第49話 マチルダへの相談
「え? 本当に? 副団長が、そう言ったの?」
結婚式から初出勤――ラブラブ新婚モードで来るかと思っていたら、サラはいつもと変わらない、いや、いつもより固い表情で現れた。
(なんかあったのかも……――これは、早く聞き出さないと)
マチルダはサラと在庫確認と称して、人気のない薬品庫へと連れて行った。
そして、初夜に起こった出来事を聞き、驚きを隠せなかった。
(あの副団長の様子からしても、サラの勘違いってオチだと思ったのに……)
「日中はいつも通り……っていうか、子どもの頃みたいに過ごしている」
寝室を分けてからも、日中は優しいレスターのままだった。
ないがしろにされているとか、嫌がられているとか、そういうことは感じない。
(夜に私が触れようとすると距離を取るのに、日中は相変わらず頭や頬には触れてくるし……。というか、最近一緒にいる時間が長かったからか、前よりも触って来るような気もするけど――。やっぱり子ども扱いしているだけってことよね)
「夜も何もないし、レスターの……嫌がることはしたくないから――」
サラは在庫チェックをしながら、ポツリポツリと呟いた。
「本当に……嫌がって、いるのかな?」
マチルダのつぶやきに、サラの感情が高ぶったのが分かった。
薄暗がりの薬品庫でも、サラの目が潤んでいるのが分かる。
(しまった……)
「私も――……そんなことないって何度も思おうとしたけど……」
サラの声が震えていた。
「ごめん、サラ」
サラはかぶりを振った。
「話……聞いてくれてありがとう」
「ううん。なんか、役に立たなくて……」
「そんなことない。マチルダに聞いてもらえて本当に楽になっている。よく分からないけど、とりあえずレスターの言う通りに……」
サラがマチルダにそう告げていると、「それはおかしいな」と言う声が響いた。
(え――……だ、誰!? 薬品庫には誰もいなかったはず……。こんな話、聞かれるなんて――)
怯えるサラに、大きな影がのそっと近づいた。
「やっぱりあいつ、男色なんじゃないか?」
その影は、1課のエルトンだった。
「エルトン様!? なんで……?」
「ここは俺の休憩場所だ」
「サボっていたんですか……?」
「サボりではない。少し頭を休めていただけだ」
「それがサボり……」
「それにしても、サラ――。さっきの話だが」
エルトンはサラに悪びれず話しかけている。
「盗み聞きするなんて……」
サラがエルトンに少し冷たい視線を送ったが、エルトンは意に介さない。
「盗み聞きじゃない。私が先に休憩していたところへ、君たちがやってきて勝手に話し始めただけだ」
「そんな隠れて休んでいたら気が付きませんから」
「まあ、もう聞いてしまったんだから。諦めろ。それで、君の悩みは、夫婦生活のことだろう?」
エルトンにあけすけに言われ、サラは顔を赤くした。
(1課の人って、天才肌が多いとは聞いていたけど、エルトン様ってこういう人なの!?)
「エルトン様には……関係、ないですから」
「まあ、関係はないが――。俺は君の知らないレスターを知る人間でもあるし、魔法の天才でもある。何か助けにならないとは限らない」
「魔法と……夫婦生活と、何か関係あるんですか?」
「それはないが――……。君の話を分析すると、どちらかというと、おかしな行動はあいつの方だと言うことは分かる」
エルトンはサラに断言した。
「――……え?」
「君たちは結局レスターの指示に従うという結論を導いたようだが――。おかしな行動を取る男の言うことを大人しく聞いて間違いはないのだろうか?」
サラは思わずマチルダを見た。
マチルダはエルトンの話に一理あると感じたようだった。
「その……レスターがおかしいって……」
サラはエルトンの見解をもう少し聞いてみたい気もした。
(それに……もう、聞かれちゃっているし……)
「君は初夜にセクシーランジェリーを着用したということだろう?」
エルトンの淡々とした物言いに、サラは羞恥を煽られた。
「そ……そうです、けど――」
「なのに、奴は君に襲いかかるどころか、君と距離を取ろうとした。しかも、翌日に至っては部屋まで分けようとして来た。普通、好きな女にそんなこと、するか?」
エルトンの直球の言葉が、サラの心を深くえぐった。
「エルトン様、言葉に少し気を使ってください!」
マチルダはダメージを受けているサラを庇うようにエルトンに抗議した。
「ああ、すまない。つい――」
「いえ……。いいです。内心……そう、思っていましたし……」
「あの男は、君との結婚式をやたらと楽しみにしていたようだが、ただの式典好きということか?」
エルトンは以前レスターと会ったときのことを思い出しているようだった。
(確かにあのときは、やたらと結婚式のことを強調していた気もするけど。レスターがただのパーティー好きにはとてもじゃないけど思えない。夜会もそんなに好きじゃなさそうだし、むしろ嫌いそう……)
「式典好きではないと思いますけど――」
「そうだろうな。むしろ、そういうものは嫌いそうだ」
エルトンも分かっていたようだ。
「でも君との式は楽しみにしていた。好きな女性との式だと考えれば普通のことだが、初夜のことを考えると分からなくなる」
「――……はい」
「私もサラへの独占欲みたいなものは副団長から感じていたんですけど……今回のことでよく分からなくて……」
マチルダはエルトンにそう言った。
「ふむ」
「実は――」
サラはレスターとの結婚の経緯をエルトンにも説明した。
そもそも、恋愛結婚ではない。
「なるほどな。そうなると――……初夜のことは分からなくもない」
「はい。でも、それは私に大人の魅力がないからだと思って……」
「君に?」
「はい」
エルトンはサラを上から下まで観察するように見た。
「君に原因はないだろう。君は小柄だが、幼女には見えない。それに、セクシーランジェリーも着たんだろう?」
「そっ……そう、ですけど――」
「幼女はセクシーランジェリーは着ないしな」
エルトンの冷静さが、サラの羞恥をどんどん煽って来る。
「それに、君のランジェリー姿を見た瞬間、距離を取って来たんだろう? それ以前も、大人っぽい服装には微妙な態度を示していた。でも、幼女好きではないと言い張る」
サラはこくんと頷いた。
「やっぱり――男色、なんじゃないか?」
「――え!?」
エルトンが導いた結論は、サラには予想外のものだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ブクマ、ご評価、リアクション、ありがとうございます! 執筆のモチベーションになります!!
さて、話は居合わせてしまったエルトンのミスリードで勘違いを深めていきます。作者は両片思いが好きなので、もう少しすれ違いが続きます。が、それを経て甘々モードへきちんと突入しますので安心してこのすれ違いモードをお読みいただけると嬉しいです。




