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天才魔術師父子と私の魔法のごはん  作者: 氷雨そら


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愛と魔力の配分 4


「お父さま、お母さま、イスト……どうしたの?」

「ロイ! 無事だったか……!」


 旦那様が、制服の魔石を引きちぎった。

 彼が記憶を失うまでは、王都に小さなお屋敷が建つほどの価値を持つ魔石がすぐに消費されてしまうなんて見たことがなかったが……。

 宝物庫にはまだまだたくさんあるのだから、問題ないのだろうけれど。


『王城か……この場所に置いておけば良いものを』


 やはり不穏なイストの声が聞こえて消えた。

 記憶に少しの引っかかり。そう、旦那様が私の前で魔石を引きちぎったのは、最近まで本当になかっただろうか……。


 今になって、違和感が膨らむ一方だ。

 旦那様は、結婚してから、結婚する前も、いつだって私のことを守ろうとしていたのではないか。


「お父さま、また無理して~!!」

「ロイ?」

「魔力がなくなったら、無理しちゃだめだっていつも僕に言っていたでしょ!」

「旦那様……」

「問題ない」


 旦那様の鼻から、ボタボタと血がこぼれ落ちた。

 慌ててハンカチを差し出すと、旦那様は少しためらってから受け取り鼻に当てた。


「――今の移動、魔石の力だけではないのですか」

「……君が知る必要は、な……泣かないでくれ」

「泣きますけど」

「少しだけ、足りない分を別の力で補った」

「別の、力」


 ああ、そうだ。

 どうして忘れていたのだろう。

 魔法を使うには、二つの力が必要だ。


 魔力と魔法陣の理解能力、両方があってはじめて魔法を行使できる。


 ――魔力がないのなら【命】を注げばいい。


 この言葉を聞いたのは、一体いつのことだったか。

 結婚する前の話だろう。記憶の中の彼には、まだ幼さが残っている。

 命を注ぐなんて恐ろしい。

 それなのに何でもないことのようにそう言って、旦那様は、今みたいな状態になった。


「ルナシェ……君は問題ないのか」

「え、私ですか?」


 私と言えば、とくに何もしていないし、問題があるのは旦那様だろう。

 

 ――あれ、でも少しだけ寒気がするかもしれない。


「おやおや、こんな危険な場所にご家族を連れてきてしまわれたのですか?」

「――アーノルド先生!」


 ロイが走り寄って抱きついたのは、家庭教師を務めてくださっているアーノルド先生だった。

 彼がいるということは、ここは王城内の魔術師団本部ということなのだろう。


「……夫人も、サーシェス殿も、少し休んだ方がいいようですね。ひとまず救護室へ」

「いや、俺は……」

「――絶対に休んでください! 魔法が使えなくなったらどうするんですか!」

「……わかった」


 魔力を枯渇させるほどの魔法は、普通は使えない。

 何度も無理を繰り返せば、魔法が使えなくなるばかりか、死んでしまうことだってあるという。

 旦那様はただでさえ戦場で無茶なことをしているのだ。


 ――以前にも何度もこんなことが。


 急に沸き上がってきた強い不安に耐えきれず、私は旦那様の手を引いた。


「休みましょう、すぐに、今すぐ!」

「――えっと、泣かないでほしいのだが」

「寝てくれないともっと泣きます!」


 旦那様が、こんなに困った顔をしたのは初めてかもしれない。

 いや、何度も見た気がする。きっと私が忘れてしまっているのだ。


 旦那様と過ごした日々は、穏やかだったけれど、ほんの些細なことだって大切で、忘れられようはずもない。

 それなのに、旦那様が私に求婚したことや結婚生活の記憶を失ってから、違和感は強くなる一方だ。


 もしかすると私は、とても大事なことを忘れているのかもしれない。


「夫人もですよ……?」

「え……私は、なんともな……」

「困りましたね。夫人は無自覚ですか」


 アーノルド先生が杖を手にして振るうと、土でできた小さな人形がたくさん集まってきた。

 それらは寄り添うとひとつになって大きな土の人形になり……私を抱き上げた。


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