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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第71話 薬の流通

傷薬、回復薬、鎮痛剤は「王宮薬学研究所・特効薬処方シリーズ」というブランドを冠し国内に流通させた。流通数には限りがあるため、重傷・重篤な患者に使用するよう、お達しも出されていた。


「思った以上の効果だと、各地からの反応がすごいぞ」


1カ月以上経ったいま、新薬の効果についての報告書や書状が続々と届いていた。レオンは領地からの複数の報告書に目を通しながら、ロージャー団長に言った。


「各地の騎士団からの評判も上々です」

「予想以上の反響だな。回復薬作りにしか能がないと思っていたが、3課も中々やるな」

「人員を増やしたことで新薬開発に余裕が出たそうですよ」

「ああ。そういえば、以前上申があったな。何故だかレスターがやたらと熱心に吠えていたが」


ロージャー団長は、3課の人員増員に尽力していたレスターを思い出し、くすりと笑った。


「妻のためでしょう」

「妻? ああ、サラとか言ったか。そういえば、傷薬の開発者だったな。まだ3課に入職して1年足らずだろう。中々優秀な職員じゃないか」

「ハーヴィー伯爵家の出ですからね」

「なるほどな……」


ハーヴィー伯爵家は、政治の表舞台に出てくる家ではないが、中立・頭脳派の家としては密かに重宝されている。現伯爵も王宮勤めの頃は文官としての能力は高かったし、次期伯爵のローレンスの評判も良い。


(まあ、変わり者でもあるようだが……――。モンロー子爵家に嫁いだ姉は華やかな美人で印象に残っているが、妹のサラはどうだったか……――。そういえば夜会で挨拶したときにレスターが「口説いている」とかなんとか国王に言っていた気もするが……。肝心の令嬢がイマイチ印象にないなあ)


「そういえば、レスターの結婚はいつの間にか決まって、いつの間にか挙式を終えていたな。あの男、私を式に呼びもしないで」


(そういえば、口頭の報告だけだった。急ぎの式だからどうのと言っていたが……。28まで結婚を渋った男が今更何を急ぐというのか)


「殿下を呼ぶとなると、式の準備に時間がかかるからでしょう」

「時間がかかって何が悪い?」

「一刻も早く結婚したかったのでしょう」


ロージャー団長は、にまにまと楽しそうだ。レオンはロージャーの反応に目を瞠った。


「なんだ。レスターはそんなに新妻に骨抜きなのか?」

「デレッデレでしょう」

「――……信じられんな。あの男が」


(王宮に勤めて10年は見ているが、レスターが女性に興味を持っている姿なんて、見たことがない。しかも、相手は印象にも残らない年下令嬢か……)


レオンはロージャーと軽口を叩きながら、積み重なる大量の書類に次々目をやっていた。


「……――ロージャー」


レオンは1枚の書類をじっと見つめた。


「デニス・エドマンド・アドキンズは、レスターの奥方の元婚約者だったか?」

「え? はあ、そうですけど……」


ロージャー団長は久しぶりに聞く名前にきょとんとした。

デニスが婚約者のマリアを連れ、北部へと異動したのはもう数カ月前のことだった。


「何かありましたか?」

「北部で傷薬の副作用が確認されたという報告書が届いている。サラ・ジャスミン・ヴィヴィアンの製造判の薬だそうだ」

「え?」

「報告者は、デニス・エドマンド・アドキンズだ」


レオンは鋭い目をロージャー団長に向けた。


◇◇◇


「副作用……ですか」

「ああ、傷跡が治るどころか爛れたり、発心が出たり、高熱になるものもいるそうだ」

「そんなに……」


デニスの報告書を見てすぐに、3課長と当事者であるサラを王太子の執務室に呼んだ。


(本当は課長だけで良かったが、好奇心で呼んでみたが――。こういう感じの令嬢だっただろうか……? 急に王太子に呼ばれるなど、話もままならないかと思ったが、いや、なに、堂々としたものじゃないか?)


サラはレオンから報告書を受け取り、じっくりと読み何か考えているようだ。

レオンはそんなサラの様子をそっと観察していた。


(姉のユーニスは華やかな美女だったが、妹はタイプが違うんだな。でも、優しい顔立ちで可憐な少女のような女性だな。印象に残らないなんて思っていたが……こうしてみるとそんなことはない。なるほどな、レスターはこういうタイプが好みだったのか)


思わず笑いそうになるのをこらえるレオンをサラはまっすぐに見つめた。


「どうかしたか? 遠慮するな、思ったことを言え」


サラは少し躊躇ったが、口を開いた。


「――……どんな薬にも副作用はあるものです。ただ、北部にだけこんなに集中することには少し違和感があります。薬は出荷前に1課のハンネス様に毒性を鑑定していただいてもおります」

「――そうだったな」


(――……妥当な判断だな)


レオンもデニスの報告書には違和感を抱いていた。

デニスとサラの婚約破棄の問題はレオンの耳にも届いていたし、その後のマリアの毒草事件も伝え聞いてはいた。


(すべては解決したと報告を受けていたが、私怨という可能性も捨てきれない……)


しかし、サラはレオンの考えとは違う推理をしていた。


「もしかしたら、北部の気候や環境にも何か理由があるのかもしれません」

「気候?」

「はい。輸送の際に成分に何か変質が起こることもあるかもしれませんし」


サラがデニスを疑っている様子は微塵もなかった。


「この報告書の作成者は、デニス・エドマンド・アドキンズだ」


レオンの言葉にサラはきょとんとした顔をした。

その顔には「知っている」と書いてある。


(なんだ。敏い女性かと思ったが、鈍いのか?)


「君の元婚約者だろう? しかもトラブルにも発展したと聞いている」

「それは……」

「いやがらせの可能性もあるだろう」


レオンがそういうと、サラは少し考えたようだが小さく首を振った。


「確かに、デニスと私は……良い関係ではありませんが、デニ……アドキンズ侯爵令息がそんなことをする人とは思えません」


サラはレオンをまっすぐに見て言った。


「――そうか?」

「はい」

「じゃあ――……自分の目で確かめてみるか?」

「え?」

「君が北部に赴いて、状況を確認すると良いだろう」


レオンはサラににこっと微笑んだ。


「北部に……」

「デニスとはもう何でもないんじゃないのか?」

「それは……そうです、けど――」

「それに、君は開発者だし、君の薬の製造判がある薬でもある。君が行くのが最も話が早いと私は思うが?」


レオンの問いかけにサラは少し躊躇っていたが、最終的には「承知しました」と答えていた。

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