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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第34話 団長宅のガーデンパーティー

「レスター! 待っていたのよ」


イヴがレスターの腰に思い切り突進して抱きついた。

いつものことなのか。レスターはイヴを受け止めていた。

レスターは仕事のときの厳しい顔ではなく、イヴには優しい顔を見せていた。


(本当に団長家族と仲が良いのね)


サラとレスターは、団長家族の食事に招かれていた。


「サラ様も、今日は来てくれてありがとう」


イヴはサラに少し照れた様子で挨拶をした。


「イヴ様、お招きありがとうございます。またお会いできて嬉しいわ。これ、お土産よ」


サラはイヴにプレゼントの包みを渡した。


「わあ! ありがとう」

「あら。サラ、気を遣わせてしまってごめんなさい」と、メアリーが軽く頭を下げた。

「大したものではないんです。喜んでくれると嬉しいわ。レスターと選んだの」


イヴはレスターの名に反応し、一層嬉しそうな顔をして「開けていい?」と言いながら包みを開けた。


「わあ!」


中はくまのぬいぐるみだった。


「私と同じ目の色だし、髪も一緒だわ!」


イヴが抱きしめているぬいぐるみは、あのぬいぐるみの色違いだった。


「おお、事件解決の一翼を担ったくまじゃないか」


団長はくまを見ながら目を細めた。


「はい。レスターに聞いたら、あのくまは、いま王都で子どもたちに流行っているみたいなのでイヴ様にも良いかなって。目や毛の色をイヴ様用にカスタムしました」

「とってもかわいいわ!」


(もちろん、監視カメラはついていないけどね。喜んでくれているようで良かったわ)


「ありがとう、サラ様、レスター」

「どういたしまして」


レスターは弾ける笑顔で見上げるイヴの頭を、軽くポンポンと撫でた。

そのレスターの仕草が、サラにするものと一瞬重なった。


『レスターは、男色家か、幼女好きか、人妻好きかという……』


先日のエルトンの言葉が過った。


(やだ……変なこと、思い出しちゃった)


イヴはレスターに嬉しそうな笑顔を見せ、レスターも優しく微笑んでいる。


(子どもを変な目で見ているようには見えないけれど……。エルトン様が変なことを言うから、気になっちゃうじゃない……)


サラがイヴとレスターのやり取りを観察していると、団長が二人のやり取りに割って入った。


「イヴ、俺にはそんな顔見せないじゃないか」


団長服を着ていないロージャー団長は、優しい父親そのものだった。


「お父さまとレスターは、全然違うもの!」

「お前いっつもそう言ってるけど、何が違うんだ。同じ性別だし、同じ職場だし、なんなら俺はレスターの上司だぞ」

「そういうことじゃないの」

「サラ、レスター、休みに悪かったな。イヴが誘え誘えとうるさくてな」


団長の発言に、イヴは少し頬を膨らませて「だって……この前全然話せなかったから」と抗議した。


「今日は天気も良いから、ガーデンパーティーなのよ!」


イヴは、レスターとサラの手を引いて庭まで案内してくれる。

ハーヴィー伯爵の庭園では既に使用人たちが、食事の支度をしていた。


「折角来てくれたのだから、リラックスして楽しんでね」


メアリーはサラを席に案内しながら声をかけてくれた。


◇◇◇◇


「イヴ、好き嫌いはよくないな」


レスターはニンジンを皿の端に寄せているイヴを窘めた。

イヴは「うっ」という顔をしながらも、レスターの言うことには素直に「はーい」と従い、いやいやニンジンを口に放り込んだ。その様子に、レスターはイヴに「えらいな、イヴ」と微笑みかけた。


「本当、イヴはレスターの言うことはよく聞くわ」


メアリーは呆れた顔でイヴを見た。


「だって――」


「毎日レスターがいてくれたら、イヴはあっという間に素敵な淑女に成長するかもしれないわね」と言って、メアリーは笑った。


「レスターは子どもの扱いに本当に慣れているわ」


メアリーの素朴な声かけに、サラはドキッとした。


(子どもの扱いに……慣れている? 疑いたくないのに、またあのことが頭に過っちゃう……)


「確かにそうだな。レスター、君は下にきょうだいはいないだろう?」

「そうですね。まあ、仕事で子どもと接することもありますし……」

「それなら、ロージャーだってそうよ。でもこの人は女の子の扱いはてんでダメよ」


メアリーは団長をちらっと見ながら、揶揄うように笑った。


「仕方ないだろう。俺は男兄弟の上に、職場も男だらけだぞ」

「レスターだって同じでしょ。でも、レスターはお父さまとは全然違うって言っているじゃない」


イヴが得意気に話に入った。


「顔の作りのことを言っているんじゃないのか?」

「それもあるけど――。レスターは優しいもの」

「そうか――?」


すました顔のレスターを団長はチラッと見た。


「まあ、確かにサラにはずいぶんと優しいようではあるがな」


団長はニヤッといたずらっぽく笑いながらレスターを見た。


「婚約者に優しくするのは、当然のことでしょう。団長だって、奥さまやイヴにはずいぶん優しいでしょう?」

「まぁ……それは確かに。そういえば、サラとの婚約はずいぶん急だったから驚いたぞ。結婚までもやたらと早いし。準備が大変じゃないのか?」

「それは一通り終わりましたから」

「そうか、相変わらず仕事が早いな。それにしても、一体いつの間に、そんな話になっていたんだ?」


団長は興味津々にレスターに尋ねた。


「サラのお兄さまとレスターがご学友だったのよね?」


メアリーも興味津々にサラを見た。


(この感じだと、レスターは最低限の報告しかしていないってことよね。デニスの婚約破棄に責任を感じて……なんて話しにくいし。なんて説明したらいいのかしら)


サラはレスターをチラッと見た。レスターは特に動揺するでもなく、団長に勧められるままに酒を飲んでいた。


(この場は、レスターに任せておけばいいかしら……)


「サラが暴漢に襲われているときに、レスターが助けたとかじゃないの?」

「あなたはロマンス小説を読みすぎよ」

「だって、そういう出会いもロマンチックじゃない」


イヴは妙な期待を込めながら、二人を交互に見た。


(……どうしよう。そんなロマンチックなことじゃないんだけど)


「別に――……そんな特殊なことではありませんよ」


レスターは冷静な顔を崩さず、説明し始めた。


「サラとは子どもの頃から顔見知りでしたし、王宮で再会して、ちょうどお互いに相手もいなかったので……」

「へえーーー」


団長はレスターに意味深な相槌を打った。


「何ですか」

「いや、まあ、そういうことならいいが――。ずいぶんと、サラの婚約破棄からスピーディーに婚約に漕ぎつけていたし、噂もあっという間に広がっていたから、レスターの戦術なのかと思っていただけだ」


団長は意味深に笑い、イヴはきょとんと質問した。


「戦術って?」

「レスターは、俺と違って情報戦が強いからな」

「情報戦? どういうこと?」


イヴは再び団長に尋ねたが、「お前は知らなくていいの」と軽く流された。


「サラとレスターって、顔見知りって話だけど、何歳の頃から知っているの?」


メアリーは今度はサラに尋ねた。


「えーと……初めて会ったのは……レスターは17歳で、私は7歳くらいのことだったかと」

「7歳!? ずいぶん小さい頃からの知り合いなのね」

「はい。レスターが王宮勤めをするようになってから家には来なくなったので、私が王宮勤めまではしばらく会っていませんでしたが……」


(本当はレスターが家に来なくなったのは、ユーニスとの婚約がうまくいかなかったときからだから、レスターが22歳の頃だったわ)


「あ、もしかして、レスターが女の子の扱いに慣れていたのって、サラがいたから?」


メアリーの言葉に、団長は「なるほどね」と含みを持たせる言い方でレスターを見た。


「なんですか」

「いや、一体いつから……と思ってね」


団長はニヤニヤ笑いのまま、レスターに酒を注いでいた。


(さっきから、妙に無口だわ……。団長の言葉、気にしているのかしら)


「あなた、あまり飲ませすぎないでよ」

「休みなんだから、いいじゃないか。レスターは強いし」

「そうかもしれないけど……限度ってものがあるのよ」


メアリーは心配そうに声をかけた。


(そういえば、さっきからワインの空ボトルを何本も使用人が回収しているわ。大丈夫かしら)


「それにしてもロマンチックね」

「え?」


メアリーはサラにいたずらっぽく笑った。


「レスターがサラの初恋だったりして。久しぶりに初恋の人と再会して、結婚なんてことだったら……なんて。あら、私もロマンス小説の読みすぎかしらね」


ふふふと笑うメアリーはイヴとあれこれ想像を膨らまして話していた。サラはというと、メアリーの言葉が図星過ぎてサラは少し顔を赤らめた。


(確かに……私の初恋は――レスターだけど)


レスターのリアクションが気になってチラッとサラはレスターを見たが、レスターは全く表情は変わらず黙々とお酒を口にしていた。


(こんなに飲んでいるの初めてみるけど、レスターって本当にお酒、強いのね)


「レスターだってそうかもしれないぞ」


団長がメアリーの話に乗った。


「レスターの初恋も? でも、サラは7歳だったのでしょう?」

「知り合ったのが、だろう? 少女はおませだし、成長は早いもんだからな」

「まあ……。そうだとしたら、本当にロマンチックね」


団長とメアリーが楽し気に妄想を膨らませていた。


(そんな――……あり得ないこと……)


サラがいたたまれなくなっていると、ずっと黙っていたレスターがグラスを持つ手が一瞬止まったかと思うと、「ありえません!」とはっきりと答えた。

そのレスターの言葉は、サラへの拒絶のように響いた。


(――それは……私だって分かっているけど。いまの言い方は……。レスターの恋愛相手として、あり得ないって言われたみたいで……)


サラはレスターの言葉に動揺したように目を伏せた。

目の座ったレスターを見て、団長も驚いて見た。


「なんだよ。冗談だよ。そんな間に受けなくても――」


と団長がレスターの肩をポンッと叩いた瞬間、突如レスターがガクッと前に倒れた。


「レスター!」


サラは慌ててレスターの身体を支えた。

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