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第70話 振り回しているのはどっち!?

「すごいタイミングで迎えに来るから驚いちゃった。また記録用魔道具が置かれているのかと思ったわ」と、馬車に乗り込みながらレスターを冗談めかしてからかった。


「もう、あれは使ってない」


レスターはサラの横に座りながら、バツの悪そうな様子で答えた。


「今週は残業だろうと思ったが、これ以上遅くなるのは看過できないと思っただけだ。まあ、君も分かっているようで良かった。サラは集中すると、すぐに時間を忘れるから」

「ジャックさんが、気にしてくれたの」

「――ジャック? ああ……あの、帰りにいた男か。気が利く男だな」


(なんだ。別にジャックさんに悪い感情なんて持ってないじゃない。しかも、ジャックさんのことも認識してなさそうだし。やっぱり、レスターに睨まれるなんて、またエルトン様の勘違いね)


サラが思い出し笑いをしていると、「どうかしたか?」とレスターが尋ねた。


「ううん。さっきエルトン様が、私と話しているとレスターに睨まれるとか言って来たんだけど。また、エルトン様の勘違いだったんだなって思って。レスターが男色だって言う話も思い込みだったでしょう」


笑いながらレスターを見たが、レスターは真面目な顔つきでサラを見た。


「――それは思い込みじゃない」

「え?」

「サラに近付く男は、牽制している」

「牽制……?」


きょとんとしたサラに、当たり前だと言わんばかりにレスターは腕を組んだ。


「俺は君の夫だ。君に近付く不届きな輩には目を光らせて当然だろう」

「不届きって。……もしかして、レスター、ジャックさんのことも睨んだりしてないよね!?」

「……帰りにいた男か?」


サラが「うん」と頷くと、レスターは「覚えていない」と答えた。


「が――、サラと適切な距離を保っていない場合は、分からない」

「適切な距離って……一体何なのそれ。ただの職場の同僚なのに……」

「君はそう思っていても相手がそう思っているか分からない。現に君はエルトンに気を許し過ぎている」


レスターは厳しい目をサラに向けた。

エルトンに抱きかかえられていたところを見られたからだろうか。

彼を妙に警戒している気がする。


「エルトン様とレスターって仲悪いの?」

「そういうことではない」

「だって……」


(レスターって本当にお兄さまを上回る心配症っていうか、過保護っていうか……。こんな風に男性に構われるのなんて、初めて過ぎてどうしたら良いのかよく分からない)


「エルトン様は……なんていうか、ああいう方だから」

「ああいう方だろうが、こういう方だろうが関係ない。君は警戒心が薄いようだから、俺が警戒してちょうど良いバランスだ」

「でも――エルトン様は、私に特別な感情は抱いていないのに……そんな態度取ったら失礼じゃない?」

「大体はエルトンの方が失礼だから問題ないし、そんなことを気にする人間でもない」


取りつく島なくレスターは答えた。


「まあ、それは、確かに……。でも、ジャックさんは? さっきレスターが言ったとおり気が利く親切な先輩なのよ。今回の仕事も手伝ってくれているし。ジャックさんにも、レスターのことを悪く思ってほしくないし……」

「……別に俺は他人からどう思われようが気にしていないが……――」

「レスター」

「――……善処は、しよう」

「ありがとう、レスター」


サラはきゅっとレスターの腕を握った。

レスターは、はぁとため息をついた。


「俺は君に振り回されてばかりだな」

「そんなこと……」


◇◇◇


「そんなこと……絶対にない」

「何が?」


主寝室でサラを膝に乗せながら、レスターの手がサラの素足を這った。


「やっ……ちょっと、レスター。今日は何もしないって……言ったのに」

「別に何もしていない。それより、薬品の精製は順調なのか?」


レスターはサラの内腿を撫でながら、話を続けようとした。


(その手が……――。どこが何もしてないのよぉ……)


「薬は順調だけどっ……、やあっ……。聞く気ないでしょ……」


レスターの手はサラの敏感なところは敢えて避けるように周辺を撫でたり、首筋や耳に吐息を掛けたりした。


「そんなことない。王太子もサラの開発した新薬の効果には相当驚いていた。君の薬が国中の人の助けになるのは、夫としても鼻が高いな」


レスターは涼しい顔で今日の会議の話を続けながら、サラの身体を知り尽くしているような動きでサラの身体を刺激した。


「レスター! もうやめてってば」

「別に変なところは触ってないだろう」

「さっきから、意地悪ばっかり……」

「――意地悪されているのは俺の方だ」

「私は何も……」


レスターはわざとらしくため息をついた。


「俺はサラの身体のことを思って、今日だって我慢しているんだ。少し君に触れたいだけなのにそれも咎められて……」

「だから……触り方が――」

「……なんか、問題あるか?」

「分かってるくせに……」


レスターの優しい愛撫に刺激されたサラの身体は、もっと強い快楽を求めていた。

熱情ですっかり潤んだ瞳のサラは、レスターを見上げた。


「ん?」

「……ちゃんと、触って」

「触って、いいのか?」


レスターは、罠にかかった獲物を見つけたようにニヤッと笑った。

サラはそんなレスターを睨みたいと思ったが、それよりも自分の身体の熱をどうにかしてほしくてコクンと頷いた。

レスターは愛しそうにサラの顔を撫でると、そっとサラをベッドに押し倒した。


「レスター……あの、明日も、仕事……だから」


恥ずかしそうにそう告げるとレスターは妖艶にほほ笑んだ。


「大丈夫。少し触るだけにするから。今週はサラの仕事が忙しいのは分かっているし、ちゃんと次の休みまで我慢するから」


作戦が成功したレスターは、嬉々としてサラの上着のボタンに手をかけた。


(もう、絶対振り回されているのは、私じゃない!)


すっかりレスターに翻弄されて、意のままに動かされてしまったサラは、内心レスターに毒づいていた。

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