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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第64話 魔獣討伐

王都付近の市街の森に向けてレスター一団は馬を走らせ、明け方には魔獣出没が相次ぐ森へと入った。


(薄暗いな……――)


森に入った瞬間、朝であることを忘れそうな暗さだった。

重なり合うように生い茂る木々が、本来森へ入る日の光を遮るような暗さを醸し出していた。風が吹き、草木がカサカサと音を立てていた。リスが音もなく木を渡ったかと思うと、大木の影から巨狼(ヴァルグ)が現れた。


風の刃(ウインドエッジ)


レスターはすかさず魔獣を風圧で吹き飛ばした。

巨狼(ヴァルグ)は、大木に身体を打ち付け倒れた。

レスターは倒れた巨狼ヴァルグに近付くと、剣で身体を貫いた。


レスターは暗くて見えない森の奥を見つめた。

後ろに控える部下たちに「気をつけろ。血の臭いに惹きつけられている。群れで来るぞ」と声をかけた。

今回は少数精鋭で向かったため、レスターを入れて5名の騎士たちが緊急討伐に当たった。

騎士たちが剣を構えようとした瞬間――レスターたちを狙っていたかのような巨狼ヴァルグの群れが一斉に襲い掛かって来た。

巨狼ヴァルグを討伐していると、3メートルほどある熊王(ベアロス)を、レスターは一太刀で切りつけた後、再び風魔法で吹き飛ばし気絶させた。振り返ると、部下たちも攻撃魔法や剣で巨狼ヴァルグの群れに対抗していた。


部下の一人――火魔法を得意とするラリーは、掌に炎を揺らめかせていた。


「ラリー! 火魔法は使うな!」


レスターから急な指示が飛び、「炎弾(ファイヤボール)」を使おうとしていたラリーは掌を握りしめた。その瞬間、襲い掛かって来た魔獣をレスターが「氷の槍(アイススピア)」で魔獣の喉元を氷で貫いた。


「よし――」

「副団長、すみません。ありがとうございます」


レスターたちの周囲には大型魔獣の遺体が既に5頭が倒れていた。


「いや、ラリー。急にすまなかった。お前の火魔法の腕は分かっている。森の延焼に至るテクニックだとは思っていない。ただ今回は『炎弾(ファイヤボール)』で、魔獣を灰にされるわけにはいかないからな」

「……魔獣を燃やしては――なりませんでしたか?」


ラリー以外の部下も、レスターの発言にきょとんとした。


(今まで、そんなことを気にしたことはなかったのに……)


「ああ。ちょっとこの魔獣を使いたいという要請があってな」

「魔獣を使う?」

「3課が新薬開発に使うらしい」


レスターは嬉々とした様子で倒れた魔獣の角や内臓を手際よく解体している。


(3課の新薬開発ということは……)


ラリーは妙にウキウキした様子で魔獣を解体するレスターの姿を見て、ピンと来た。

副団長付きであるラリーはレスターの執務室の事務作業も多く、婚約をした際から「サラさまの対応」についても指示を受けていた。


(そういう、ことか……)


ラリーは「鬼の副団長」と言われるほどに厳格なはずの上司(レスター)が、今や愛妻(サラ)に甘すぎることに苦笑をしながらも、上司の新たな一面を微笑ましくも思っていた。


(妙に張り切っていると思ったらそういうことか……)


「……お前たちも、魔獣の解体をするぞ」


ラリーは、嬉しそうに魔獣を解体するレスターに瞠目している騎士たちに声をかけた。

ラリーの声掛けに、ハッとして騎士たちは魔獣の解体を慌てて始めた。


「これで終わりか?」


レスターは妙に残念そうな声で森の奥を確認した。


「種類が違うのがまだいるといいんだが……。もういないのか」


緊迫の緊急招集を受けたはずのレスターは、妙に楽しそうに魔獣を探していた。


(この前も奥さまに会いたい一心で魔獣を殲滅させるし、本当にとんでもない上司だ……)


「ああ、ラリー。どの魔獣か分かるようにしておいてくれ」

「承知しました!」


ラリーは騎士たちに指示を出し、魔獣を種類ごとに分別していた。


◇◇◇


「そっか。この前遠征から戻って来たばかりなのに、忙しいわね」

「うん……」


サラは薬草の鍋を掻きまわしながらマチルダに答えた。


「まあ、アイツのことだ。殺しても死なないだろう」


エルトンは鍋に魔力を込めながら、軽口を叩いた。


「エルトン様、どういう意味ですか?」


サラはエルトンを睨んだ。


「どういう意味も何もそのままの意味だが――。ああ、多少怪我をして戻って来れば、新薬の効果も確認できて良いんじゃないか?」

「エルトン様、冗談にもほどがあります」


(この前は、診療所に負傷した騎士たちが溢れていたっていうのに……。今回は5人部隊で向かったって言うし――。前より危険から知れない……)


暗い顔をしたサラを見て、エルトンがパッと目を開いた。

水色の瞳がサラを捉える。


「そんなに心配しなくても大丈夫だろう。この前だって、ヤツは無傷だったじゃないか」


(エルトン様なりの……慰めだったのかしら――)


「それは……そう、ですけど――」


遠征が危険を伴うことは、サラだって知っていた。

ましてや、レスターは責任感の強い性格だ。


(任務をやり遂げるために、無茶をすることだってあるかもしれない)


そう思うと、大丈夫だろうという思いと、消せない不安が入り混じった。


「よし、こんなもんだろう」


サラたちはさっそく、フライング気味にエルトンの協力を得て、新薬開発に乗り出していた。


「まだ1課の課長に話を通していないんだけど……」


3課に現れたエルトンを見て、3課長は戸惑ってマチルダにそう言った。

が、エルトンは「1課長には私が話しておいたから問題ない。試作は早いにこしたことはないだろう」という強引なせりふに、押しの弱い3課長が否と言えるわけがなかった。

エルトンの登場により、3課の新薬の試作は急遽始まっていた。

サラとマチルダは小瓶に新たな回復薬を詰めた。


「見た目の変化はなさそうね」

「魔力量や質を変えると、どのくらい効果が変わるのかしら」

「やっぱり、レスターたちがボロボロで帰って来れば効果の違いが分かりやすくていいんだがな……」

「――……エルトン様」

「冗談だ、サラ。それに帰還にはもうすぐかかるだろう」

「副団長たちの帰還、いつ頃になるかしらね」

「うん……」


マチルダとサラは新回復に製造印と試作用のマークをつけながら、緊急の魔獣討伐について考えていた。

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