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エトワール  作者: 都望偲
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17/21

暴かれた過去

滝川エイジの父、野呂文秀は横須賀市の浜急塚浜駅と言う所の駅の近くのマンションに住んでいた。

ある週末、神原、山本、吉田の三人がそこを訪れ、リビングで野呂文秀と相対した。

野呂文秀は、滝川エイジと、目元以外、よく似ていた。エイジがもう少しいかつくなり、がっしりしたような男だった。

「突然お邪魔してすみません。滝川エイジさんをめぐる、一連の事件について、調べているものですから。」山本が言った。

「私がお話し出来る様な事は、特にないと思いますよ。」野呂文秀は素っ気なく言った。

「我々の調査によると、あなたは、エイジさんの母親が亡くなった後、再婚されたそうですね。」

「ええ。その通りです。」

「それで…、誠にお聞きしづらい事なのですが…。その方、つまりエイジさんの継母となる方は、エイジさんを苛めていた…等という事は、記憶にありませんか?」

「一体、誰がそんなデマを。あいつ、小枝子はエイジを大事にしていました。ああ、大事にしすぎるくらいにね…。」

「そうですか。我々の調査とは正反対ですね。」

「『大事にしすぎる』とは、どういう意味でしょう。」神原が聞いた。

「あなたの言い方だと、まるで、二人の事を悪く言っておられるように聞えるんですけど…。」

「単なる言葉のあやですよ。深い意味はありません。」

「野呂さん、あなた方のプライバシーを侵害するのは本当に心苦しいのですが、こういう調査では、最初に包み隠さずお話いただくのが最善かと思われます。我々は持っているプロのノウハウを最大限生かして、いずれ真実にたどり着くのですから。後で真実が知れて、こちらの口から追及される方が、よりお辛く屈辱的な気分になられるのでは…。」

野呂文秀は、神原をじっと凝視し何事か考えているようだった。

だが、やがて重い口を開いた。

「私としては、一生誰にも口外したくない内容です。こんな事を他人に打ち明けなくてはならないなんて、私にとって残酷すぎます。ですが、いずれ知れてしまうのなら、今私自身の言葉で話した方がよさそうですね。でも、約束してください。今から話す内容は、決して表に出さないと。必要最低限の人にしか知られたくありません。そして、それらの人達も、決して興味半分で野次馬的な感覚で扱わず、必要以上に誰にも口外せず、極力秘密にしていただきたい。」

「もちろんです。我々は、捜査で必要となってお話しいただいた内容を軽々しく扱うことは決してしないと約束します。」

ここでやっと、野呂文秀は意を決して話し出した。

「…ええ、そうです。私は、あいつらを許せません。」

「それはまた、どういう意味でしょうか。」

「…二人は私を裏切りました。あいつらは、私が仕事で留守をしている間に、関係を持ちました。何年もの間、二人は私を欺いていたんです。」

「ええっ!」

「ですから、私にとって、二人はもう、妻でも息子でもありません。二人とはきっぱり、縁を切りました。」

「大変ショッキングなお話しで、驚きました。申し訳ありませんが、もう少し詳しく教えていただけませんか。」

「私にとっては、思い出したくもない過去なんですがね。」

「本当に恐縮です。」


探偵と刑事二人は、野呂文秀によって、驚くべき真実を聞かされた。だが、文秀が見た事実だけでは、その真実の一面に過ぎない。そこで、ここは筆者によって、全ての真実を以下に記そうと思う。探偵と刑事達も、その後の調査により、おおよそ以下と同様の真実にたどり着くのである…。


三歳の庄吉は、天使のように可愛い顔の子供だった。継母の小枝子は、そんな庄吉を異常な程に可愛がった。

いつも抱きかかえ、顔を擦り付け、キスをしたりしていた。とにかく庄吉は小枝子にとって、お気に入りのペットか玩具のような存在だった。

幼い庄吉は、小枝子の自分に対する扱いが、普通の母の息子に対するものとは違う事に気付かず、こういうものだと思っていた。

そんな日々が何年も続いた。

文秀は仕事柄、出張で家を空けることが多く、庄吉の育児は、全て小枝子に任せていた。

庄吉は中学生になった。すくすくと育ち、年の割に大人びて背の高い、ハンサムな少年になった。

十四歳の庄吉は、そろそろ思春期で、声変わりの初期を迎え、ガラガラした声になった。そして、うっすらとしていた産毛が少し濃くなった。もう小枝子は庄吉と、以前のようにじゃれ合ったり、触れ合ったりする事が難しくなっていった。

それでも庄吉は、まだ精神的には無垢な少年だったので、風呂上がりには、上半身裸で家の中をウロウロし、冷蔵庫から清涼飲料水を出して飲んだり、居間のソファに寝そべって、テレビで野球やサッカーを見たりしていた。

ところが庄吉は、いつしか、ある事に気が付いた。

小枝子の庄吉を見る目付きだった。

それは、性的なものだった…。


それから三年が過ぎた。

ある夜、文秀は深夜に出張から帰ってきた。本当は翌日帰る予定だったが、仕事が順調に進み早く終わったので、一日早く、最終電車に乗って帰宅する事ができたのだった。

もう、夜も更けていたので、小さな声で「ただいま」と言いながらそっと玄関のドアを開けて入った。

家の中は暗かった。小枝子も庄吉も、寝たのかなと思い、静かに靴を脱いで居間に入り、鞄をソファに置き、背広を脱いだ。

その時、二階の部屋で物音が聞こえた。それは、二人の人間が一緒にいる事を物語る音だった。

文秀は、まさかと思ったが疑念が振り払えず、二階に上り庄吉の部屋のドアを開けた。

「庄吉!」文秀が叫んだ。小枝子の悲鳴が聞こえた。

野呂家はこの後、大変な修羅場を迎えた…。


それから、ほどなく小枝子は家を出て行った。

文秀と庄吉は、最悪の親子関係の中、二人っきりで生活した。

そして、庄吉も大学入学と同時に家を出て行った…。


以上が、野呂文秀が関わった全ての真実なのであった…。

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