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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第52話 レスターの帰還

「そんなに細かく粉砕させるのね」


先日のマチルダの提案が、さっそく課内で実現した。

小規模なものだが、製造薬の技術を高める研修を行った。

お互いの作業工程を確認するという簡単なものだが、単純だからこそ発見も多かった。

サラの薬草の刻み方、粉砕の仕方は、同課の職員にとっては興味深いものだった。


「粒の大きさを均一化できると、成分のバラつきがなくなるので。私はなるべく細かくするようにしています」


サラがそう答えると「へぇ~、私は規定程度でやっていたからこの細かさは驚きね」という声が上がった。その声に同意するように「均一化した方が製品の質が安定するんでしょう?」「でもここまでやっていたら時間がかかって仕方ないんじゃない?」など、様々な声が飛び交った。


「確かに慣れるまではこの粒子を目指すと大変そうね」


マチルダは心配そうな職員にそう声をかけながら、「サラ、でもあなた回復薬作りにそんなに時間かかってないわよね?」と言った。


「そうですね。やっぱりこれは慣れの問題かもしれません。最初は少し手間ですが……」


サラがそう答えると「なるほどね」、「ちょっと試してみようかしら」などという声も上がり、とりあえず第1回研修会はお開きとなった。


「サラ、ありがとう。みんな勉強になったわ」

「ううん。これで課内全体の品質アップにもつながったら、私も嬉しいわ」


サラはそう言って微笑んだ。


(やっぱり、薬作りは奥深くて楽しいわ)


サラはそう思いながら、今日のノルマ分の製造に取り掛かった。


(もうすぐレスターも帰って来るし……。2週間なんてあっという間だと思っていたけど……。前も思ったけど、レスターがいない時間は長く感じる。『早く帰る』って言ってたけど、今回は予定通りなのかも)


サラはレスターが早く帰ると言ったので、約束の日よりも前に帰るものだと思い、帰りを待ちわびていた。サラのそわそわは、ナタリーにも伝わってしまい、「奥さま、もうすぐお帰りだと思いますよ」と毎日のように声をかけられていた。


(明日が帰還予定日――。色々思うことはあるけど……やっぱり、早く会いたい)


サラがうきうきしながら回復薬を作っていると、課長が眉間にしわを寄せて皆を招集させた。


「今回の魔獣討伐隊だが、怪我人が多いようだ。帰還予定日も遅れる見込みで聞いている」


課長の言葉に、サラの身体が冷えてゆくのを感じた。


(怪我、人……? 帰還も、遅れる?)


微かに震えるサラの手を、マチルダがぎゅっと握った。

マチルダを見ると「大丈夫よ」と言っているような力強い目をしていた。


「回復薬はもちろんだが――……さまざまな状況に対応できるよう、薬のストックを用意しておく必要がある。急で申し訳ないが、今日は可能な限り残業をお願いしたい」


課長の申し出に否を唱えるものはいなかった。

サラはレスターたちの無事の帰還を祈りながら、薬の精製に力を尽くした。


(私にできることは、これくらいしかないんだから……)


製薬に没頭していれば、不安になる心も紛れていた。


◇◇◇


レスター達の帰還の報せは、予定より2日後のことだった。

事前の報せに合ったように怪我人が多い。診療所に次々と騎士たちが運び込まれていた。

サラはその騎士たちの中にレスターの姿を探していたが、一向にレスターは現れない。

運ばれている騎士団に指示をしている団長の姿を見つけて、サラは思わず駆け寄った。


「あの……レスターは――」


それどころではないと思いながらも、我慢ができなかった。

団長はサラの姿を見ると、安心させるように微笑んだ。


「サラ、心配いらない」


そう団長がサラに告げた瞬間、レスターが診療所に現れた。

怪我をした騎士を背負いながら入って来た。


「レスター!」


いまはいけないと頭では分かっているのに、サラは思わずレスターに駆け寄った。


「サラ……」


レスターはサラに気付き小さく微笑んだが、すぐにきゅっと口を結ぶと怪我をした騎士を診療所に運び込んでいた。

騎士を診療所のベッドに寝かせたレスターは、サラの方にパッと駆け寄った。


「心配させてすまない。とりあえず俺は大丈夫だ。君のお守りのおかげだ」


そう言ってサラの頭を撫でた。

最近は子ども扱いされているようで嫌だと思っていたのに、レスターに頭を撫でられた瞬間、安心して身体の力が抜けて行くのが分かった。


「ごめん、サラ。まだ運ばなきゃいけない騎士がいるから」


そういうと、レスターは診療所をあとにした。

サラはレスターの後ろ姿を見て、診療所の中を見た。外傷で苦しむ人が多い。

既に1課の職員が総動員で治療に当たっていた。その中にはエルトンもいる。

サラは3課に戻ると、外傷薬を抱えて戻った。他の3課の職員も、ありったけの薬を持参していた。


「エルトン様、軽傷者は外傷薬で対応しますね」


重傷者の治癒に集中していたエルトンは、サラの声掛けで周囲の状況の変化に気が付いた。


「サラ」

「救護員の方がレベル別に腕に布を巻いてくれていますので」

「そうか」


珍しくエルトンも余裕をなくしているようだった。

次々と負傷した騎士たちが運び込まれている。


「サラ、私は天才ではあるが専門は水魔法だ。他のものたちも、それぞれ専門がある。みんなが光魔法の専門ではない。この数だと専門外の私たちの治癒は時間がかかってしまうだろう」

「はい」

「何か、良いアイデアはないか?」


エルトンは、サラを信頼してくれているようだった。

サラは診療所内をくまなく見た。


(前回の解毒と違って、今回は外傷者……。となると、やっぱり基本は……)


「エルトン様の水魔法は有効だと思います。それと――……風魔法の専門家は?」


この世界での治療は基本的には治癒魔法頼みのため、基本的な治療方法はあまり知られていない。


「エルトン様、外傷には傷を清潔に保つことが重要です。倒れている騎士たちの傷口に水魔法をかけて傷を洗浄することは可能でしょうか?」


エルトンはサラの提案に「ほぅ」と興味深そうに頷いた。


「水魔法で傷口の洗浄か。興味深いな。というと、風魔法では、この部屋の湿潤環境を整えればいいのか?」

「そうです。乾燥しすぎもよくないので、絶妙なコントロールが必要になります」

「なるほどな。それなら、中軽症者はその方法で初期治療を終えられそうだ」

「はい。その後、3課職員には外傷薬を塗布してもらいます」


エルトンとサラは、打ち合わせた内容をそれぞれの課の職員に伝えた。

やり方が決まったところで、エルトンは診療所内の軽傷の騎士に一度に水魔法をかけた。


(さすが……やり方が大胆だわ)


軽傷者の傷の洗浄を終えると、3課職員が外傷を確認しながら薬を塗布し、救護員が必要に応じてガーゼなどで傷を保護し、どんどん診療所の怪我人の治療をしていった。

怪我人を運び終えたレスターは、連携プレーが行われる診療所を驚いて見た。


「これは……」

「サラが1課のエルトンと協力して声をかけてくれたみたいだ」


レスターが驚いていると、様子を見ていた団長が教えてくれた。

先ほどまで不安に揺れていたサラは、今は懸命に騎士たちの治療に専念しておりレスターが戻って来たことにも気が付いていない。

レスターはそんなサラの姿を、まぶしく見つめていた。


◇◇◇


(なんとか……間に合った――)


3課職員が久しぶりの残業でストックした薬品は、見事に全て使い切った。

今回の魔獣討伐遠征の大変さがよく分かった。


(動いているときは気づかなかったけど、急に疲れが……)


各課の職員たちは、今度は後片付けにせっせと動いている。


(私も……片付け、手伝わないと――)


そう思いながら、サラは立ち上がったが、急激に疲れが襲い掛かって来たのか、ふらっと足が崩れた。


(あ……倒れ……)


そう思った瞬間、優しい風がサラの身体を起こした。


「あ……」


振り返ると、エルトンがいた。


「エルトン様」

「大丈夫か?」

「ありがとうございます。ちょっと急に疲れが……」


(エルトン様の魔法か……。エルトン様もお疲れなのに、本当に有難い)


照れたように笑ったサラを、エルトンは急に抱き上げた。


「きゃあっ」

「足がふらふらじゃないか」

「ちょっ……エルトン様。私は怪我人じゃないですから」

「そんな状態で何を言っている。どうせ昨日もロクに寝てないのだろう。クマができている」

「でも、こんな……。あ、マチルダ、マチルダを呼んでください。肩を貸してもらいますから」


(診療所に残っている人が少ないからと言って、こんな風に抱きかかえられるのは……)


サラは必死にエルトンの腕から逃れようとしたが、意外にもエルトンは力強かった。


「暴れるな。3課に連れていけばいいんだろう」


(こっ……このまま、王宮の廊下を……?)


「やっ、エルトン様。お気持ちだけで結構ですから」

「いいから」


そう言ってエルトンがサラを抱えたまま診療所を出ようとした瞬間、サラの身体がグイッと強い力で抱き寄せられた。


「エルトン先輩、私の妻がご迷惑をおかけしました」


(レ、レスター?)


レスターがエルトンの腕からサラを奪い取っていた。


「レスターか。なんだ、いたのか」


エルトンは突然現れたレスターにきょとんとした。


「妻を迎えに来ました。3課に行ったのですがいなかったので、ここに戻ってきて正解でした」

「そうか」

「サラ、大丈夫か? 疲れただろう。早く帰ろう」


サラの顔を覗き込むレスターの目は、サラを心配しているようだった。


「お前は大丈夫なのか?」

「私は大丈夫です。妻がくれた薬もありましたから」


レスターは淡々とした様子でエルトンと話しているが、やたらと「妻」を強調しているように聞こえた。


「じゃあ、サラ、帰ろうか。エルトン先輩も、お疲れでしょうから、ごゆっくりお休みください」


そう言って礼をするレスターの態度は、なんとなく慇懃無礼な感じもした。

お読みいただきありがとうございます。

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