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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第69話 王太子主催の会議

王太子レオン主催の緊急会議には、1課長、3課長、ロージャー団長、レスター、新薬開発チームからはマチルダとエルトンの出席が許された。


「ベアロスの傷薬の開発について、開発チームから説明を頼む」


レオンがそう請うと、代表してマチルダが口を開いた。マチルダは王太子を前に緊張していたが、立ち上がると配布資料に目を通しながら要点を簡潔に説明することに努めた。


「この薬の開発者は、サラ・ジャスミン・ヴィヴィアンです。通常の傷薬にベアロスの肝臓を乾燥・粉砕させて練り込んでいます。騎士団の治験結果によると、先日の魔獣討伐の際の傷跡が全て治癒しただけではなく、古傷にも効果があったとの報告を受けています。また、治験に協力していただいた騎士は5名ですが、現段階では全員副作用もない状況です」


マチルダが着座すると、レオンは「ふむ」と頷き、レスターを見た。


「レスター、君は実際に治験を受けた当事者だろう? どうだった?」

「治癒魔法と同等――あるいは、それ以上の治癒力を感じました。古傷にまで効くのは、相当魔力量の高い治癒者にしかできません」


レスターの言葉を受けて、レオンの言葉が鋭く光った。


「治癒魔法以上の、治癒力か……。――……すさまじいな。正直、厄介でもあるが……」


レオンの言葉に、議場が静まった。この会議に集まった皆が、この薬の扱いに戸惑っていた。


「だが、新薬が流通すれば、多くの人間が救われる」


深刻な空気になった場を壊すように、エルトンが発言した。

水色の瞳は、王太子に恐れることもなく、いつもの飄々とした様子のままだった。

レオンもエルトンという男を理解しているのか、彼の不敬を咎めなかった。


「一国レベルの話じゃない。他国も喉から手が出るほど欲しがるだろうな。そうなった場合、どういうことが想定される?」


王太子はロージャー団長に水を向けた。


「新薬を巡って国のパワーパランスが変わる可能性があります」


王太子はロージャーに頷き、次を促した。


「輸出で経済的に潤うことも考えられますが、技術者の奪い合い、素材になる魔獣を巡る無茶な狩りが横行することも想定されます。場合によって、新薬が国家間の火種になることも――。治癒魔法師が不足しているのは、どの国も同様の状況ですから」


レオンは、はぁ……とため息をついた。


「ただし、うまく使えば、この国の外交カードにもなるだろうな」


レオンの瞳に鋭さが増した。


「製薬方法は秘匿し、まずは国内に流通させよう。流通先は騎士団、診療所、薬問屋を中心とする。他国への輸出や技術協力はその後検討するということでどうだろうか」


参加者に異論はなかった。


「3課長、現在開発中の新薬ですぐに流通できるものと、生産可能量を明日までにまとめてくれ。素材となる魔獣が不足するということであれば、騎士団と連携して進めてくれ。1課長は3課への技術協力を継続してくれ。新薬の増産に手が増えるようであれば、この業務を最優先に」


レオンはそれぞれに指示を出し、会議は終了となった。


◇◇◇


「なんか、こういうの、久しぶりね」と、マチルダはヴァルグの角を焙炒させながら言った。

定時を回っても3課職員はほぼ全員が残っていた。皆ひたすらに薬草や魔獣の下処理を行っていた。王太子の会議後、課長から説明があった。


「魔力量が高いのはベアロスだけど肝臓は2つしかないので、ヴァルグのものも使えば傷薬の生産量はかなり上がるんじゃないかと思います」

「傷薬は需要が高いから一般に流通させたいですね」

「多少効果は下がるかもしれないが、ヴァルグの魔力量も十分だ。それでまずは試作しよう」

「角や骨は魔力属性だけは気をつければ、あとは拘り過ぎない方が良いかもしれませんね」

「そうだな。回復薬は1課の魔導士に協力を得よう」


生産体制を確立させるために課内で話し合い、新薬開発チームが試作した「傷薬」「鎮痛剤」「回復薬」を流通させる商品とすることにした。

サラは傷薬生産のチーフとして取り組んでいた。聖水に付け置きした魔獣の肝臓をエルトンに水分吸着してもらい、ひたすら細粉を続けている。


「なんか、同じ動きばかりでさすがに腕が疲れて来たね」


サラの作業を手伝ってくれているジャックはサラより2つ年上の職員だ。

いつも穏やかで癒し系の彼は、「少し休もうか」とサラにも休むように声をかけてくれた。


「あっ! すみません、ジャックさん。何も気が付かなくて……」

「サラは作業を始めると周りが見えなくなるからなぁ」


笑いながら、ジャックはお茶を入れて休憩を促した。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「いいえ。肝臓の下処理は半分くらい終わりそうだね」

「ジャックさんのおかげです」

「この調子だと1週間以内にはできそうだね」

「はい」

「まぁ、僕はいくら残ってもいいんだけどさ、サラさんはあまり遅くならない方がいいんじゃない? 副団長も心配するんじゃない?」

「レ、レスター……ですか?」


(そういえば、遅くなるとか言ってなかった。けど、レスターも会議に出席するって言っていたし、状況は多分分かっていると思うし……)


サラの顔色で何かを察したのか、「早く帰った方がいいよ」とジャックは後押しした。


「えっと……じゃあ、少し区切りの良いところまで……」


ジャックと少し休憩したサラは、話した通り肝臓の下処理を半分した頃に作業を終えた。


「じゃあ、そろそろ帰ろう。遅いから送って行きたいところだけど……」

「止めた方がいいぞ」


ちょうど回復薬作りの補助を終えたエルトンがジャックに言い放った。


「エルトン様……」


別にジャックに送ってもらいたいわけではないが、エルトンの言葉は引っかかった。


「何なんですか、その言い方は……」

「何って、君の夫に恨まれると面倒だからな」


エルトンの言葉にジャックも苦笑いした。


(え? ジャックさんもそう思っているってこと?)


「……レスターはそんな人じゃありません」

「君にはな。君と少し話しただけで、睨まれるこっちの身になってくれ」

「そんなこと……。え? ジャックさんも、そう思っているんですか?」

「いや、その――。僕はそこまでではないけど……」

「けど……ってことは、そういうことが……?」


そうサラがジャックと話していた瞬間、3課の扉が開いた。


「噂をすればなんとやら……」


エルトンが扉を開けたレスターを見て、そう呟いた。

レスターはエルトンを見ると、確かに嫌な顔をした。


「エルトン先輩もいたんですか」

「王太子命令だ。仕方ないだろう」


なぜかジャックがそっとサラと距離を取っていた。

レスターは愛想笑いを浮かべるジャックをちらっと視界の端に止めたが、特に何の反応も示さなかった。帰り支度をしていたサラには「もう作業は終わったのか? 帰ろう」と笑顔を向けた。


(レスターがエルトン様を嫌がるのは、単に仲が悪いからじゃないのかしら?)

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