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天才魔術師父子と私の魔法のごはん  作者: 氷雨そら


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ファクターX 3


「……」


 旦那様が、少しだけ頬を赤くして私から視線を逸らした。


「君は魔法が使えないじゃないか」

「ええ……そうですけど」


 以前は魔法が使えないことで自分を卑下していたが、結婚してからの私は変わった。

 魔法が使えなくても、旦那様のためにできることがたくさんあったし、彼もそれでいいと言ってくれた。


 それに、魔法陣を理解する能力がものすごく高い旦那様は、すべてを魔力と数値に一回分解してからでないと理解できないようで、私から見るとものすごく不便に見えたのだ。

 瞬時に理解しているから、周りからは()()に見えるだけで。


 ――それが彼の当たり前であり、魔力がまったくなくて魔法陣がまったく理解できないことが私の当たり前なのだと気がついたのは、ロイが生まれてからだ。


 魔法が使えない、それは、通常であれば蔑みの言葉なのだが、彼の言葉はそういう意味ではないのだろう。


「あの、今日みたいな小爆発を起こさないように気をつけます」

「ああ、気をつけてくれ。だが、ロイはまだ幼いし……」

「そうですね。監督ができておりませ……」

「違う! 俺が言いたいのは!」


 彼には私との結婚生活の記憶がないはずだ。

 だから、結婚して変わったはずの彼は今ここにいない。

 でも知っている。彼は、こういったことで私を蔑んだり責める人ではない。


「……っ」


 つい、目が潤んでしまった。

 でもこれは、彼が大きな声を出したからではない。

 記憶をなくしてしまう前の、旦那様の行動の意味に気がついたからだ。


「は……!? 怒鳴って悪かった!」

「違います。つまり、あの魔石が全部そうだった――そういうことなのでしょう?」


 不思議に思っていたのだ。宝物庫にある、私の瞳の色の魔石。

 たくさん同じ物があるから『どうして無駄な物を買うのですか』と聞いたら、あの日旦那様は困ったように笑ったのだ。


 ……理由を言ってくれたらよかった。


 私は多分『こんなにたくさん魔石が必要になるほど命の危機に陥ったりしない』って言ってしまったかもしれないけれど。


「……君は魔力がないし、ロイは幼い。だから、いざというときにすぐに移動魔法が発動すれば、効率が良いじゃないか」

「ええ……ありがとうございます」

「でも、この魔石は今の俺が用意したんじゃない」

「私たちを心配してつけてくれる、今のあなたにお礼したのですよ」

「……もっと良い魔石もたくさんあるのに、非効率的だ。普段な選ばないはずの選択をさせる……ファクターXは今までの()()を変えてしまう」


 旦那様のことを見つめる。

 彼はいつも()()という言葉をとても嫌そうに言う。

 確かに私も好きではない。

 それって、逆の方向には()()()()()()があるってことだもの。


「……結婚する前は、私も普通になりたかった」

「ルナシェ嬢?」

「レイン」

「……」


 私は、彼を愛称で呼んだ。

 否定されるかもしれないと思いながら。

 でも、これは私の役目で役割なのだ。


「――ルナ……」

「仕事に戻ってください。副団長様が迎えに来てしまいますよ」


 彼が急に消えて、魔術師団本部では大騒ぎになっていることだろう。

 すでに小一時間は経っている。

 私の役割は、旦那様をきちんと出勤させることなのだ。


「……ああ、そうだな」

「ええ、もう大丈夫ですから」

「だが、()()()()

「……っ」


 旦那様は、少しだけ考え込んで、それから私に視線を向けた。


「君の手がそんなふうに傷つくことがわかっているのに、魔導具に魔力を込めないなんて、愚か者のすることだと思わないか?」

「えっ……」

「確かに皆を待たせることは問題あるが……これは、ファクターXに影響されていない合理的な判断のはずだ」

「……」


 私の手荒れと、重要な筆頭魔術師のお仕事を秤にかけてしまっている時点で()に惑わされているのではないかと思うのだが……。

 今、そのことを彼に言っても困らせてしまうだけだろう。


 そもそも彼は、こういったときには絶対に譲らないのだ。


「お父さま! 魔力を込めてよ!」

「ああ、任せておけ」


 ロイまで言い出したなら、止めても時間の無駄に違いない。


「わかりました。お願いします」

「……ああ」


 水汲み、洗濯、皿洗い、掃除、料理、お風呂の準備、はたまた水で清浄さを保つお手洗いまで。

 我が家の魔導具はとても多いが、今朝からほぼすべて魔力が切れている。

 我が家の魔導具の数はとても多い。


「俺はなぜ、こんなに作った!? どれもこれも王国の最先端技術を搭載しているじゃないか」

「魔導具作りが、あなたの趣味なのだと思っていました」

「そんなはず――あるか!」


 そう言いながらも、彼は魔力を次々込めていった。

 私はロイと一緒に、手際よいその様子を眺めるのだった。



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