第15話 月夜の告白
(風が、冷たくて気持ちが良い)
2曲続けて踊ったからか、この後の告白を意識してか、頬が火照っていた。
人気のないバルコニーからは、月がきれいに見える。
さっきから、レスターは黙っている。
「あの……――レスター。婚約の件、なんだけど。返事を待たせてしまって、ごめんなさい」
「いいんだ。急に言って、君を混乱させていたことは、分かっている」
「その……。レスターのことは、好きだけど……結婚とか、そういうことを考えていなかったら……戸惑って」
「うん」
レスターがじっと私を見つめている。
(き……緊張、する)
「デニスの件も、職場の件も、たった1週間のことなのに、あなたには本当に感謝している。私はあなたと並ぶとまだまだ未熟で……――あなたの隣にいるのが私で良いのか、悩んだんだけど……その……――レスター!」
私はレスターをまっすぐに見据えた。
「私と――……結婚、してください!」
私はレスターに頭を下げた。レスターは何も言わなかった。
レスターの反応を見るため、恐る恐る顔を上げると、レスターは片手で顔を覆っていた。
「レスター?」
レスターの顔が赤らんでいる。
「……サラが、プロポーズしてくれるなんて……想定外で」
(喜んで、くれているのよね?)
レスターは私の両肩に手を置いた。
「サラ――……抱きしめても、良いか?」
「え?」
レスターはサラの返事を待たず、ぎゅっと抱きしめた。
レスターの香りに包まれる。息苦しいほどの抱擁に、幸福を感じた。
(こんなに……幸せで、いいの?)
レスターは身体を離すとチェストポケットから薄型の箱を取り出した。
その箱を開けると、エメラルドが輝く指輪が現れた。
「そ、それ……!?」
「婚約指輪だ」
レスターは指輪を手に取ると、片膝をついてサラの左手を取った。
サラの左手の薬指に、スッと指輪をはめた。
(ぴ……ぴったり……――。ドレスにしても、一体いつサイズを調べたの……?)
「サラ、私が責任を持って、君を幸せにする」
「責任」という言葉に、少し心が重くなる気がした。
が、レスターの言葉に嘘はない。
(責任感からだって、私と添い遂げてくれると言っているんだから)
「レスター、私も……あなたを幸せにしたい」
私がそういうと、レスターの口角が上がるのが分かった。
レスターは指輪の上に、ちゅと口づけを落とすと、「ようやく、君が俺のものになってくれた」と呟いた。
「レスター、この指輪……」
「気に入ってくれた?」
「すごく、きれい」
(だけど、こんな大きなエメラルド。一体いくらしたのだろう。そんなことを口にするのは無粋なのは分かっているが、前世も今世も貧乏性でつい気になってしまう)
指輪は月の輝きに、闇夜の中でもキラキラと輝いている。
(私……本当に、レスターと婚約したのね)
「サラ、指輪は外しちゃダメだよ」
そういうと、サラの瞼の上にレスターがちゅと口づけた。
◇◇◇
「サラ! その指輪!」
翌日、職場でマチルダがすぐに指輪に気が付いた。
(やっぱり、仕事場では指輪は外すべきだったか……。この指輪じゃ……気付かない方が不思議よね)
「まさか……――」
サラはこくんと頷いた。
「副団長が……」
「やっぱり~! そうだと思ったのよ。そうでもなければ、お忙しい副団長様が、3課に足なんか運ばないわよね!」
聞き耳を立てていた課内の同僚たちも、サラの指輪を見に女性たちがわらわらと集まって来る。
「すごい。これ、エメラルド?」
「なに、副団長と婚約? 電撃ね。結婚はいつなの?」
「それは……まだ、これから――」
「気軽にサラに雑用を頼めなくなるわね」
「そんな……それとこれは、関係ありませんから……」
「でも、副団長の奥さまが3課で働き続けるの?」
「え?」
「だって――副団長は侯爵家出身だし……?」
同僚たちの質問攻めに、ハッとした。
(何も考えていなかった。前世では婚約なんかしたことないし。職場でも共働き家庭が多かったから――……)
この世界だと、共働きもいるけれどそれは身分の低い者が多い。レスターは高位貴族だし、家は継がないにしても騎士団の副団長だ。妻は家の切り盛りが一般的なのだろうか。
考え込むサラに、マチルダが明るく肩を叩いた。
「まあ、そういうことは後から考えればいいじゃない!」
「そうよね。変なこと言ってごめんね」
「それにしても、サラ。今日はお化粧もして、髪型も、服も、かわいいじゃない」
マチルダの指摘に、顔が赤くなった。
(さすがに……分かりやす過ぎた? ちょっと恥ずかしい)
でも、レスターに似合う女性になるって決めたんだし。
サボり気味だった女子力向上に向けて、侍女のアンに全面協力をしてもらった。
(いままでは社畜生活で身なりに構っていなかったけど、いつレスターに会ってもいいように、少しは見られるようにしたいし…….)
「ちょっと……お洒落も、頑張ろうと、思って――」
サラが照れながらそういうと、女性職員たちからの声援に包まれた。
朝からわいわい盛り上がっていたサラたちを、後から来たマリアが冷たく見ていたことには、まるで気が付かなかった。




