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これは責任婚のはずでしたが、初恋の騎士様の愛が重すぎます~部下の責任を取ると求婚してきた副団長が外堀を埋めて溺愛してきます  作者: 青海きのこ


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第47話 サラの出した答え

サラは自分が用意した夜着を着ることに決めた。

全身が透けて見える夜着は、サラの女性的な身体のラインも、隠すべき部分も、露わにしていた。


(ちょ……ちょっと大胆だけど頑張るって決めたんだから。これを着て……レスターに、ちゃんと大人だって分かってもらわないと――!)


バクバクする心臓を抑えながら、私室と繋がる二人の寝室の扉をそっと開けた。


(レスター、もういるかな?)


扉の隙間からそっと覗くと、ベッドに腰をかけながら飲み物を飲んでいるレスターと目が合った。レスターが着ている夜着は、サラに用意されていたものと同じようにシルク素材の上品なものだった。

サラの気配に気付いたレスターが扉の方に目を向けた。


(――……ま、まずい! かも……)


サラは慌てて、扉を閉めた。

先ほど以上に心臓がバクバク高鳴り、冷や汗もかいている。


(レスターの夜着は透けてないし、肌けてもいない! なんか……すごく、普通、だわ。部屋も、ずいぶん明るかったし……。初夜ってもっとムーディーな感じじゃないの……? 初夜だと思って張り切った私が間違っていた? でも、でも、マチルダも、ムード作りが大切だって言ってたし……)


サラは先ほどの、至ってノーマルな様子なレスターを思い出した。


(全然……えっちな……感じじゃなかった。もしかしたら……、私、間違えたかも……。なんか、私だけ張り切ってる感じになってない? 今日は、レスターが用意してくれた夜着を着るべきだった?)


サラは自分の夜着をぎゅっと握った。そして、いま着ている夜着を着替えるべきだと判断に達し、私室と寝室の扉に張り付いて呼吸を整えた。


(大丈夫……今から着替えれば――)


ガチャッ――。


「サラ、どうしたの?」


そう言った瞬間、レスターがサラの私室に繋がる寝室の扉を開けた。


(まずいっ……)


サラは自分が着た夜着を慌てて自分の手で隠した。

穏やかな笑顔のレスターが、サラの姿を見た瞬間、固まったのが分かった。

サラの手で隠したところで、見せるための夜着は明るい部屋の中で見事にサラの身体を露わにしていた。


「サ……サラ……――?」


サラを呼ぶレスターの声が掠れていた。


(呆れられて、いるのかも……)


サラは潤む目でレスターを見上げると、レスターの笑顔が凍り付いたのが分かった。


(や……やっぱり――引いているわ)


「レ、レスター……あの、その……ちょっと、着替えて来る……から。寝室で待っていて……」


呆然と立っているレスターの身体を寝室に戻すように、押すとサラは慌ててナタリーが用意してくれた夜着に着替えた。


(ああ……。もう、最悪! 痴女だと思われたかも――)


◆◆◆


(俺は、夢でも見ているのか?)


レスターは呆然としながら、ベッドサイドへ戻りワインを煽った。


(潤んだサラの瞳に――……。逃げるように去っていたとき、サラの丸いお尻が透けて見えていた。それに、必死に胸を隠していたようだったが……想像以上に大きい胸は隠しきれていなかったし、腰もくびれて……白い足も露わに……)


煩悩を追い払おうとしているのに、先ほどのサラの姿が目に焼き付いて離れない。

レスターは自分の下半身に熱が集中するのを感じていた。


(まずい……。これでは、サラと添い寝なんかできない)


レスターは、初夜はサラを不安にさせないために添い寝で済ませる予定だった。

兄のような存在の男に、急に欲望を向けられては引かせると思ったからだ。


(あんな夜着、ナタリーが用意したのか……? いや、サラの侍女のアンか? なんだってあんな――……煽情的な姿を見せるんだ。俺の理性を試しているのか……。いや、でも、サラだってあれを着たってことは……俺と何をするかは……――)


レスターは先ほどのサラの恰好を思い出し、事前の決意が揺らぐのを感じていた。


(いや……でも――デニスと1年婚約していたのに、キス一つしていなかったんだ。焦るとロクなことがないから、ここからはゆっくりと行くと決めたじゃないか……)


レスターは理性と本能の激しい葛藤で、適切な判断力が失われているのを感じた。


「あぁ……」


今夜は添い寝で行くと決めたはずなのに、先ほどのサラの姿がチラチラと頭を掠める。

レスターは我慢ができなくなり、ベランダに出て夜風に当たった。

風に当たりながら、何度も深呼吸をしたり、仕事のことを考えたりして、必死に熱を冷ましていた。


(落ち着け、俺。落ち着くんだ――……)


「レスター……」


ベランダでワインを飲んでいたレスターの、夜着の裾をサラがちょんと摘まんだ。

振り返ると、潤んだ瞳のサラが立っていた。暗がりでも、顔が赤らんでいるのが分かる。

そんなサラを見ていると、折角覚ました熱が急激に戻って来るのが分かった。


(まっ……まずい! サラを見ていると、さっきのサラの姿を思い出してしまう)


レスターはなるべくサラを直視しないようにした。


「着替えたんだな……」


サラが身に付けていたものは、先ほどの夜着とは違って、自分が着ているものと似たような普通の――かわいい夜着だった。思わずポロッと言ってしまった言葉に、サラの顔が更に真っ赤になるのが分かった。


(しまった……! 余計なことを指摘してどうする……。なぜあんな事態になったのか、分からないが、とりあえず知らない振りが大人の対応だろう……)


「あの……その――」


サラは気まずそうに、何か説明しようとしていた。


「いや、いい。サラ、冷えるから部屋に行こう」


そう言って、サラを安心させるように微笑んだ。

室内に入ってベッドに座ると、サラはちょこんとレスターにくっ付いた。


「レスター、ワイン飲んでるの?」


無邪気にくっ付くサラの胸が、レスターの腕に当たっていた。先ほどの姿を見たせいで生々しく感じる。


(柔ら……かい……。――が、これはただの脂肪の塊に過ぎない。思い切り触りたいとか、味わいたいとか、絶対に変なことは考えるな……。これはただの……)


レスターは、焼き切られそうな理性を保つのに必死だった。


「あっ……ああ。サラも、飲むか? ワインもあるが、蜂蜜酒とかの方が飲みやすいか?」


そう言いながら、スッと立ち上がるとサラから身体を離した。


(ああ……本当に、なんの試練なんだ――)


「えっと……ワイン、にする」


レスターが持っているワインを自分で入れようと、距離を取ったはずのサラが再び近付こうとして来た。


「サラ、俺が用意するから、座って待っていてくれ」

「え……あ、うん……」


サラはそう返事すると、ベッドサイドに少し居心地悪そうに座っていた。

レスターはサラにワイングラスを渡すと、なるべくサラと距離を取ろうとそのまま立っていた。

サラはワインを口にすると、「美味しい」とほほ笑んだ。


「レスター」

「ん?」

「……どうして立っているの?」

「――……え、別に大した意味はないが……」

「じゃあ、隣に……」

「あっ、そういえば、サラ。ぬいぐるみはここに置いたんだ」


ベッドサイドには、レスターがプレゼントしたくまのぬいぐるみが二体並んでいた。

サラはそのぬいぐるみを見ると、嬉しそうにレスターのくまを抱き上げた。


「ここに置いてくれたのね」

「ああ」

「ねえ、レスター。部屋も私用に準備してくれたってナタリーから聞いたわ。何も言っていないのに、すごく落ち着く部屋で驚いた」


サラはレスターをキラキラした目で見た。


(ハーヴィー伯爵家のサラの部屋はローレンスに聞いて把握していたし、サラの好みは俺なりに理解しているつもりだったが、喜んでくれたようで良かった)


「君に聞かずに進めてしまったが、喜んでくれたようで良かった」

「レスターって何でも分かるから吃驚して……」

「そんなことは――……」

「だって、夜会のドレスも、指輪もぴったりだったし、部屋の好みまで……」

「――……偶然、だろう」


レスターは涼しい顔で、サラを見た。


(調べ尽くしていたなんて知ったら、サラはどんな目で俺を見るだろうか……)


「ね、レスター」

「――……わぁっ!」


ベッドに座っていたはずのサラが、ワイングラスを置いて、立っているレスターの傍らに寄り、あろうことかレスターの腰に抱きついて来た。


(なっ……一体……なんなんだ)


チラッとサラを見ると、サラは少し赤い顔をレスターの胸に寄せている。

先ほどの、羞恥の赤面ではない。これは――……。


(しまった。このワイン、結構度数が……)


サラのワイングラスは、ほとんど空になっていた。

酒のせいで潤んだ瞳のサラが、レスターを見上げている。


(うっ……そんな目で――見ないでくれ……)


「サラ、酔ったのか?」


サラの手をそっと解こうとすると、サラは少し膨れた様子で「酔ってない」と言った。


(大体の酔っ払いはそういうんだが……)


レスターは以前デニスとサラが参加している夜会の警備をしていたことがある。

あれはサラが働きはじめて間もなくのことだった。

デニスがサラを放置し続けるものだから、サラは勧められるままに酒を飲み、完全に隙だらけになっていた。慌てたレスターは、パーティーの使用人に水やノンアルコールを飲ませるように言って事なきを得たのだ。もちろん、そのことをサラには言っていない。


(サラは……酒を飲むと、無防備になるから――)


レスターは自分の理性と本能の葛藤のせいで、うっかりワインを勧めたことを後悔した。


「レスター……私のこと、子どもだと……思っているの?」


腰に巻き付いたサラの手を離そうとすると、余計に強い力でサラがぎゅっと身体を寄せて来た。


(やっ……やめてくれ。そんなにくっ付かれると……)


「サラ、ど、どうした?」

「どうもしてない……。レスターが……」


サラが何やら不満気にごにょごにょと言っていたが、何と言っているのかは聞き取れなかった。レスターは、落ち着かせるために大きく息を吐いた。


「とりあえず、離れようか」

「なんで?」


サラの瞳が妙にうるうるしている。


「なんでって……」

「……スしてほしい」


(なんて言った?)


サラの榛色の瞳が、レスターの理性を焼き切ろうとしている。


「レスター……」


サラが甘えるようにレスターにくっ付く。


(これ以上は……――)


レスターは心を鬼にして、レスターにくっ付くサラを引き剥がすと、そのまま抱きかかえてサラをそっとベッドへと横たえた。

突然の行動に、サラは驚いたように目を見開いていた。

レスターはサラが飲んでいたワイングラスを片付け、部屋の明かりも消すと、ベッドに横たわったまま動かないサラの頭を撫でた。


レスターの手に反応するように、サラが「レスター」と甘えた声を出した。


(あぁ、そんな声で俺を呼ぶな!)


レスターは内心を必死に隠しながら「ん?」と穏やかに声をかけ、「疲れただろう?」とおでこに口づけをした。キスをして、サラから身体を離そうとした瞬間――暗がりでサラの目がキラッと光ったような気がした。が、すぐにサラは身体を横向きにしてしまい、レスターからはサラの表情を確認することができなかった。

レスターはサラの横に滑り込むと、「お休み」と声をかけた。

サラはもう寝たのか、返事は聞こえなかった。


(今日は……寝られないな――)


レスターは、サラの温もりを感じながら目を閉じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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