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天才魔術師父子と私の魔法のごはん  作者: 氷雨そら


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ファクターX 2


 ――あれから一週間。

 旦那様が失ったのは、私に求婚したことと、それ以降の結婚生活とロイに関する記憶だった。

 そのほかの記憶と、学生時代に私と一緒に過ごした日々は覚えていたのが不幸中の幸いであろう。


 記憶は戻らないまま、彼は筆頭魔術師としての多忙な日常に復帰。

 私と言えば、家事に忙殺される日々を送っていた。


「結局のところ、旦那様が定期的に魔力を補充してくださっていたのねぇ」

「お母さま、遊んで!」

「ごめんなさいね。洗濯の魔導具も調理の魔導具も動かないの……手洗いをするしかないわ」


 オーランド一家がいたなら、なんとかしてもらえただろうが……。

 事件の闇は思った以上に深いらしく、侍女長のライラまで加勢に行ってしまった。

 記憶をなくしてしまった旦那様には、魔導具に魔力を込めておくという考えがなかったのだろう。


「……私がお願いしなくても、毎日、当たり前のように」

「僕が魔力を込めてあげる~!」

「あっ」


 ロイが魔導具の魔石に触れて力を込めた。

 魔石は強く光り……そして、黒煙を上げ始めた。


「離れるわよ!」

「わ……わわ!?」


 ロイを抱き上げて魔導具から離れると、ボンッと小さな爆発音がして魔導具は壊れてしまった。


「ごめんなさい……お母さま」

「しかたがないわ。思ったよりも繊細だったのね……旦那様が戻ってきたら、きっと直していただけるわ」

「うん……お父さまに、ごめんなさいする」


 そのときだった。

 洗濯室の床に魔法陣が展開されていった。

 突然の出来事に狼狽しかけたが、この金色の魔力には覚えがある。


「旦那様……」

「お父さまだ!」


 魔法陣が一際強く輝いた。

 その直後に、魔法陣の中心に立っていたのは旦那様だった。

 旦那様は怖い顔をしていたが、私とロイを見るとぽかんと口を開いた。


「なぜ、急に転移魔法が起動した」

「……そういえば、旦那様は時々急に現れることがありました」

「制服につけられた飾りに魔力と魔法陣を仕込んでいたのか……魔石が割れている」

「まあ、なんてもったいない」

「君たちに何かが起きたときに、魔力がなくなったとしても、仮に今のように記憶をなくしても駆けつけられるように準備していたのかもしれないな……なんという執念。ファクターXの影響か?」


 旦那様は神妙な面持ちで周囲を警戒し……洗濯の魔導具の残骸に視線を向けた。


「恐ろしいほど高度な魔導具だと思っていたが……なるほど、ロイが魔力を注いだか」

「ごめんなさい、お父さま」

「怪我は?」

「お母さまが抱っこして逃げてくれたから平気」

「それならいい。それにしても、以前の俺は定期的に魔力を補充していたのだな。まめなことだ」


 旦那様の視線が私に向く。

 彼は、私の手を凝視して、それからツカツカと近づいてきた。


「真っ赤じゃないか……それに指先も割れている」

「……」


 手を隠そうとしたが、引き寄せられてしまった。


「俺は……治癒魔法は得意じゃないからな」

「作り置きの軟膏があります」

「……ああ、もしや皿も手洗いか」

「お母さまはね、お水も井戸から自分で汲んできたんだよ!」

「……言ってくれればいいものを」

「お忙しいと思って」


 旦那様はため息をついて、洗濯の魔導具に近づいた。


「これは……新しい物を作るしかないが……正直言って自信がない」

「これは改良型だよ」

「古い物がある?」

「うん! 物置にしまってあるの」


 ロイに手を引かれて、旦那様は物置に向かった。

 私も彼らのあとを追いかけるが……仕事中だったのに戻らなくていいのだろうか。


「なるほど、高度な技術をこんなに小さく」

「使えるかな」

「おそらく、改良型は小型化しただけだろう。魔力を込めてみよう」


 旦那様が魔石に触れると、魔石は穏やかに光った。

 ロイは真剣な面持ちでそれを見つめている。


「魔力の出力が5%に安定。前後のブレはわずか0.1%」

「本当に……俺の子どもなんだな」

「信じてなかったの?」

「魔力は嘘をつかない。だから、信じてはいたが……日々、俺に似たところを見つけてその度に驚くんだ」

「言っていることが難しいよ」

()()は、魔力の出力を知るほうが難しいらしいが」


 魔力の出力に割合……二人の会話は今までと変わりがないようだ。

 旦那様は魔力を込め終えると私のそばに来た。


「お仕事中に呼び出すことになり申し訳ありません」

「……いや、不思議なことに心臓が急に激しく鼓動した。ファクターXの影響だろうか」

「……ファクターX」


 それは愛のことなのだが、旦那様は頑なにそう呼ばない。

 確かに愛は、心臓を高鳴らせるし、顔を赤くさせるし、時にいつも以上の力を発揮させるかもしれない。


「無事でよかった」

「ありがとうございます」

「……さて、宝物庫で魔石を付け直すか」


 旦那様はいつも、私の瞳の色の魔石の飾りを身につけていた。

 きっとほかの色になってしまうのだろうと寂しく思っていたが……。


 旦那様は困惑した表情で宝物庫から戻ってきた。

 彼の飾りの魔石は、私の瞳の色……つまり淡い緑だった。

 



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