第78話 夫婦の交渉
「……どう、かな」
サラはピンクのベビードールを着用して寝室に姿を現した。太ももの中ほどまでしかない丈が、白い足を露わにしていた。大きく開いた胸元から、豊かな谷間が見え、前開きのデザインのせいで歩く度にひらひらと下着が見えた。
サラが寝室に来るのを本を読みながら行儀よく待っていたレスターは、サラが部屋に入った瞬間開いていた本をパタリと閉じた。そして、じっと獲物を狙うようにサラを見つめていた。レスターの目の前にサラが立つと、満足そうにサラの姿を眺めた。
「な……なんか、言ってよ。レスター。変?」
そう言いながら前を腕で隠そうとするサラの腰を引き寄せ、自分の膝に座らせた。
「変なわけがないだろう? 想像した以上で……興奮していただけだ」
ギラッと光るレスターの熱い視線に、サラは甘く胸が高鳴るのを感じた。
「本当?」
「ああ、最高だ」
そう言いながら、レスターがサラの剥き出しの足を撫でた。
「やっぱり一緒に行って良かったな。おかげで色々楽しめそうだ」
レスターはそのままサラをベッドに押し倒した。店では結局このベビードールのほかにも、気が付いたら下着や夜着など色々なものを購入していた。
(恥ずかしいけど――……レスターが喜んでくれるなら……私も嬉しい)
ベビードール姿のサラに興奮しているのか、レスターのゴツゴツした手がいつもよりも荒々しく動いた。レスターの手が動く度に、ピクッとサラの身体が反応し、サラの身体の反応にレスターはますます興奮していた。興奮するレスターはいつも以上に妖艶に見え、サラの身体もより敏感に反応した。
(こういう服って……男性ものってあるのかな……)
ふと、サラはそんなことが頭を過った。
「サラ、ずいぶん余裕だな。こんなときに考え事なんて……」
レスターはふと思考が逸れたサラに気付き、責めるようにサラの身体を攻めた。
「あっ、違うの。そうじゃ……なくて。あっ――……」
「もっと激しい愛撫がよかった?」
「ちっ……ちがうの。ただ――」
「ただ?」
レスターはサラの平凡な薄茶の瞳を覗き込んだ。
「その……ただ……男性用の、こういう……のって、あるのかなって、ちょっと……思っただけで」
カァ……と顔を赤らめるサラに、レスターは思わず笑った。レスターの手は、サラのベビードールをゆっくりとなぞった。
「こういうの? 男用の?」
「だ……だって、女性用があるなら……男性用のセクシーなものがあったって……」
レスターが思わず噴き出した。
「まあ、そうだな――。あってもおかしくないかもな。サラは本当に発想が面白い」
「だって……――」
「今度、探してみるか? サラが喜ぶなら俺は着るのは構わない」
「ほ、本当?」
「着てほしいのか?」
嬉しそうなサラを、レスターは興味深そうに覗いた。サラは思わず頷いた。
サラの素直な反応に、レスターはますます面白くなったようで声をあげて笑った。
「そうか……。じゃあ、俺もセクシーな服を探しておくよ」
「本当に? ……絶対ね」
「ああ、分かった。――その代わり……サラにも、俺のお願いを聞いてもらわないとな」
レスターの瞳が怪しく光り、レスターはサラの柔らかな胸をレースの上から握り、期待に花開く頂を弄んだ。
「あっ……ん。お願いって……?」
「色々だよ。夜は、長いから――」
レスターの不敵な笑みを月明りが照らしていた。
◇◇◇
「サラ、資料の準備は大丈夫か?」
レスターは無表情に近い表情でサラに確認した。仕事モードのレスターは、表情が乏しくなる。休み明けは、王太子との面談予定だった。
昨日は、案の定サラは起き上がれなくなり、ほぼ一日レスターとベッドでまどろんで過ごした。
(昨日はまたレスターに面倒を見てもらって過ごしてしまったから……――家とのギャップが……)
「はい。こちらを」
3課長に王太子用の資料と、参加者用に概案を記した資料を渡した。参加者用の資料は、デリックの魔道具のおかげでスムーズに用意できた。
(やっぱり、あの魔道具も早く一般流通してほしい。魔道具は薬品とは違って、使用する材料も高額だし、たくさん作るとなると時間がかかるのよね……。ああ、でも貸してもらえるだけで本当に有難いわ)
「これが火焔狐の回復薬のデータと――薬です」
あの後も騎士団の方々にもご協力いただいてデータを取らせてもらった。今のところは、体温を温める効果が高い以外は、普通の回復薬と遜色はなさそうだ。
(それにしても――……)
王太子への説明は代表して3課長が担うことになっていた。役職者ではないサラ、ハンネスは王太子との説明には立ち会わない。人は良いが押しの弱い3課長は、王太子への説明の前に青ざめていた。王太子はレスターと同年代なので課長は10歳以上年上だが、課長はレスターにも、王太子にも弱いようだ。
「課長、宜しくお願いします」
サラが資料を渡し、課長に頭を下げた。課長はそんなサラを安心させるようににこっと人の良い笑みを浮かべた。
「大丈夫。任せてくれ!」
課長は胸をポンと叩き、王太子との面談に向かった。そう言って歩みを進めた課長の右手と右足は一緒に出ていた。部屋に残るハンネスとサラは、そんな課長の後ろ姿に、思わず目を合わせて笑ってしまった。最後に扉を閉めたレスターは、「大丈夫だ」と言うように目配せをしてくれた。
(うん、ずいぶん緊張しているようではあるけど……あれだけ皆さんと練ってきたんだもの。きっと――大丈夫だわ)
そう思った15分後――。
3課長が足を震わせながら、部屋に戻って来た。
「え? 課長? もうお話が終わったんですか?」
「すまない。サラくん、ちょっと一緒に来てくれ!」
「え!? 私が?」
サラは慌てる課長に引きずられるように、王太子の執務室へと向かった。
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