表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは責任婚のはずでしたが、なぜか夫の愛が重すぎます  作者: 青海きのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/35

第14話 甘い檻と、サラの答え

「サラ、じゃあそろそろ私と踊ってくれるかな」


レスターの誘導でダンスフロアに移動する。


(レスターって、ダンスも上手)


レスターのリードのおかげで、次のステップが自然と出て、驚くほど踊りやすい。

くるっと回って、レスターに自然と身体を委ねる。

私たちのダンスに、視線が集まっているのを感じる。


(練習しておいて、良かった……)


「サラはダンスがうまいんだな」

「私は万年壁の花よ。レスターのリードがいいのよ」

「私だって言うほどご令嬢とダンスはしていないよ」

「そうなの?」

「一人受けると、面倒だからね」

「モテる男性の台詞ね」


(レスターは、容姿もよい、仕事もできる、家柄もよい。これだけ三拍子揃っていれば、モテるに決まっているか……。お兄さまはともかく、レスターに婚約者がいなかったことが本当に不思議でならない。本当にお姉さまへの思いが消えなかったから? ただ忙しかっただけ? それとも、何か他に理由が――?)


「――……妬ける?」


レスターが揶揄うように、耳元で囁いた。

妬けるか、と言われると……。


(レスターがこんな風に他の女性たちと踊って来たと思うと――)


心の中がモヤモヤした。


(叶わない思いなら、こんなに自覚したくなかったわ。もう「妹」のふりは、できない)


余裕の微笑のレスターを見る。


(レスターに私はどう見えているんだろう。好意は――持ってくれているとは思うけど。可愛い妹分? 気安い幼馴染的存在? それとも――)


くしゃっと頭を撫でたり、ジュースを渡したりしてくるレスターを思い出すと、対等の恋人に見られている気はしない。


(やっぱり――……妹ってところなのかしら)


そう思うと、レスターの笑みが悔しかった。


(私は……こんなに、あなたから目が離せないのに。全然分かっていないんだろうな)


「妬けない!」


少し悔しくなって、プイッとレスターから顔を背けると、わざと足を踏んでみた。


(これくらいは、いいわよね。いつも振り回されてばっかりだし)


「痛っ!」

「ごめんなさい。レスター。ステップを間違えちゃったみたい」


わざと踏んだのは分かっているだろうに、レスターはすぐに笑顔に戻った。


「いや、いいんだ。君に踏まれるなんて――嬉しいよ」


レスターは本当に嬉しそうに、サラの耳元で囁いた。


「足を踏まれるのがお好きなんて……レスターは変人なのね」

「踏まれるのが好きなんじゃない。サラにされることはなんでも好きなんだよ」

「なっ……」


(歯が浮くセリフってこういうこと……? レスターってこんなこと言うのね。少しはレスターを動揺させてやろうと思ったのに、結局私が動揺させられている)


「もう、いいわ」


レスターから顔を背けると、レスターがくすっと笑った。


「サラ、私は――……妬けるよ。君が他の男とこんな風に踊っていたら」

「え?」

「デニスの顔は、もう忘れたかな?」


さきほどのデニスとマリアを思い出した。

突然の婚約破棄は、正直傷ついた。

言い返せずただ謝ったことも、私が悪者みたいな噂も、腹立たしかった。

でも、さっき逃げるように去っていた二人を思い出すと、胸がすくような思いがあった。


(レスターには、助けてもらってばかりだわ)


「……レスター、さっきは、ありがとう。言い返してくれて――……スカッとしたわ」

「ふふ、結婚したくなった?」

「それは……」

「私は結構有能だろう?」

「ええ……そう、思うわ」


(自分とは不釣り合いなほど、レスターは完璧だ)


「そろそろ色よい返事を聞かせてもらえると嬉しいんだけど」


レスターの碧の瞳には、あと一歩勇気が出ないサラが映っていた。


「その……」

「やっぱり――おじさんだから、嫌?」

「え!?」


また冗談かと思ったら、思いのほか真剣なレスターの瞳にぶつかった。


「そんな――。そんな風にレスターを思ったことなんか、ない」

「そう? だったら良いんだけど。サラは何を躊躇っているのかな? 私は約束を違えるような男ではない。責任を持って、君を幸せにするよ」

「レスター……」


ちょうどそのとき、ダンスの曲が終わった。


「ちょっと、喉が渇いたみたい」


言い訳がましい言葉を口にして、ダンスフロアから出て行こうとしたら動けなかった。

レスターの手が、サラの手を握っていた。


「レスター?」


2曲目の曲が始まった。


「次も――……踊らないか?」

「え……でも」


(2曲続けて踊るのは、婚約者か、家族くらいで……。いまここで踊ってしまったら、周りにそういう関係だって宣言しているような……)


「いいだろう? これが終わったら飲物を取りに行くよ」


レスターは優しく囁いたが、掴んだ手は離してくれなかった。


「サラ、ほら。余計なことは、考えられないようにしてあげるから」

「……っ」


強引に引き寄せられた胸の中は、驚くほど熱い。

始まったのは、1曲目よりもさらに密着度の高い、スローテンポな曲。

腰に回されたレスターの手に力がこもり、逃げ場を失ったサラの視界には、ただ碧の瞳だけが映し出された。彼の瞳に映る私は、もう、彼の虜になっているのを隠しきれなかった。


兄が言っていた「逃げ場」のことを思い出していた。


もう、初めから私に選択肢なんてなかったのかもしれない。

レスターとの2曲目のダンスも、胸が苦しくなるほどときめいていた。


(もう、隠しきれない)


彼のことを、気が付いたら目で追ってしまう。

彼の隣は、今の私は不釣り合いかもしれない。

彼にとっては、責任を果たすためだけの結婚かもしれない。

もしかしたら、姉に思いを寄せているのかもれない。

もしかしたら、前世のように結婚詐欺かもしれない。


それでも――。


レスターの碧の瞳から目を反らせなかった。


やっぱり――彼が、好き。


不釣り合いなら、釣り合いが取れる人間になりたい。

責任からだとしても、姉を好きだとしても、私を騙しているのだとしても、私を好きになってくれる日が来るかもしれない。


ダンスが終わるとき、サラはレスターを見つめた。


「レスター、私……話があるの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ