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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第27話 ドレス選び

「お似合いですわ!」


女主人は試着室から恥ずかしそうに姿を見せたサラに満面の笑みを見せた。

派手な顔立ちの女主人が微笑むと、迫力がある。

サラが着用したドレスは、シルク素材が上質な、シンプルでクラシカルなドレスだ。

試着室前には、女主人だけではなく、レスターにユーニスも並んでいた。


レスターと目が合うと、レスターは穏やかにほほ笑んでいる。


(恥ずかしい……)


「やっぱり素材が上質だとシンプルなデザインも引き立つわね」


ユーニスはサラの姿を見ながら、女主人に声をかけた。

女主人はユーニスの言葉に満足するように頷いた。


「こちらのドレスは歴史あるヴィヴィアン侯爵の挙式にも相応しい王道の美しさですし、サラ様のお肌の露出も抑えられますし」


女主人は肌の露出の話の際に、ちらりとレスターに視線を送った。


「サラはどう?」

「え……。あの――素敵な、ドレスだと……思うわ」


ユーニスから問われ、サラはぎこちなく答えた。


(意見を求められても、正直よく分からない……。鏡に映っている姿を見ると、美しくは見えると思うけど……)


ユーニスはサラの返答を受けて、「そうね」と考えると他のデザインのドレスの試着も促した。サラはユーニスと女主人に促されるまま、再び試着室へと戻った。


(自分のドレス一つ選べないなんて……情けない。しかも、そのことをレスターに見抜かれているなんて……)


サラがドレス選びに困らないようにという配慮で、レスターがユーニスをこの場に呼んでいた。


「俺もドレスのことは正直分からないし、ユーニスならサラも気兼ねなく相談できるかなって思って。ユーニスは令嬢の流行に敏感だし、既婚者だし」


レスターはそう言ってサラに微笑んだ。


(カフェと言い、ドレス選びと言い、用意周到というか……。お姉さまにも、いつの間に連絡を取っていたのかしら……)


ユーニスの存在を有難く頼もしく思うと同時に、ユーニスがこの場にいたとき、レスターの話を聞いたときに、心の奥がざわざわと変な感じがしてしまった。


(焼きもちなんて……焼いたって仕方ないのに)


ユーニスが選んでくれたのは、ボリュームたっぷりのレースが特徴的なドレスだった。ウエストマークにはアシンメトリーな大きなリボンが印象的だ。先ほどのものと比べると、かわいい雰囲気だ。

着替え終えたサラが試着室を出ると、「まあ! お似合いですわ!」と女主人が先ほどよりもテンション高く迎えてくれた。


「先ほどのシンプルなデザインもお似合いでしたけど、こちらのデザインはサラ様の雰囲気にぴったりですわ。さすがはお姉さまがお選びになったものですわね」

「うん。サラ、さっきのも良かったけど、これも似合うわよ。かわいいし、サラの雰囲気に合うと思うんだけど」

「おっしゃる通りですわ。こちらのスカートに使っているレースは希少なものですからかわいらしさの中に、気品や豪華さも感じられますし、少しアシンメトリーなデザインが甘さだけではないデザインの魅力になっております。ハートのオフショルダーのデザインですが、このドレスであればロンググローブもセットで着用いただければ肌の露出も控えられますし」


女主人は肌の露出の話の際に、再びちらりとレスターに視線を送った。


(さっきから肌の露出のことをずいぶん気にされているのかしら。ウェディングドレスは肌の露出は気にならないデザインが多いとは思うけど……)


サラは女主人の口上に少し違和感を持っていた。


「どう? レスター?」

「ああ、とても可愛いよ」


レスターは先ほ同様穏やかにサラを見守っている。


「それじゃ、参考にならないじゃない」

「だから君を呼んだんだろう?」


レスターは「俺にドレスのアドバイスを求めないでくれ」と、文句を言うユーニスに言った。二人のいつもの気安いやり取りが、再び心の奥底をざわざわとさせる。


(レスターは、困るとお姉さまを頼るのね……)


鏡に映るドレスは本当に素敵だったが、サラには自分の姿が滑稽にも思えていた。


「サラ、あなたはどうなの?」


ユーニスはサラに再び意見をたずねた。

サラは鏡に映る自分を、まじまじと見つめた。


(このドレスはすごくかわいい。こういうデザインは、私も好きだし。今までだったらこういうデザインにした気がするけれど……)


サラはチラッとレスターに並ぶユーニスを盗み見た。

容姿も、年齢のバランスも、サラよりもずっと合っている。

関係を知らないものが見れば、きっとユーニスをレスターの婚約者と思うだろう。


「このドレスも……かわいくて素敵だけど――」


サラは並んでいるドレスに目をやった。


(いじけていたって仕方ない。レスターに相応しい人になるって決めたんだから……)


「もう少し、大人っぽいデザインのものも試してみたい」


サラの言葉が意外だったのか、ユーニスは一瞬目を丸くした。

女主人はサラの言葉に応えるように、すぐに要望のデザインのドレスを持ってきた。

複数のデザインの中から、サラは女主人やユーニスと相談して選んだドレスは、シルエットは王道のAラインのものにした。アンティーク刺繍やビーズなどの少しヴィンテージ感のある素材であまりスカートはふわふわになり過ぎていない。前は首元までレースで覆われているが、後ろは大胆に背中が見えるデザインだ。

試着室の鏡で見ても、サラ自身もいつもの雰囲気とは違うのが分かった。


(大丈夫。似合っているわ)


サラは胸を張って、試着室のカーテンを開けた。

いつもの雰囲気と違うからか、一瞬反応がなかったが、女主人の歓声をきっかけに、ユーニスも「似合うわ!」と声を上げた。


「いつもと雰囲気が違って、これもいいわね」

「シルエットは王道ラインにして正解ですわ」


女主人がアンティーク刺繍やビーズの講釈を続けながら、デザインの説明をしてくれる。


「このドレスは後ろのデザインが特徴的で――」


と、女主人が背中のデザインをレスターに見せた。


(前と後ろの雰囲気が違うのが、このドレスの面白いところなのよね)


そう思いながら振り返ると、レスターの笑顔が心なしか引きつっているようにも見えた。

先ほどまでテンションの高かった女主人も、何故か声のトーンを落としながら「バックデザインは非常に印象的ではありますが、長いヴェールをご準備いたしますので自然と隠れますからそんなに肌の露出は気にならないかと……」


(また、肌の露出……? レスターがなんか言ったのかしら?)


サラはチラッとレスターを見た。


『ドレスのことは正直分からないし』


レスターの言葉を思い出していた。サラのドレス姿を見て、レスターは優しく微笑んだ。


(そんなこと、言うわけないか)


「他も試着なさいますか?」

「いえ。レスター、私が選んでいい?」

「――ああ、もちろん。俺はサラが気に入ったものならどれでも」

「じゃあ、これにするわ」


サラがそういうとユーニスも「うん、それが一番似合っているわ。ずっと可愛いサラだと思っていたけど、もう大人になっているのね」とユーニスは感慨深げにつぶやき、ドレス姿のサラをぎゅっと抱きしめた。


「お姉さまったら」

「だって、そんな姿していると寂しくなっちゃって」

「お姉さまの方が先に家を出られたじゃない」

「それはそうだけど」


ユーニスとサラが話していると、女主人が手際よく次の準備に移っていた。


「では、このドレスに合わせてヴィヴィアン侯爵令息のものもお選びしましょう。ヴェールやグローブなども選ばないといけませんわね」

「ああ、そうだな。ヴェールとグローブは伝統的なものでもいいかな?」


レスターは今日初めて意見を言った。

伝統的なものというと、どちらも長めのものだ。


「ええ。私はどちらでも。ヴィヴィアン侯爵家の伝統もあるでしょうし、レスターの言う通りにするわ」

「では、伝統的なものを」

「承知いたしました。ドレスの納品はいつ頃になりますでしょうか」

「そうだな。最短はどのくらいかかる?」

「最短ですか?」


女主人は慌ててスケジュール帳を開いた。


「そうですね……。このドレスは最短でも4カ月はお時間をいただくかと――」

「3カ月でできないか?」

「え!? 3カ月ですか?」


女主人はレスターに請われ、再びスケジュール帳を見直しながら考え込んでいる。


「レスター、そんなに急ぐの?」

「ああ、今日ハーヴィー伯爵と話したけど時期は任せるということだったから」

「色々準備もあるし、そんなに急がなくても――」


サラが言うと、レスターは「仕事の予定もあるから」と言った。

ユーニスはそんなレスターに「()()の予定ねえ」と含みのある言い方をした。


「なんだ? ユーニス」

()()


そう言ってユーニスはレスターに笑みを見せて黙った。


(また、二人で分かり合っているような……)


今日何度目かになるもやもやを感じていると、女主人が「なんとかします!」と声を上げた。


「ヴィヴィアン侯爵令息の挙式ですもの。なんとか、間に合わせますわ!」


気合の入った女主人に、レスターは柔らかく微笑んだ。


「ありがとう。無理を言っているのは承知している。もちろん、君たちの働きに見合った報酬は惜しみはしない」

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