第67話 騎士団の治験
エルトンのおかげで全てが異常にスピーディに進んでいる。
あの後、本当にすぐにハンネス様を呼び出し、傷薬を鑑定してもらった。
特に毒性は見られなかったので、課長にお願いして騎士団への治験の申し入れを行った。
数日かかるものかと思っていたが、押しの弱い課長はエルトンの圧にすぐに団長室へ赴かされ、決断の早い団長はあっさり承諾。
そして――。
診療所には、先日魔獣討伐に赴いた騎士たちが集まってくれていた。
サラのサポート役としてマチルダが、見学ということでエルトンが同行した。
「本日はお忙しい中、治験にご協力いただきありがとうございます」
サラは騎士たちに挨拶をし、サラは新薬の説明をした。サラの話をレスターも一緒に聞いてくれている。
(仕事をしているところをレスターに見られると……なんか、恥ずかしい)
「ベアロスの傷薬か。なんか、凄そうだな」
「俺たちが狩って来た魔獣が、さっそく薬になっているのか」
「昨日の回復薬もすごい効果で助かりました」
騎士はサラの一通りの説明を受けて、全員が治験に協力してくれることになった。
「じゃあ……」
サラとマチルダは、騎士たちの患部を観察、確認して薬を塗布することにした。
サラはマチルダに促されて、まずはレスターの傷跡を確認することにした。
仕切りのカーテンを閉めていると、レスターは上半身の衣服を脱いだ。
サラはそんなレスターの姿に少し顔が赤らんだ。
(これは……嫌らしいことじゃないのに。レスターの身体を見ると、色々思い出しちゃう……)
サラは慣れないポーカーフェイスで、レスターの傷口の状況を確認した。
「あれ? 昨夜より回復してる?」
昨夜部屋で見た生々しい傷口が、回復し始めている。
(自然治癒にしては……さすがに早い)
「ああ。もしかしたら、回復薬の効果かもしれない」
「回復薬の……」
「治りが遅かったら、1課に頼んで治癒魔法でも掛けてもらおうと思っていたんだ」
「そうだったの」
「ああ。今夜もお預けをくらったら困るからな」
レスターはサラの耳元にそっと囁いた。
「お預けって……そんなんじゃ」
レスターはカーテンが閉まっているのを良いことに、サラの首筋にふっと息を吹きかけた。
「やっ……」
サラはレスターのちょっかいに反応し、鋭い目でレスターを睨んだ。
しかし、レスターはそんなサラの視線を呆れた様子で受け流し、再び耳元で「嫌なのは俺の方だよ、サラ」と囁いた。
「もう、レスター」
「この調子だとこのまま放置してもすぐ治るかと思っていたが、ベアロスの薬まで作ってくれたんだったら完治するかもしれないな」
レスターはにやっとサラに微笑んだ。
サラはその笑顔に「うっ」と怯みながらも、レスターの傷跡に丁寧に傷薬を塗り込んだ。
「ん? なんか……」
「どうか……した?」
レスターは傷薬を塗った瞬間、眉根を寄せた。
(何か、副作用!?)
「すごい……」
「え?」
「薬が塗布されたところが……熱い……。なんだ、これ?」
カーテンの向こうからも、騎士たちが困惑した声が聞こえる。
「サラ! すごいわよ! 傷が急速に塞がっている!」
マチルダの驚きの声が響くのと同時に、レスターの傷跡もどんどん回復していくのが分かった。
「古傷まで……」
念のため塗った古傷にも効果があるようだ。
エルトンは無遠慮にカーテンを開け、レスターの傷の回復状況を確認しに来た。
「すごいな。この効果は――。治癒魔法に匹敵……いや、もしかしたらそれ以上かもしれない」
サラは想像以上のベアロスの魔力の残滓に瞠目していた。
(ベアロスの魔力が凄いのは分かっていたけど……まさか、これほどとは――)
「ベアロスの傷薬」を塗布した傷跡は、見事に全員が回復した。
◇◇◇
(何度見ても、信じられない)
サラは寝室でレスターの胸に手を触れていた。
「本当に、昨日の傷跡が消えている。古傷もほとんど消えたみたいにきれいな肌だわ」
「サラのおかげだ。部下たちもみんな喜んでいたよ」
「本当に良かった。私も、急な治験なのに皆さんに協力してもらって本当に助かったわ。この後も副反応とかがないかしばらく協力してもらうことになると思うんだけど……」
「そんなのはお安い御用だ。それにしても、古傷にまで効くとなると――かなり広範囲に需要がありそうだな」
サラはコクンと頷いた。
(ちょっと想像以上の力だった……。あんなに効き目が出ると……――)
サラは早々に成果が出た喜びと、言い知れぬ不安を抱えていた。
「サラ、何か心配している?」
「あ……うん。ちょっと想像以上の効果だったから」
「そうだな。まあ、今日の治験については関係者には厳戒令を布いた。まあ、この情報はとりあえず黙っていた方が良いかもしれないな」
レスターはサラの不安を察して、そう言いながら頭を撫でた。
(やっぱり、レスターも危険だと思ったんだ)
この世界では治癒能力が使える光魔法を使用できるものが重宝されている。
それだけ治癒能力が重用されているということだ。
この薬の存在を知られれば、国内外で喉から手が出るほど欲しがる人間が出るだろう。
そのとき――……どうなるだろうか。何が起こるだろうか。
もちろん薬によって助かる人が増えるのは嬉しいけど。どうしたって薬には限りがある。
最悪は薬を巡る争いなどに、発展しないだろうか。
「サラ、確かに心配はあるが……君の薬に救われる人がこの世界にたくさんいるのは間違いない。この薬を使って、国力を高める方法だって考えられる。そういうことは、為政者に平和的な案を出してもらうしかない」
レスターはサラを安心させるように、穏やかに言った。
サラはレスターの瞳を見ていると、不安が徐々に霧消していく気がした。
「何があっても、必ず、俺が君を守るから、君は安心してほしい」
レスターはサラをきゅっと抱きしめた。
レスターの暖かな胸に抱かれていると、胸が温かく、穏やかになるのを感じた。
(レスターがいてくれるって、本当に心強い……)
「それに、サラ――」
「なに?」
「俺も今日は、我慢はできないから」
「え?」
サラを抱くレスターの腕の強さが力を増した。
「昨夜だって、お預けさせられたし」
「お預けって……。だって……あれは――」
「分かっている。君は心配してくれただけだって。でも、本当に、身体は何でもなかったんだ。むしろ回復薬で元気だったくらいだ」
「そ……そうだったの」
「でも――君が、安静にしろって言うから……言うことを聞いたんだ。だから――」
レスターの声が掠れた。
「今日は、俺の言うことを聞いてほしい」
「……言う、こと?」
「明日は休みだろう?」
「う、うん」
サラは以前レスターが言っていたせりふを思い出していた。
「今日こそ、満足するまで君を抱きたい」
レスターはサラの髪に口づけしながらそう言った。
サラはそんなレスターに全身の熱が急激に上がるのが分かった。
(なっ……なに、その、とんでもない色気……)
レスターはそのままサラをベッドに押し倒し、サラの夜着をはぎ取った。
今日はレスターの胸に生々しい傷跡もないので、サラに中断を言い渡されることもない。
サラもレスターの首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「レスター、私も……ずっと……してほしかった」
レスターの瞳が獰猛な獣のようにギラッと光ると、サラの唇を激しく貪った。
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