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エトワール  作者: 都望偲
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尚美の告白

滝川エイジが、吉原尚美によって「オーベルジュ・シェル・エトワール」内に監禁されていたという事は、保護される二日前に吉原尚美本人によって出された手紙が、丁度二日経って警察に届いた事によって知らされた。尚美は、雪による郵送の遅れまで考えたものと思われる。

そこには、吉原尚美がどのようにして滝川エイジをおびき寄せたか、どのように言葉巧みにエイジを誑かし、屋敷内に留まらせたか、が詳細に記されていた。

そしてその間に、東雲あさりと坂出みずきが来訪した事も記してあった。


東雲あさりが、強引に滝川エイジを連れ戻そうとした事、それを阻止するために「オーベルジュ・シェル・エトワール」の客として宿泊させた事、そしてあさりがワインを飲みすぎて酔っぱらった末、夜中に階段から転がり落ちて死んだ事も詳細に述べてあった。

その上で、この監禁事件の発覚を恐れ、翌日の深夜に一人で、あさりの死体を旋風渓谷に落した事も明らかにしてあった。

そして、滝川エイジはあさりとディナーを共にした後、すぐ就寝したので、それ以降の出来事については何も知らないと明記してあった。


坂出みずきは、滝川エイジに復縁をせまりに来た。それも阻止したかったため、エイジに内緒でみずきを外に追い出した。それ以降の事は知らない、と書いてあった。


警察は、保護した滝川エイジにも事情聴取をした。

エイジの供述も、吉原尚美の手紙に記してあった事と、大筋では一致した。

ただ、エイジには監禁されていたという認識は一切なく、屋敷の外にも自由に出入りしていた事、エイジが尚美を愛しており、二人は結婚の約束をしていた事が、エイジによって特に強調された。そして、坂出みずきを吉原尚美が追い出したと書かれていたが、実際には坂出みずきが、深夜に勝手に屋敷を抜け出して行方不明になったのだと、エイジは語った。


すぐに旋風渓谷の捜査が行われ、尚美の文面通りに、東雲あさりの遺体が見つかった。

そして、東雲あさりの遺体が発見された地点から上流に二百メートルほど遡った地点に横たわっている吉原尚美の死体も発見された。

吉原尚美の死を知らされた滝川エイジは、崩れ落ちるように床に倒れて泣いた。


「週刊TROUTH」をはじめとする各芸能雑誌では、悲劇のヒーローとして滝川エイジを扱う記事を書いた。

昼の情報バラエティなどでも、滝川エイジのドラマのような物語りを連日取り上げ、大いに盛り上がった。

その後、滝川エイジは少しずつ立ち直り、演技派俳優として世間に知られるようになっていった。


旋風が森の裏山に、小さな村があった。そこに、親切な初老の夫婦が住んでいた。二人は、約一カ月前の早朝、仕事に出かけようと表に出た時、すぐ近くの道路の端に倒れている女性を見つけた。それは、坂出みずきだった。

坂出みずきは、体が冷え切っていたが、まだ生きていた。坂道を滑り落ち、腕を骨折し、あちこち打撲もしていた。これは大変だと思った二人は、急いでみずきを家に運び入れ、手当てをした。

幸いな事に、その夫は医者で妻は看護師で、二人して近くの医院に勤めていた。その為、みずきに対して的確な処置ができたのだった。

みずきは、医院での診察を拒否した。

「お願いですから、私の事は、誰にも話さないでください。」と助けてくれた老夫婦に懇願した。

二人は、みずきの願いを受け入れて、家に滞在させてくれた。

みずきは、骨折や打撲よりも、精神的なダメージが大きかった。

何を聞いても答えようとしないみずきを、二人は本人が立ち直るまで世話をした。

みずきは、まる一カ月、その家で世話になった。そして、まだ雪が残る早春の頃、感謝して東京へ戻って行った。


「滝川エイジ、すっかり立ち直ったみたいね。」多嘉恵さんが、昼食のオムライスを配りながら言った。

「わっ、オムライスだ!やったー!!」圭助が歓喜の声をあげた。

「今ではすっかり、本物のスターだね。」芳田も、多嘉恵さんに「ありがとう」の会釈をしながら皿を受け取った。

「前も、スターだったじゃん。」圭助が大口を開けて食べながらムシャムシャと喋った。

「前は、イケメン若手俳優としての人気だったけど、今では実力が伴うスターになったって事さ。」

「ホント、そうよねえ。でも、あれだけの事を経験すれば、やっぱり人間って変わるんでしょうね。」

「まあ、結果的には良い方に変ったから良かったものの、悲しい話だよ。」

そこへ、神原がやってきた。

「おい。坂出みずきが生きて帰ってきたらしいぞ。」

「本当?それはよかったわ!」

「今回の事件で、唯一の明るい話題だな。」

「それで?坂出みずきは今まで何してたの?」

「さあ、それはこれからの事情聴取でわかることさ。」

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