動に慌てていたが、とりあえずレオンの御怒りは買っていないようだった。それよりも、レオンの視線は、一緒に入って来たサラに注がれていた。


(な……なに?)


「サラ・ジャスミン・ヴィヴィアン。突然驚かせたな。北部の研究所の件は、君が提案者だというから、君から話を聞こうかと思ってな。さあ、そこに座れ」


レオンは自分の目の前の席をサラに勧めた。


(こ……ここ?)


私は不安になって、ちらっと3課長を見た。3課長は首が外れるのではないかという勢いでうんうん頷いていた。


(だ、大丈夫って……こと、よね?)


サラは礼をし勧められた場所に着座した。座ってから改めて見ると、サラの並びにはロージャー団長、レスター、1課長と、管理職たちが並んでいた。


(本当に……大丈、夫……?)


不安を隠しきれない思いで、顔を上げると目前にはやたらと微笑むレオンが座っていた。


(何、これ……? どういう状況……?)


「サラ、では君から説明してくれ」


レオンに促され、サラは資料に目を通しながら北部研究所設立案を説明し始めた。慣れない説明で拙さは隠しきれなかったが、レオンはサラが話し終えるまで静かに話を聞いてくれた。


「――君の話は分かった。だが、この北部研究所を設立するメリットはどこにある?」

「メリット……ですか?」

「北部は隣国との境として、国防の役割を果たせればよい。北部に研究所を設立させるとなると、公金をつぎ込むことになるだろうが、販売するのはただの回復薬。利益を回収できるかどうかも分からない」

「それは……――」


火焔狐(フレアテイル)の回復薬は、平民にも手が届くようにと廉価な設定だった。特効薬シリーズのような高級路線とは確かに異なる。それに、北部の人間を雇うことになると人件費もかかる。


(でも――……)


サラはレオンをまっすぐに見据えた。


「研究所は……新たに設立するのではなく、教会を改装する予定ですので設立にかかる初期費用面は抑えられるかと思います」

「資料にもあったな。ただ、教会を使えるかは未確定だろう。今回薬の件で取り締まったが北部はそもそも教会の影響力が強い。そう簡単に弱体化するとは思えないが」

「はい。私もノーザンドに赴き、その影響の強さは感じました。しかし、今回のことで初めて北部の教会に揺らぎを与えることができたのではないかと思います」

「――ほう?」

「北部では適切な医療機関がないために、教会が絶大な力を振るっております。このままその状況を放っておくことは、国としても看過できないことなのではないでしょうか」

「北部が国王の意向に背くつもりがあるとでも言いたいのか?」


レオンの瞳が、急激に冷たい為政者の眼差しになった。


「いえ。そうでは……ありません。しかし、今回の薬の件でも明らかになったように、教会は北部で強大な力を維持しようとしていることは間違いありません。そうでなければ"王宮"の名が冠している薬に毒物を混入することなど……なかったのではないでしょうか」


レオンの視線の強さに、サラの最後の言葉は曖昧な響きを放った。


「それに……北部の医療問題の解決もそうですが、雇用問題を解決することは、国益にもつながることかと思います。先ほど王太子殿下もおっしゃたように、北部は国防のための重要な要です。そこに若者が自然と集まる地域となることは……国としての、メリットにつながるのではないでしょうか?」


サラはレオンの圧に押されながらも、自分の言葉をなんとかレオンに最後まで伝えた。サラはチラッと周囲の反応を見たが、皆一様に固い表情のままで自分の言動がどう評価されたかが分からなかった。


(……一介の研究所職員が、王太子殿下に意見など……不敬、だったのでは――)


チラッとレスターの顔を見た。レスターも何を考えているか、分からない顔だった。


(私が不敬なのはともかくとして、レスターにも迷惑をかけてしまったのでは……。というか、ヴィヴィアン侯爵家にも迷惑が……? 調子に乗って、言いたいことを言い過ぎた?)


妙な沈黙がサラを不安に陥れ、小刻みに震えるサラの指をレオンが目の端で捉えた。

レオンはしばらくサラを見つめていた。そして堪えきれないように肩を震わせた。


(な……なに?)


レオンは我慢できないというように噴き出し、お腹を抱えながら笑っている。

その様子を見ながら、ロージャー団長や3課長、レスターは呆れた顔をしていた。


「レスター、お前の妻はずいぶん面白いな!」

「お褒めにお預かり光栄です」

「堅物者が溺愛しているというからどんな淑女かと思ったら――。いや、中々気が強くて……面白い」


レオンは目尻に浮かぶ涙を拭きとりながら、サラを見た。

今度の眼差しは、先ほどの冷たいものではなかった。


「お前の言っていることは分かった」

「――え?」

「私も北部の医療も、雇用も、なんとかしたいと考えていた。それが研究所の設立だとは思ってはいなかったが……。火焔狐(フレアテイル)の回復薬だったか? これも、北部の人間には役立ちそうな回復薬だ。あえて、安価な価格にしたのは庶民のためか?」


レオンの問いに、サラは小さく頷いた。

その様子に、レオンは満足したように口の端をあげた。


「ふむ。しかし、一点気になるのは、ランドン子爵令嬢の雇用だな。なぜランドンを雇用する? それこそメリットがあるとは思えない。事業は、慈善事業ではない」

「それは……――」


マリアを何故雇用するのか――。

正直、サラ自身なぜそうした方がよいか、明確な理由はなかった。

サラとマリアは仲が良くない。マリアのことは正直好きではない。

しかし、あの日、ランドン子爵に引きずられるように出て行ったマリアの背中が胸に焼き付いていた。


「個人的な……思いと言われたら、否定は……できません。ただ――……ランドン子爵令嬢が北部へ赴いてからもずっと部屋に籠られていると聞いて……」

「同情したか?」


(同情……なのだろうか? いや――)


レオンの問いに、今度は小さく首を振った。


「勿体ないと――思いました」

「勿体ない?」

「彼女とはアカデミーでも、職場でも、同じでした。正直、彼女の人間性は好きではありません。でも――……彼女の、薬学についての知識は、本物です」


研究所での働きぶりは褒められたものではなかったが、アカデミーでやたらとライバル視されていた頃の学習意欲はすさまじいものがあった。


「それを……部屋で籠って無駄にするのは勿体ないと、思いました。折角北部にいるのなら、その力を国王の臣下として北部再考の一助として動くべきかと思いました。――……ランドン子爵令嬢が、望むかとどうかは分かりませんが……」

「なるほどな――。まあ、北部に専門家がいないのは事実だ。王宮から多くの人間を派遣するわけにも行かない。サラが言うように、ランドンを利用することは、策の一つとして考えてもいいだろう」


レオンをそう言って、北部研究所の設立について前向きに検討してくれることとなった。

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