愛と魔力の配分 5
救護所で旦那様は精密な魔力検査を受けたけれど、私は受けていない。魔力がない私は検査を受けても『魔力がない』という結果になるだけだ。
アーノルド先生は、それなのに私に無理をせず休んでいるように告げた。
確かに軽い頭痛がするけれど……それよりも旦那が心配だ。
「大丈夫ですか?」
「君こそ」
「私は大丈夫ですよ?」
旦那様はガバリと起き出した。
「大丈夫かどうかなんて、分からないじゃないか!」
旦那様は、魔力で他人の体調まである程度わかるらしい。
けれど残念ながら私には魔力がない。
多分、旦那様が私に対して過保護で心配性になるのは、魔力がなくて判断できないのも理由の一つだろう。
でも今、旦那様は私よりも自分の心配をするべきだ。先ほど、アーノルド先生から絶対安静だと言われたのに。
「アーノルド先生の話を聞いていましたか? 絶対に動いちゃだめなんですよ!」
「お父さま、起きたらだめなのー!!」
「この程度、どうということは――泣かないでくれ」
「動いたら泣きます」
「僕も泣くよ!」
旦那様は、私たち二人の泣き落としに何も言えなくなり、横になった。記憶があろうとなかろうと、彼が私たちの涙に弱いことは代わりないのだ。
「君たちが泣くかもしれないと思うと、心の中が水の魔力80%で満たされる」
「わかりにくいです」
「俺にはこれが……」
「でも今、火の魔力10%に闇の魔力2%になりましたよね?」
「なぜわかる」
私は口元を緩めた。
「お母さま、正解だよ!? すごーい!!」
ロイは嬉しそうだ。もちろん、魔力が見えるわけではない。でも、彼がどんなときにどんな魔力配分になるか、私は最近ようやく理解しつつある。
繰り返し、繰り返し、彼の言葉を聞いて、彼の様子を見てきたからだろう。
答えるとしたら理由は一つしかない。
それほど彼に興味を示し、知りたいと思ったのは――。
「愛しているからですね」
「また、愛か……」
「火の魔力50%」
「当たっている――つまり君はすごい」
旦那様は、横になったままそう言った。
私は起き上がり、彼のベッドサイドの椅子に座る。旦那様は、眉間にしわを寄せた。
「君こそ寝ているべきだ。何が起こるかわからない」
「特に何もしていないのに?」
「魔獣が君のいうことを聞いている。異常事態だ。しかも君には魔力がない。だからきっとほかに……」
イストは不思議な犬だ。
犬だと思っていたけれど、犬は喋らないはずだ。
――それなのに、飼い犬だと私は信じていた。そうイストの本当の名は、ヴェリーキドゥーフイストーニカ。そのことも忘れ去っていた。
《次も、その次も名を呼べば、どこにでも馳せ参じよう》
『次は僕が君を守るから!』
ガチャンっと記憶の奥底でさびた錠前が開くような音が聞こえた。
「ルナシェ!」
「お母さま!」
旦那様とロイの声が遠くで聞こえる。
戻らなくちゃ、と思うのに……強い眠気で目が開けられない。夢なのだろうか、開いた扉の向こうから、黒い手が私を引きずり込もうとする。
《あーあ、記憶の扉が開いてしまったか》
「イスト……」
《ルナシェ、今日まで馳走になった肉入りスープ1000杯分助けてやろう》
何とか目を開ければ、イストは暗闇の中で神々しく光り輝いていた。
でも、話していることは、尻尾を振って食べていた肉入りスープについて。
やっぱりイストはイストだなぁ……。
そんなことを思ったのが最後だった。




