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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第51話 愛のかたち

(考えてみたら、世の中は色んな愛に溢れているわ)


サラは小さな子の手を握る親の姿を、飼い犬を愛でる飼い主の姿を、愛ゆえに厳しく接する教師の姿を思い浮かべていた。


(私はレスターが好き。レスターも私を好いてくれている。それの何に問題があるのか。前世の結婚詐欺とは全然違うわ。少なくとも、レスターは私に愛しているっていてくれた)


別れ際、「愛している」と囁いたレスターの言葉を、何度も何度もサラは思い出していた。

色々な懸念を忘れて、身も心も溶かされそうな思いだった。

でも、少しすると冷静なサラが現れて、女性としての自分を拒絶された現実を思い出させる。

そして、1週間経ったいま――。

今までの悩みに終止符を打とうとしていていた。


(私、開眼したわ。好きな人が、私を愛していると言ってくれるなんて、何の不満が、不安があるというのだろう。本当、贅沢な悩みだったわ。できれば事情を話してほしかったけど、レスターのカモフラージュになれるなら十分すぎる。レスターが結婚してくれていなかったら、それこそ私は変態貴族と結婚していたかもしれないんだし。そこから救ってくれただけでも、大感謝だわ)


「サラ……なんか、また、変なこと考えていない?」

「変なこと?」

「サラの考える変なことは実に興味深い」

「エルトン様、そういうことじゃありませんから」

「デニスもそう思うだろう? 開発意欲が刺激されるというか」

「まあ、そうですね」


今夜は初めて、マチルダ、エルトン、デリックの3人と王都へ飲みに出かけた。

レスターが課長に物申してくれたことがきっかけで、3課は人が補充され今は課内全体の残業は劇的に減った。


(本当にレスターには感謝しかないわ)


そして、今日はエルトンの提案で、はじめて4人で出かけることになった。


(仕事に余裕ができたからか、色々前よりアイデアも湧いて来るようになったのよね)


4人とも割とオタク気質で、魔法や薬、魔道具のアイデアを話し始めると止まらない。

ただ、就業中はそんな話ばかりもしていられないので、エルトンが計画してくれたのだ。


「記録用の魔道具の発想も面白かった」


エルトンは感心したようにサラを見た。


「あれは……そういうものがあったらいいなって、デリック様に言っただけで、具現化しているデリック様がすごいんです」

「まあ、それは確かにそうだが、デリックを本気にさせるアイデアがすごいんだ」

「そう……ですか」


デリックはエルトンのお気に入りのようだ。

基本的には俺一番のエルトンが、デリックの能力は手放しで評価している。


(私のアイデアは基本的には前世の知識から来ているものだし……。私からしたら、エルトン様やデリック様はもちろんだけど、平民出身で狭き門をくぐり抜けて来たマチルダの能力も相当だと思うわ)


「ねえ、サラ。前に騎士団の方があなたの回復薬の効果について言っていたけど、回復薬製造中に何かしているの? 魔力の差とか?」


マチルダは興味深そうにサラに訊ねた。


「魔力? 興味深いな」


マチルダの問いかけに、エルトンは俄然興味を示した。


「いや、エルトン様、魔力は関係ないと思います。私、魔力量も質も平凡で……」

「まあ、いい。ちょっと、俺に魔力を送ってみろ」


エルトンは遠慮なくサラの手を握ると、目を閉じた。


(もう人の話を全然聞かない……。自分が納得しないと動かないタイプなのよね)


サラは内心ため息をつきながら、エルトンの手に魔力を送ることに集中した。

サラの魔力を感じたエルトンは、パチッと目を開けた。


「どうですか?」

「うん。平凡だな」


そう言って、カラッと笑った。


「マチルダもちょっと送ってみろ」


今度はマチルダの手を無遠慮に握った。

俺様な様子のエルトンに、デリックもサラもやや呆れていたが、なんとなく憎めない。


「うん。変わりないな」


エルトンはマチルダの魔力を感じて改めて言った。


「二人の魔力には大きな差はなさそうだ。何なら、魔力量はマチルダの方が多い」


(だから魔力の差じゃないって言っているのに……)


「じゃあ、薬の効果は魔力じゃないってことよね」


サラはこくんと頷いた。


「私は基本通りのレシピでやっているから大きな違いはないと思うんだけど――。その日の温度や湿度や薬草の状態によって、少し抽出時間とか、水分量とかを変えていたの。もしかしたら、そういう影響なのかも……」


製薬会社に勤めていた際の知識だ。

同じ材料でも、ちょっとした製造工程の差で効能が少し変わることがある。


(この世界でもそのやり方が有効なら、みんなと共有してもよいかもしれない……。今までは忙しすぎて、他の人とやり方を比べるなんてしていなかったけど……)


「そういう違いがあるのね。最近少し時間の余裕もあるし、研修をしても良いかもしれないわね」


マチルダもサラと同じことを考えていたようだ。


(こんな風に、少し話す時間があるとお互いの刺激にもなっていいわね)


何度目かの「乾杯」をしながら、サラは久しぶりに気楽なお酒を楽しんだ。


(マチルダ紹介のお店は、ご飯も美味しいし。今度はレスターと……)


気が付くと、またレスターのことを考えている自分がいた。


(折角忘れていたのに、また……)


サラの頭の中には、再び「早く戻る」と繰り返していたレスターの姿が浮かんだ。

ぽやんとしたサラの様子を見て、マチルダが「サラ、大丈夫?」と聞いて来た。

「え? あ、うん。大丈夫。まだ飲めるわよ」と笑うと、「……そうじゃなくて」とマチルダが心配そうにサラを見た。


「副団長のことで、また悩んでいるんじゃないの?」

「レスターだったら、まだ魔獣討伐中じゃないのか。帰りは来週くらいか」


魔獣討伐には1課の職員も同行するため、エルトンは騎士団の魔獣討伐のスケジュールには詳しい。


「はい」

「いないヤツのことを、何を考える?」


エルトンは本気でそう思っているのだろう。

きょとんとサラを見た。


(この人って……――)


デリックも、マチルダも、呆れた顔でエルトンを見ていた。


「エルトン様、好きな人のことは、離れていても考えるものですよ」


マチルダがそう窘めた。


「そういうものか?」

「そういうものです」

「でも、考えても仕方ないだろう。レスターが男色だというのは変えようが……」

「エルトン様!」


マチルダは無遠慮なエルトンの口を塞いだ。


「誰かが聞いていたらどうするんですか……。家じゃないんですよ」

「すまん」


デリックは3人の話題に怪訝な顔をした。


「副団長が……男色って――何かの間違いじゃないですか?」


デリックは小声でそう言った。


「お前はそういうことは何も分かっていないな」


エルトンは偉そうに、今までの経緯をデリックに伝えた。

一通り話を聞いたデリックは、「うーん」と考えていた。


「いや……やっぱり、その結論は……ちょっと、私としては違和感があるというか」

「違和感?」


マチルダは、デリックの言葉を繰り返した。


「なんというか……。副団長は、私とサラさんが同じ馬車に乗るのも警戒されていましたし、記録用魔道具の試用を頼まれたときも、サラさんを本当に心配しているように思えました。まあ……――夫婦生活のことは私にはよく分かりませんが……、そんな単純なものなんでしょうか?」


サラはデリックの述べる新たな説に縋りたいような思いにもなったが、「愛には色んなかたちがある」ということもまた事実で、安易にその説に縋りつける無邪気さは失っていた。

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