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エトワール  作者: 都望偲
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調査2

東雲あさりが、「『オーベルジュ・シェル・エトワール』の二階から階段を転がり落ちて死んだ」というニュースを聞き、東雲たにしは怯えた。

たにしは、「こんな事なら失踪が騒がれた早期のうちに、社長に報告しておけばよかった」と後悔した。

今となっては、かえって真実を告げるのが難しく感じた。

たにしは、一人で悩み、いろいろ思い返したりし、無駄に日を送った。

そのうち、一つの疑問が頭に浮かんだ。

「…自分は、タクシーで滝川エイジをつけた。他には行きかう車もほとんど無い、真っ暗な夜道だった。タクシーの車のライトは点けられていたし、あんなに長距離を、ずっと背後に同じ道を走ってくる車があれば、後をつけられているのは明白だったはずだ。なのに、なぜ滝川エイジは、自分を撒こうともせず、わかりやすくライトをつけたままで走行したんだろう…。」

たにしは、少し恐い想像をした。

「まさか、滝川エイジはわざと行き先を知らせ、あさり姉さんをおびき寄せた、とか…?」

いやいや、まさかそれは、ないだろう…。


「東雲たにしさん、ですか?」

キシモト芸能の廊下で、三人の男に呼び止められ、たにしは振り向いた。

「私は、探偵神原。こちらは神奈川県警の山本刑事と吉田刑事です。」

「はあ。」

「東雲あさりさんの事故死の件で、少しお話しをうかがいたいのですが…。」

たにしは三人を、事務所内の狭い控室のような所に連れて入った。

そこでたにしは、自分の知っている事と、疑問に思っている事まで、すべてを三人に話した。


たにしと別れ、芸能事務所を出てから、山本が言った。

「確かに、滝川エイジにしてみれば、東雲あさりを恨む事情はあったわけだしな。」

「あれだけ強引に、スキャンダルをでっちあげられればね。」神原が言った。

「それでも、殺人は行き過ぎですよ。」吉田は、やはり滝川エイジが気に入らない様だ。

「吉田、まだ殺人と決まったわけじゃないよ。」山本が窘めた。


シェアハウスの夕飯時、神原が言った。

「なあ、もしある男が幼少時代、継母に虐められていたとする。そいつはどんな大人になるのかな。」

「そりゃあ、人に因るだろ。継母ってだけでは決めつけられないよ。他にも人格形成には、要因はいくつもあるだろうし。」芳田が、考えを述べた。

「そうねえ。でも、少なくとも女性不審にはなるかもね。」多嘉恵さんが言った。

「女性不審か。なるほどな…。」神原が考え込んだ。

「…ねえ、それってひょっとして、滝川エイジ?」多嘉恵さんは勘が鋭い。

「よくわかったね。」

「だとすると、滝川エイジって、かなり屈折してるってことになるわね。だって、一見するだけだと、すごいプレイボーイじゃない。」

「まあ、確かに、今回の事件にしたって、滝川エイジのために三人の女性が事件に巻き込まれたんだからな。まさに、天性のプレイボーイだよ。」芳田が、不謹慎とは知りながらも少し羨ましく思いながら言った。

「あんなに爽やかな顔をして、悪い奴だな。」神原が非難した。

「神原さん、探偵のくせに、決めつけちゃだめよ。」

多嘉恵さんに釘をさされた神原は、ちょっと悔しそうに苦笑いした。


エイジは深夜、横浜駅に隣接する、とある高級マンションの自室の窓から、輝くネオンを眺めていた。

ネオンの光を眺めているうちに、いつしか旋風が森の夜空へと思いが移って行った。

その頬は、涙で光っていた…。

エイジの脳裏に、いつの間にか吉原尚美の面影が浮かんだ。

「尚美さん…。」エイジは呟いた。

尚美の面影は、最初は微笑んでいたが、次第に険しい顔になり、いつの間にか継母の顔に変化した。

エイジは、ハッとした。

「小枝子さん、もう、許して…。」エイジはすすり泣いた。


神原と刑事二人は、今度は芝居が終わった後に控室を訪ねた。

「お疲れのところすみませんが、少しだけお話し、よろしいでしょうか。」

「ええ、なんでしょう。」

「東雲あさりさんが、『オーベルジュ・シェル・エトワール』の二階の階段から落ちた件なんですが、あの夜、あなたは気付かずに自室でお休みになっていた、というのは事実でしょうか。」

「ええ、ちょっと気疲れしていた、というのもあって、すぐに眠ってしまったんです。」

「そうですか…。あの夜二階にいたのは、あなたと東雲あさりさんの二人だけなんですよね。」

「そうですが…。それが何か?」

「いや、我々の見解を申しますとね、東雲あさりさんは誰かに突き落とされた可能性が高いと思うんですよ。」

「えっ?そんな、まさか…。」

「まあ、もちろん自分で踏み外して落ちた、という線もあり得ますが…。死後の鑑定の結果からみて、やっぱり誰かに強い力で突かれたと考えるのが妥当かと。」

「でも、僕は知りません。僕じゃありませんよ。」

「と仰っても、あの場にいたのは吉原さんとあなたの二人だけでしたよね。吉原さんが突き落としたんだとしたら、あんな赤裸々な手紙を残されたんだから、そこに正直に書いていたはずだと思うんですがね。」神原が疑わしそうに言った。

「滝川さん、あなた、東雲あさりさんには、かなり迷惑を被り腹を立てていたんじゃありませんか。」山本が聞いた。

「とんでもない。あさりさんは大先輩で尊敬する方です。迷惑とか、腹を立てるとか、そんな感情は持っていません。」

「…芸能界って、大変な所ですね。」

神原のこの皮肉な言葉は、滝川エイジの逆鱗に触れた。

「侮辱するんですか。もう、話す事はありません。帰ってください。」


「やれやれ、すっかり怒らせてしまったね。」控室を出て、山本が言った。

じっと考えていた神原は、ハッと気が付いた様に「山本、滝川エイジの継母は、どこにいるんだい?」と聞いた。


吉田は、また地道な作業をしていた。

滝川エイジの過去を調べる作業だった。

エイジは、意外と複雑な家庭で育っていた。

実の母親は、エイジを生んですぐに亡くなっていた。

エイジは母方の祖父母によって、静岡の小都市で三歳まで育てられたが、その間に再婚した父によって、横須賀に引き取られた。

それ以降の事は、エイジが普通に公立の学校に通っていたという事以外、特にわからなかった。

ただ、エイジが公立の大学に進学してすぐに家を出、一人暮らしを始めた事、それから一年後には退学し、モデル兼俳優業についた事がわかった。

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