調査依頼
坂出みずきは、立ち直るまでの一ケ月間に、いろんな事を考えた。
そして、ある疑問を持った。
この疑問は、どうしても明らかにすべきだ。
このまま葬らせてはいけない…。
神原探偵事務所に、驚くべき人物がやって来た。それは、坂出みずきだった。
神原は坂出みずきと相対して座った。
「それで、ご依頼の件というのは?」
「神原さん、滝川エイジの今回の監禁事件、ご存じですよね。」
「ええ。あなたも当事者の一人では?」
「その通りです。それで、私があなたにお願いしたいのは、この事件の真相を探る事です。」
「では、あなたはこの事件に、まだ隠れた事実がある、とおっしゃるのですか?」
「ええ…。」
「その根拠は?」
「それは…、あの夜、私が『オーベルジュ・シェル・エトワール』を抜け出し、山道を彷徨っていた時、誰かに背後をつけられている気がした事です。」
「ほう…!」神原はにわかに興味がわいてきた。
「私はあの時、自暴自棄だったので、猛獣でも幽霊でも何でも、来るなら来い!と思っていました。だから、恐怖は感じませんでした。」
「なるほど…。」
「しばらくすると、背後から黒い影が近付いて来たような気がしました。でも、暗くて寒かったし、いろんな理由で心も体もすっかり麻痺していましたので、はっきりとは判りませんでした。それから急に私は、何かにぶつかられたような感じがしました。そして坂から滑り落ちて、気を失いました。でも、後からよく思い返してみると、あれは、ぶつかられたのではなくて、押されたんじゃないか、という気がしてきたんです。」
「ほう!それで?」
「滑り落ちる瞬間に体が回転して、ほんの一瞬ですが、相手の姿が見えました。暗かったし危険を感じて気が動転していたので、はっきりと誰かは見極められなかったんですが、今考えると、あれは、もしかしたら吉原尚美さんだったんじゃないかと、思うんです…。」
「しかし、吉原さんはあの夜、ずっと滝川エイジさんと一緒だったと聞いていますよ。」
「そんなの、いくらでも嘘が言えると思います!だいたい、庄ちゃん…、いえ、滝川エイジがあの女を選んだ事自体、私はおかしいと思ってますし…。」坂出みずきは、ムキになって言った。
「それは何故です?」神原は、大きな興味を持って聞いた。
「だって吉原さんは、エイジの継母と、顔や雰囲気が似てるんですもの。」
「滝川エイジの母親は、継母だったんですか。」
「ええ。エイジはその継母と上手く行ってないようでしたから。」
「なぜ、それを知っているんです。」
「随分前ですけど、見た事があるんです。エイジの継母が、事務所を訪ねてきたのを。」
「ほう、それで?」
「二人は言い争っている様でした。私が通りかかると、二人は黙りましたが、エイジが『お願いだから、もう、やめてください。』と言っているのが聞こえました。」
「ふうむ…。」神原は腕組みをして、眉間に皺を寄せた。




