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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第73話 成分結果

(な、なんか……レスターって、もしかしてちょっとズレてる……?)


子どもの頃から完璧な王子様のようだと思っていたのは、恋は盲目というものだったのかもしれない。デニスが入れてくれたお茶を飲みながら、そんな疑念がサラの脳内に初めて過った。デニスは何を話題にしても墓穴を掘ると思ったのか終始下を向いて黙り込み、レスターは無表情のままでサラの隣で腕組みをして座っていた。


(なんか、息苦しい……)


重い沈黙を破るように「サラ、分析終わったよ!」と、ハンネスが応接扉の扉を開けた。ハンネスの登場により、重苦しい空気が少し解けた。


「ハンネス様!」


分析結果よりも、この空気を変えてくれたハンネスの登場にサラは心底感謝した。


「え? なに、何か空気重くない? なんか、あった?」

「いえ、特に……何もないんですが――」


サラは無表情のままのレスターをちらっと伺いながら、ハンネスに答えた。

デニスも苦笑しながら、ハンネスに温かいお茶を出した。

デニスはハンネスの登場にサラ以上に安堵していた。

ハンネスは手書きのメモを見せながら、成分について説明をした。


「結論から言うと、この傷薬は環境変異じゃない」

「え?」

「納品された薬に、粗悪品を練り込んでいる」


ハンネスの言葉に、デニスが青ざめた。


「……デニス」


レスターの低い声に、デニスはビクッと肩を震わせた。


「わ、私ではっ……ありません。私は本当に何も……。マリアも、ランドン子爵邸で謹慎処分を受けてからは抜け殻のようになっていて……。北部に連れてきたいまも、部屋に引きこもっているばかりで……こんな大それたことをするとは、とても――」


デニスは怯えたようにレスターを見た。

レスターはデニスをじっと見た。


『いやがらせの可能性もあるだろう』という王太子の言葉が頭を過ったが、久しぶりに出会ったデニスに以前のような悪意は感じていなかった。


「レスター、あの……」


サラがレスターに声をかけたが、レスターは手でサラの言葉を制止した。


「デニス、お前が王都でサラにしたことは記憶に新しい。上司としても、サラの夫としても、看過できないことだし、簡単に水に流せるものでもない」


レスターの言葉にデニスの顔はどんどん色を失っていった。


「お前の婚約者のランドンがしたことを踏まえても、再びデニスもしくはランドンが何かをしかけた可能性は否定できないし、そう思う人間もいるだろう」

「――……承知、しております」


青ざめた顔のデニスに、レスターは頷いた。


「北部へ自ら赴くと決断したお前が、ここでどう過ごしているかは報告を受けている」


レスターは固い表情のまま、デニスを見た。


「いまのお前は――……王宮への報告責任者としてわざわざ自らの立場を危険に晒すほど、愚かではないと俺は考えている」

「……副団長」

「この件の報告責任者はお前だ。知っていることは包み隠さず、粒さに報告しろ。それがお前にできる最良のことだ」

「ありがとうございます」


レスターはホッとした表情で頭を下げるデニスから、ハンネスへと視線を動かした。


「――ハンネス、結果報告を続けてくれ。粗悪品を練り込んでいるという話だが」


サラはハンネスのメモを見て「血霞草が……」と呟いた。

サラのつぶやきに、ハンネスは深く頷いた。


「血霞草?」


デニスとレスターは聞きなれない名を繰り返した。


「血霞草はアレルギーを起こしやすい毒草なんです。花粉が血管を拡張して、高熱や蕁麻疹を引き起こす。子どもや高齢者、免疫力の低い人が感染した場合は、最悪に死に至ることもあります」

「死に――……?」


ハンネスの説明に、デニスは青ざめていた。


「血霞草の成分が検出されたということだと、環境変異は考えにくいわ。新薬に粗悪品を練り込んだうえで血霞草を意図的に混ぜた、ということかしら?」

「それが一番自然だと、僕も思った」

「でも、誰がそんなことを……!?」


デニスはサラとハンネスに答えを求めるとでもなく呟いた。


「北部はそもそも常駐の救護員もいないような診療所も多いんです。教会に治療師もいますが、人数も能力も王宮とは全く違いますし、治療には高額な費用もかかります。新薬で重篤な症状を治療できるのであれば、われわれ騎士団もそうですが、北部の多くの人たちにとって本当に助かる薬になるはずだと、かなり期待されていたんです。――それなのに、一体なぜ……」

「助かる人間が増えると、困る人間がいる、ということだろう」


レスターは戸惑うデニスを、強かな目で刺した。


「え……?」

「デニスが言うように、新薬の登場で救われる人間は多い。しかし、そうではない者にとっては、この新薬が高い効果を持つと思われては困るということだろう。新薬が流通すると今まで得ていた利益を得られなくなるとか、な」

「利益……そんなことで……」

「受益関係者が怪しいと、俺は思うが」


デニスは心当たりがあったのか「そんな……まさか――」と呟いた。


「デニスさん、この薬は診療所に直接納品されていますか?」

「あ……いえ。ここは常駐のスタッフがいないので、全て街の薬問屋を経由して診療所や教会に……」

「そうですか。では、その問屋の状況を調べた方がいいですね」


ハンネスはデニスにそう声をかけた。

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