第50話 エルトンの見解
「アカデミーの頃から、ローレンスとは非常に仲が良かった」
(それは……私も知っているけど)
「思えば、二人とも28歳になるまで結婚をしていないのは珍しい」
エルトンも独身者であったが、自分のことは棚に上げて指摘していた。
「レスターは騎士団所属だろ? 騎士団は当然男所帯だし、いつもあえて男ばかりのところに身を寄せているようにも思える」
「そっ……そう、なんですか?」
「ああ、アカデミーのときも、女性が多い集まりには行ってなかったし、つるむのは男ばかりだったな」
(お姉さまとの噂もデタラメだって言ってたし……。もしかして、本当にお兄さまとはただの親友ではない……?)
「じゃ、じゃあなんで私と結婚なんて……」
「この結婚に対して、レスターのメリットは――……世間体だ」
「せ……世間、体!?」
「ああ。貴族社会は後継ぎ問題があるからか、いまだに男女間での結婚が重視される。仕事上でも既婚者が優遇されやすい。アイツは副団長だろう? そろそろ周りの圧が強くなっていてもおかしくない」
エルトンは顎に手を当てながら、サラにそう告げた。
「確かに……以前そういうことは、言っていました」
「そうだろう? 独占欲が強い男に見えていたのも、サラが他の男のもとへ行ってしまうとカモフラージュの役に立たないから焦っていただけだろう」
「カモフラージュ……」
「それに、男が好きだと仮定すると、女性的なアピールが逆効果になったのも、納得がいかないか?」
「ま……まあ」
(エルトン様の物言いは妙に説得力があるわ。マチルダなんて、完全に信じている目をしている)
「普通の男なら、初夜に妻に求められれば喜ぶ」
エルトンのド直球な言葉が、サラの胸に再び深く突き刺さった。
「それがそうならないというのは――……」
サラはすっかりエルトンの新説に、一理あるような気がしていた。
しかし、エルトンはサラの悩み相談を解決するよりは、自分の説を相手に信じ込ませることに成功したことに喜びを感じているようだった。
◇◇◇
「サラ、明日から魔獣討伐でしばらく家を空けるから」
(そうだ。魔獣討伐のスケジュールの関係で、結婚式も早めたんだったわ)
「うん。大丈夫。分かっているわ」
夫婦の寝室は夜に二人で話をするのには使っていた。
レスターとサラは、ベッドに並んで座った。
二人の距離は、こぶし2つ分は離れていた。
(あまり近づくとレスターが離れちゃうから……)
レスターは切なそうにサラを見つめると、頬を撫でた。
久しぶりに寝室でレスターに触れられたことに、サラは驚いて思わず身体がビクついた。
「あ、ごめん……。驚かせたかな」
レスターはいつもなら慌ててサラから手を引っ込めるのに、今夜はそのままサラに触れている。
(ど……どうしたの、かしら?)
「しばらくサラに会えないと思うと――……」
レスターはそうつぶやくと、サラの肩に自分の頭を寄せて来た。
(なっ……なに――!?)
サラの身体は硬直した。
「サラ……」
「な、なに……?」
「早めに帰って来るから」
「え……あ、うん。気をつけてね」
「その……俺がいない間、ヴィヴィアン侯爵家かハーヴィー伯爵家にいるか?」
「え? なんで?」
サラの肩から頭を上げたレスターの目は真剣だった。
「……何かあったら、危ないだろう?」
「何かって――……騎士団のおかげで王都には魔獣は来ないし、ここは王宮の近くだから治安もいいじゃない」
サラは心配性のレスターを笑った。
それに今回の魔獣討伐は1週間くらいだと聞いている。
「でも――……変な男が近付いて来てもいけないし」
レスターは不満そうにぶつぶつ言った。
「変な……男?」
(変質者のことだろうか? 変質者なら、それこそ王都にも騎士団が残っているわけだし――。別にヴィヴィアン侯爵家やハーヴィー伯爵家にいるから安全ということでも……。それに、今まではそういう人に出会ったこともない)
「この家で、待っているわ。ここの使用人たちはレスターが信頼している人たちでしょう?」
「まあ……」
「私はこの家の女主人だし、家に何かあったらすぐに動けないと……」
「サラ……」
サラの言葉にレスターは驚いたような顔をした。
「そんなに心配しなくて大丈夫よ。何かあったら、すぐに連絡するし」
レスターはサラの言葉に頷くと、「早く、戻るから」と念押しをしてきた。
レスターはこの前もスケジュールよりも早く討伐を終えていた。
レスターを見ていると、魔獣討伐が危険な任務だと忘れそうになる。
サラはレスターの頭をそっと抱きしめた。
(今日は自分から寄ってきているんだから、これくらい良いわよね)
「レスター、怪我とかも……しないようにね」
「ああ。すぐに戻るよ」
レスターはサラを安心させるように笑った。
サラはその笑顔にトクンと胸が高鳴った。
と、同時に今日のエルトンの新説も頭に過った。
「サラ、どうかした?」
「ううん。なんでも……ない」
(もし、本当に男性のことが好きなのだとしたら……私に恋心を抱くなんて、難しい話なのよね。それでも――私を妻に選んでくれたんだから……家族として、彼を支えることはできるわ)
サラはエルトンの説にすっかり傾倒していた。
多少の違和感はあるものの、自分が拒否された事実が「致し方のないこと」と思いたかった。
そして、その後二人の関係を考えたとき、レスターを苦しめたいとは思わなかった。
(この思いは、私の中にひっそり持っていた方がいいのかも)
すっかりエルトンの新説に洗脳されていたサラは、自分に注がれるレスターの熱っぽい視線には全く気が付かなかった。
翌日、サラは魔獣討伐に出るレスターに、怪我に効く塗り薬をお守り代わりに渡した。
レスターはサラの頬にキスを寄せると、「愛しているよ」と耳元でそっと囁いた。
サラはその言葉に胸の高鳴りを感じたが、同時にどう受け止めるのが正解か分からなかった。
(どういう意味かは……分からないけど――私を大切にしてくれているってことよね)
サラはそう思うと、レスターに「私もよ」とほほ笑んだ。
「すぐに戻って来るから」
レスターは何度目かになるそのセリフを繰り返すと、魔獣討伐へと旅立った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや感想・ご評価などを頂けたら、励みになります!




