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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第5話 重すぎる贈り物

父に届いた手紙の速度からも、レスターの仕事の早さは感じていた。

感じてはいたけど――……。


「これ、最近流行っている店のだろ?」


兄のローレンスは、王宮で文官をしている。

今日の婚約破棄騒動を耳にしたローレンスは、サラを慰めようと飛んで帰って来た――。


そしていま、レスターから届いた贈り物のお菓子とお茶を一緒に楽しんでいた。


サラに届いた贈り物は、チョコレートとハーブティーだった。


「うまい」


兄はなぜかサラより先に、人気だという店のチョコレートを口にしてその味に驚いている。

ハーブティーは、ご丁寧にもリラックス効果のあるもののようだ。


(ミントと、カモミールかしら。いい香りだわ……)


「レスターがね……。まだ諦めてなかったわけか」


ローレンスがハーブティーを口にしながら感慨深げに呟いた。


「どういうこと?」

「いや……なんでもない。あいつが令嬢に人気のお菓子を知っているなんて気味が悪いなと思ってさ」


言われてみれば、そうだ。

レスターは甘党ではない。

ご令嬢にまめに贈り物をするタイプだとは思っていなかったけど……。


(贈りたい女性が、いたってこと? でも、親しいご令嬢がいるような感じではなかったし。諦めていないってことは……まさか、お姉さまのこと? そういえば、お姉さまは甘党だ)


レスターがくれたチョコレートは本当に美味しかったが、そう考えるとサラは複雑な気持ちになる。

思わず、顔が暗くなったサラに、ローレンスは何を思ったか、複雑な表情を浮かべた。


「――大丈夫か?」

「うん。心配かけて、ごめんね」

「いや、それはいいんだけど。デニスのことも急で整理できてないだろう?」

「まあ」

「レスターへの返事は――……。そんなに急がなくていいだろう」


レスターとの気安さからか、ローレンスはずいぶんと雑に言い放った。

ローレンスとレスターはタイプが違うように見えるが、気が合うようだ。


「そんな……。いつまでも返事をしないなんて」


(なんか、勿体ぶっているようで感じが悪い)


「いいんだよ。待つって言ったんだろう? それに、あいつは本当にいつまででも待ちそうだし」

「そんなわけ……。レスターも結婚を急かされていて大変だって言っていたし」

「は? あいつが? あいつなら周りに何を言われたって無視するだろう」


それは自分のことではないか、とサラは内心思っていた。


「でも、騎士団長の娘さんを紹介されるかもしれないようなことも」


(上司の娘を紹介されて無視できるなんて、前世のサラリーマンだって難しい。

今世の貴族社会ならなおさら難しいはずだ。だからこそ、急に婚約を思い立ったのだろうし)


サラの発言に、ローレンスは呆れたような顔をしている。


「レスターが、そう言ったのか?」

「……うん」


ローレンスは大きくため息をついた。


「何よ」

「騎士団長の娘は、11歳だ」

「――……え?」

「紹介されたとしても、ただの遊び相手だろう」

「ええええーーーー?」


あまりの驚きに声が漏れた。

貴族令嬢としては無作法だが、許してほしい。


「騙されたな」


(あんなに深刻な顔をしていたのに……。どういうこと?)


「目的のためなら手段を選ばない。あいつはそういうヤツなんだ」

「なんで、そうまでして……」

「なんでって――」


サラはテーブルに置かれたチョコレートを見た。


(まさか、そうまでしてお姉さまの傍にいたいということ……? 私と結婚したら、辛いんじゃないかと思っていたけれど、もしかすると、レスターは辛くても近くにいたい派の人ってこと? だとしたら、デメリットだらけに思える私との結婚も、メリットに……)


レスターの行動の真意が、なんだか分かるような気がしてきた。


「そういうわけだから――……別にレスターに悪いなんて、サラが考える必要はないんだよ。サラと結婚するのがあいつの本意だから」


(私と結婚することでしか、お姉さまと接点を持つ方法がなかったということか……。お姉さまは思い人であるシミオン次期子爵ともご結婚されて円満だ。いくらレスターがかっこいいからと言って彼が入り込む隙はなさそうだけど。それでも、少しでも、傍にいたいってこと?)


ユーニスへの実らない恋を続けるレスターと自分が重なって、不可解だったレスターの行動の意味が見えてくるような気がした。


(レスターにとって、私は飽くまでもお姉さまの代わりということか……)


黙り込む妹に何を思ったのか、兄はレスターの評判を話し始めた。


「サラも分かっているだろうけど、文官として見たレスターは、優秀な副団長だ」

「それは、そうだと思うけど」

「次男だから侯爵家を継ぐことはないけど、生活が困ることはないだろう」

「ええ、そういう心配もしていないわ」

「父上への手紙や、贈り物は気味が悪いかもしれないが――」

「そんなこと……。用意が早くて驚いたくらいで――」

「レスターは、悪い男ではないぞ。――ちょっと重いかもしれないけれど」


(お兄さまは、レスターとの婚約を薦めているのかしら?)


レスターの良さは、ローレンスに言われなくても十分すぎるほど分かっていた。


(重いって言うのは、よく分からないけど)


「それは、分かっているわ。問題はレスターじゃなくて――私なの。レスターみたいな人の隣にいるのが、私でいいのかなって……」

「はあ? サラの何に問題があるんだ。こんなに可愛いくて、賢くて、控え目で、優しい令嬢はそういないだろう。子どもの頃から、達観しているというか、落ち着きすぎているというか、そういうところは変わっているけど、そんなところも全部含めて完璧じゃないか!」


大真面目にローレンスは熱弁してきた。


(しまった。言う相手を間違えた。ローレンスはシスコンなんだから、こうなるに決まっていたのに)


ローレンスの全力肯定に、いたたまれなくなって笑顔が引きつる。


「――……ありがとう、お兄さま。前向きに考えます」


(そう。デニスに婚約破棄をされた私に、あのレスターが婚約を申し込んでくれたのだ。

……本来なら、断る理由なんてないのに。素直に受け入れられれば、きっと幸せなのに。

ああ、睡眠不足だからなの? 答えが何か、見つからない……。


それにしても、ローレンスの耳に入るほど、私の婚約破棄の話は広がっているのか。

レスターのことで、私の中では婚約破棄のことが薄れていたけど、王宮では違うのだろう。

明日からは覚悟しなければならない)


そう思っていたのだが、私の婚約破棄の噂は新たな噂にあっという間にかき消されたのだった。

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