第61話 甘えるサラ
「魔獣を薬に……そんな価値があるのか?」
レスターはマチルダの説明を聞いて、不思議そうな顔をした。
4人の視線がサラに集中した。
「それはまだ分からないんですが――」
サラは以前読んだ論文の話を思い出していた。
「東国では角や胆のうなどが活用された薬の例もありますし、魔獣自体は魔力を秘めている生物でもあるので実験してみる価値はあるかと思いまして……」
(前世では漢方なんかでも、活用されていたし)
「回復薬にも魔力を込めているしな」
エルトンはサラの説に同意した。
「よくそんな発想が……」
レスターがサラの話を聞いて思わずぽつりとつぶやいた。
そのつぶやきが聞こえたエルトンがレスターの肩をバンッと叩いた。
「そうなんだ! お前でも分かるか。サラの発想力の面白さが!」
「サラの魅力はエルトン先輩に言われなくても分かっています」
「なんで怒るんだ? 褒めているのに。よく分からない男だな」
「あなたに分かってもらいたいとは思っていませんから」
マチルダは相変わらず空気を読まないエルトンに呆れながら、レスターに「正式には課長が会議でお話するって言っていたので」と伝えた。
「そうか。まあ、騎士団としては断る理由はないな。魔獣の処理方法も課題になっていたし。活用方法があるなら、越したことはない」
「そうですか! 良かったわね。サラ」
マチルダははじける笑顔でサラを見た。
(新薬開発は順調に協力者を得られそうだし……レスターと仕事上の接点が増えるのは、嬉しいかも)
サラはワインを飲みながら、隣でエルトンと口論を続けるレスターをぽやっとした目で見ていた。
(今日は……一緒に寝るわよね)
サラはレスターに身体中に口づけされたことを思い出していた。
本当に隅々までレスターに見られて、口づけをされた。
(恥ずかしかったけど……レスターに大切されている気持ちで満たされて……すごく、気持ちよかった。あの日は口づけだけって言って終わったけど、今日はどうするんだろう? もっと……するのかな……)
サラはレスターを見ながら、今夜のことを妄想していた。
「サラ?」
ぼんやりレスターを見ていたサラの前に、エルトンの顔が現れた。
エルトンの水色の瞳に、ぼんやりレスターを見つめる自分が映っていた気がしてカァと赤くなった。
「大丈夫か? ボーッとして。酔ったのか?」
「え……あ――」
いつの間にか、エルトンとレスターの口論は終わっていたらしい。
二人がサラを見つめられていた。
「いえ。その……ちょっと、考え事を――」
「そうか?」
「エルトン先輩、あんまりサラの顔を覗き込まないでください」
「なんだよ、心配しているだけだろう」
「俺がいるんで大丈夫です。それより、あなたは人との距離感がおかしいんですよ」
「なんなんだよ、くだらないことで一々突っかかるなよ」
「もう、お二人もいい加減にしてください」
デリックが仕方なく二人の仲裁のために間に入った。
マチルダはサラに「大丈夫?」と声をかけ、水を頼んでくれた。
「マチルダ、ありがとう」
サラは申し訳なさを感じながら、水を飲んだ。
(ただ……妄想していただけだなんて……言えない)
◇◇◇
「サラ、本当に調子は大丈夫なのか?」
「はい。もう、全然……。ごめんなさい。レスター」
(そもそも、あんなに顔が赤くなっていたのは変な妄想していただけだし……。本当に人騒がせなことをしてしまったわ)
帰りの馬車の中で、レスターはサラの様子を気にかけた。
「ごめん。俺ももっと注意して見ていればよかった」
レスターが眉根を寄せて、サラの赤らむ頬に触れた。
「そんな――。お酒を飲み始めたばかりとかではないんだから……。レスターは関係ないわよ」
「でも……」
「それに、本当は違うの」
本当に自分を責めていそうなレスターを騙し続けるのは、良心が痛んだ。
「え?」
「あんなに……顔が赤くなったのは――。その……レスターを見ていたら、色々思い出しちゃって……それで……」
サラは頬を赤らめながら、レスターに白状した。
「――え?」
サラはレスターの腕をきゅっと抱きしめた。
レスターは急なサラの積極的な行動に驚いていた。
(本当は……ずっとこうやって触りたかった。ああ、レスターの腕の固さを感じて、気持ちがいい。今日はレスターに抱きしめられて寝たい)
「今日は……一緒に寝るで……いい?」
サラは甘えるようにレスターを見上げた。
そんなサラの仕草に、レスターの頬が少し赤らんだ気がした。
レスターはサラから少し目を反らすと「あ……ああ」と言った。
「……早く……着いてほしい」
「サラ、あまりかわいいことを言わないくれ」
「だって――」
(一日中、レスターのことが頭から離れなかった。もっと……レスターと触れ合いたい)
サラはようやくレスターと思いが通った嬉しさに満たされていた。
(ずっと片思いだと思っていたのに、レスターが私をずっと好きでいてくれたなんて……)
目が覚めたら「嘘だった」となってもおかしくない。
レスターと触れ合っている瞬間は、不安は消えて心が満たされた。
(レスターの腕、あったかい)
「その……」
レスターはサラをチラッと見て、言いにくそうに口をつぐんだ。
「どうかした? レスター」
サラは夢見心地で、レスターの腕に自分の身体を預けていた。
「サラ」
レスターの声が少し固かった。
「何?」
どうしたのだろうかと見上げると、レスターは少し緊張した顔でサラを見ていた。
「あの夜着なんだが――……」
(あの夜着というのは、あの初夜の夜着、ということよね……)
「今日は……あれを着た君を見たいんだが……。いいだろうか?」
レスターは熱っぽい視線でサラを見た。
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