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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第26話 甘過ぎるケーキ

テーブルにはチョコレートケーキに、いちごのプディング、今日のおすすめケーキのフルーツタルトが並んだ。


(どれもキラキラして見える! 美味しそう)


キラキラしたケーキを、ケーキ以上にキラキラした目でサラが見つめる。

そんなサラをレスターが優しく見守っていた。


「好きなのからどうぞ。サラはやっぱりチョコレートケーキかな?」

「あ……うん」


レスターに見守られているのはなんとも言えない気恥ずかしさだったが、ケーキを前にしたサラは、まずは一口食べてみたかった。

チョコレートケーキは、チョコレートとしっとりとしたチョコレートスポンジが交互に別れていて、断面も美しい。一口口に運ぶと、しっとりと濃厚なチョコレートの味が口に広がった。


(美味しい……。さすが王都の人気店)


ケーキに添えられた生クリームは甘さ控えめだ。

レスターは、並んだプティングも、タルトも、口にせず、ただじっとケーキを食べているサラを見ていた。


「……そ、そんなに、見られると、さすがに……恥ずかしいわ」


サラは少し口を尖らせながら言った。


「美味しそうに食べるサラが可愛くて、つい。ケーキ、美味しい?」

「うん。……レスター、予約もしてくれていたのよね。ありがとう」

「どういたしまして。喜んでくれて嬉しいよ。俺としては、口の端にクリームでもつけてくれると、もっと嬉しいんだけど」

「え!?」


レスターが言わんとしていることを察し、サラの耳は赤くなった。


「つっ……つけません! 子どもじゃないんだから……」


あたふたするサラの様子に、レスターはくすっと笑った。


「レ……レスターも、食べないの?」

「ん。そうだな」


そういうと、レスターの長い腕がサラのフォークを持つ手に伸びた。


(え?)


サラの手の上からレスターがフォークを握ると、顔を寄せてきた。


「なっ……」


そのまま、レスターはサラの手を自分の口まで運んでケーキを食べた。

わざとなのか、レスターの口の端に生クリームが少しだけついていた。

レスターに手を握られたまま、サラは硬直していた。


(なっ、なっ……強制あーんって……。しかも、口に生クリームが――)


「うん。あまり甘すぎなくていいな。――サラ? どうかした?」


レスターは呆然としているサラに声をかけた。


「どっ……どうかしたって……――」


サラは動揺を抑えるように珈琲を一口飲んだ。


(にがっ……! 前世ではブラック珈琲は残業のお供だったのに、今世の私の舌はブラック珈琲は受け入れられないのよね)


サラが考えたことが、そのまま表情に出たのだろう。

レスターが笑いを嚙み殺しながら、自分の前に置かれたいちごのフレーバーティーと交換をした。その流れるような仕草は、計算づくの注文だと言っているようだった。


「交換しても、いいかな?」

「どっ……どうして、私は――珈琲がいいんだけど……」


サラは、レスターに子どもっぽく思われたくなくて無理してブラック珈琲を頼んでいた。

そのこともレスターには気づかれていそうだったが。


(前世で飲めていたんだから、今世で飲めないわけないのよ)


「ケーキの甘さは控え目だったけど、やっぱり俺には甘いから。ブラックを飲みたくなってしまって」


レスターが、素直になれないサラにそう言った。

レスターが交換してくれたフレーバーティーの甘い香りが優しく鼻孔をくすぐった。


(レスター……私が、何を注文しそうかも、分かっていた、のかな?)


サラがこくんと頷くと、レスターは「ありがとう」と言った。


「レスター」

「ん?」

「ここ、クリーム」


サラは、口の端を指した。

レスターは反対の口の端に触れた。


「反対……」

「どこ? サラ、取ってよ」


レスターがサラの目をじっと見た。


「え?」

「ほら」


レスターはサラが取りやすいように、顔を近づけた。


(そ……そんなこと――)


先ほどからずっと、周囲の女性客の視線が集まっていたことに、サラはようやく気が付いた。


(こ……こんな、状況で……そんなこと……)


レスターはパチッと目を開けた。


「取ってくれないの?」

「む……無理……」


サラは、レスターの視線から逃れるように下を向いた。

レスターはそんなサラの様子を見て、苦笑いしながらナプキンで拭いた。

その動きは、初めからどこに付いているかなんて分かっているようだった。


「サラにはちょっとハードルが高かったかな」


そうつぶやくと、俯くサラの頭をポンポンと撫でた。


(ま、また……子どもにするみたいに――)


子ども扱いするレスターを睨むようにキッと見たのに、レスターは何事もなかったように珈琲を飲んでいた。


「サラ、いちごのプティングも、フルーツタルトも美味しそうだよ」


ピンク色のプリンの上には、いちごの果肉が残る赤いソースがかかっている。フルーツタルトも旬のフルーツが惜しみなく使われていてキラキラしている。


(本当に美味しそう)


「今度は、俺が食べさせてあげようか?」


レスターがプティングにスプーンを差し入れながら微笑んだ。


(か……完全に、遊ばれている――)


「いい! 自分で食べられるから」


サラはケーキより甘すぎるレスターから目を反らしながら、フルーツタルトを一口口にした。レスターはそんなサラを幸せそうに見守りながら、サラが食べきれない分を黙々と口にしながら珈琲で流し込んでいた。


◇◇◇◇


「サラ、怒っているの?」


店を出てカサブランカに向かう途中、少しむくれた顔のサラを追いかけた。


「ケーキ、美味しくなかった?」

「……すごく、美味しかった」

「そう? じゃあなんでそんなにむくれているの?」


(むくれているのではなくて……恥ずかしくて顔が見られないのよ!)


サラは内心でそう叫んでいた。

あの後も、ずっと周囲の生温かい視線を感じながら、レスターが仕掛ける甘々なやり取りを交わし続けていた。


(顔を赤らめれば赤らめるほど、レスターは面白がるし……。ケーキは美味しかったけど……正直、それどころじゃなかった)


レスターの前を歩くサラの手を、レスターが引くと、サラは立ち止まった。


(せっかくレスターが考えてくれたのに、こんな態度……)


サラは気まずそうに、レスターを振り返った。レスターは優しい顔サラを見ていた。


(怒って――……いないの?)


往来の邪魔にならないように、人気の少ない路地へとサラがレスターの手を引いた。


「レスター……」

「ん?」

「お店、探してくれてありがとう。ケーキも――美味しかったし、甘いものも苦手なのに……ありがとう」


レスターの顔が見られず、下を向きながらそう告げた。


「うん」

「その……怒っていたんじゃなくて」


サラは勇気を持って、顔を上げた。


「恥ずかしくて……」


サラの顔は真っ赤になっていた。


「レスターは余裕そうだし、私ばかり動揺しているから……その、ごめんなさい」


レスターはサラをぽすっと抱きしめた。


「かわいい」

「や……やめてよ、レスター」

「どうして? 本当のことなのに」

「そういうのが……」

「それに、俺だって余裕なんかじゃないよ」

「――え?」

「馬車の中で言ったのは、少し……見栄を張った」


(馬車の中……?)


「女の子が好きそうなお店なんて知らないから、結構必死で探したんだ」

「え?」


(だって、警備のときにって……)


「警備中はそれなりに街の情報は知るけど、ピンポイントでそんな情報ばかり入っては来ない」

「そうなの?」


サラが驚いて顔をあげると、レスターはこくんと頷いた。


「カッコつけただけだよ」


(あのお菓子も、今日のお店も、レスターが私のために探してくれていたって、こと?)


サラはレスターの思いがけない告白に、胸が熱くなった。


「レスター」

「……幻滅した?」


サラは思い切りかぶりを振った。


「うれしい」

「――え?」

「レスターが……私のために探してくれていたって聞いて。すごく、嬉しい」

「そう、か」


レスターは少し照れたように顔を背けた。


「サラが気に入りそうな店を探しておくから――……また、行こう」

「うん」


サラは潤んだ瞳でレスターを見つめた。


レスターはサラの手を取ると、カサブランカまで手をつないでエスコートした。

サラは隣を歩くレスターをチラッと見た。


(こんなに……幸せで、いいのかしら?)


サラはレスターの手のぬくもりを感じながら、レスターの優しさをかみしめていた。


カサブランカに着くと、レスターが扉を開けた。


「ヴィヴィアン侯爵、お待ちしておりましたわ」


上品そうな女主人が、レスターとサラを迎え入れてくれた。


「お姉さま……?」


店内に足を踏み入れると、店員とともにユーニスが中にいた。


(どうして、ここにお姉さまが?)

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