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これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


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第22話 ぬいぐるみの秘密

課長はデリックの腕を縋るように掴んだ。


「いえ――……。私は特に何も知りません。2課の人間ですから」


デリックの淡々とした調子に、課長はガクッと膝を追った。


「そ……そうか。そうだよな。知るわけないよな。課長の私が分からないのに、課外の人間が知っていたらそれはそれで問題だし……」


課長はしょぼんとしている。


「デリック様、3課のマチルダと言います」


マチルダはデリックにペコッと頭を下げると「私もあなたと同じ意見です」と言った。


「同じというと――」

「サラのミスとは思えないんです」

「ああ、それね」

「私はサラと薬草の採取を一緒にしていました。ミツリン草が混入していないか、よく確認していましたし、いつもの彼女の仕事ぶりを見ていると、この件は違和感しかありません。サラは確かに新人ではありますが、薬品の精製については新人とは思えない実力です」


(マチルダが……そんな風に思ってくれていたなんて――)


サラはマチルダの言葉に、目の奥が熱くなるのを感じた。


「まあ、それは私も分かります。彼女の知識は新人離れしている」

「考えたくはないが――……誰か、サラくんをハメようと考えたものがいることも疑わなくてはいけないな」


課長は辛そうに呟いた。


「実は副団長から、頼まれていたことがあって」

「レスター!?」


デリックはサラの作業室をぐるっとゆっくり見回した。

そして、作業机に置かれたくまのぬいぐるみを手にした。


「そのぬいぐるみが、なにか?」


課長が不思議そうに言った。


「これは、私の試作品です」

「――え!?」


(デリック様が、くまのぬいぐるみを? 一体なんで?)


「言っておきますが、ぬいぐるみは、私は無関係ですよ。私が関係しているのはこの目です」

「目?」


(くまはレスターと同じ、グリーンの目をしていた)


「この目は魔道具です」

「え……えっ!?」

「副団長から、聞いていませんでした?」

「聞いていません」

「そうですか」

「それで、それ、なんの……」


(まさか、まさか……)


「これはサラさん、以前あなたがアイデアをくれたものです」

「アイデアって……?」

「記録用の魔道具の試作機です」


(それって……カメラってこと!?)


沈黙を守っていた3課の課長が、不思議そうにくまの目を覗き込んだ。


「記録用の魔道具、とは?」

「過去の映像を残すことができる魔道具です」

「過去の記録!?」

「まだ試作段階ではありますが――」

「すごいじゃないですか!!!」


課長は興奮してデリックの肩を力いっぱい掴んだ。

デリックは距離の近い課長に若干引いているようだが、淡々と礼を言っていた。


「で、このくま――というか、記録用の魔道具は、この室内の様子を定点観測していました」


サラは目を見開いた。


(やっぱり……。これは……いわば盗撮カメラのようなもの、ということよね。レスターはなんでそんなことを……!?)


言葉を失っているサラに、デリックは続けた。


「副団長は、私の魔道具に興味を持ってくださって――。試作品をご紹介したんです。で、そのとき、この記録用魔道具があって、副団長が留守にしている際のことを心配してこれを、と」

「心配って……」


(そういえば、乗り合い馬車のときも、心配って言っていた気が……。レスターって、お兄さまを上回る過保護なのかも……)


「まあ、私としてはこの魔道具の実用実験もしたかったのでお貸ししたんですが」


くまの目にデリックが持参した小型ライトを照らすと、空中におぼろげな光の映像が浮かび上がった。

鮮明な映像ではないが、顔は分かる。サラが作業をしている。


「特に異変はなさそうですね。もう少し進めてみますか」


デリックが小型ライトを操作すると、映像が早送りされた。


「おお! すごい!」


課長も、マチルダも、初めて見る映像に興奮している。


(あの、小型ライトのようなものは、リモコンみたいなものなのかしら。それにしても、こんなすごい試作品を短時間で作っちゃうなんて、デリック様って天才なんじゃないかしら)


「あ、誰か来ましたね」


デリックが映像を通常の速度に切り替えた。


そこには、サラが課長に呼ばれて作業室を離れた、わずか数分間の光景が映し出されていた。

誰かが、サラの鍋にそっと近づく。その人物は、懐から取り出した乾燥した草を、迷いなく作業中の薬草に混入させた。

その時間は、わずか30秒程度。一瞬の出来事だった。


「……マリアくん」


課長の声が低く響く。

映像に映っていたのは、勝ち誇ったような笑みを浮かべるマリア・ランドンの姿だった。


「……信じられません。同じ課の人間が、こんなことを……」


(確かにマリアは身勝手なところはあった。仲も良くはなかった。でも、後先のことを考えず、彼女がここまでするとは思いたくはない――)


サラは目眩を覚えた。

自分への嫌がらせのために、無関係な騎士たちの命を危険にさらす。

その身勝手な悪意の深さに、吐き気がした。


「まあ、マリアだったら有り得るわ。診療所の様子を見に来たのも、合点がいくもの」

「副団長の読みが合っていたということか」


デリックはポツッと呟いた。


「どういうことですか? デリック様」

「いや、この魔道具を使う事情を少し聞いていて。副団長は、ランドン嬢があなたに危害を加えるのではないかと気にしていたようです」

「え!?」


(そういえば、何度かマリアのことは確認されていたかも……)


「そう、いうこと……」


課長がため息をつきながら、映像から目を反らした。


「サラくん。君の責任は問わない。これは明確な犯罪だ。……私は課の責任者として、このことを騎士団に報告して、厳正に対処してもらうことにする」


サラは、はじめて見る課長の強い眼差しに気圧された。

課長は徹夜で仕上げた事故報告書を、翌日、騎士団へと提出した。

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