愛と魔力の配分 3
目覚めると、枕元にはお水が用意されていた。まだ、空は白んできたばかりだ。
部屋の外に出て、旦那様を探す。
「……」
旦那様は、魔導具に魔力を込めていた。
鍛錬になるほど大変だと言っていたのに、律儀なことこの上ない。
「旦那様……」
「止めるなよ。これは、鍛錬のひとつで」
「はい、ありがとうございます」
「……」
旦那様の耳が赤い。
言い訳をしながら、照れているのだ。
「愛しています」
「は?」
「……毎朝、言うと約束しましたので」
「そんな約束が、もしや俺も言うのか」
「……いいえ」
確かに旦那様は、毎朝私に愛しているといってくれた。
けれど、彼は私に求婚したことも、結婚していたことも忘れてしまったのだ。
それにもかかわらず、私のために魔導具に魔力を込めてくれている。
十分すぎるだろう。
彼は長々とため息をつき、それから私に向き直る。
「……っ、俺は、君のことを、ずっと」
――だが、その直後。
パパパパパーンッ!!
激しい音を立てて、いろいろな方向から何かが爆ぜるような音が響き渡った。
「――っ」
旦那様が指先で魔法陣を描いた。私の足下から風が吹き上がる。
「君はここから動くな――」
旦那様の息が上がっている。
こんなに苦しそうな旦那様を見たことがない。
――パパンッ!!
次いで、頭上でも何かが爆ぜた。
見上げると、照明の魔導具が粉々になり、ガラスの破片が降り注いでいた。
風が徐々に弱まり、落下のスピードが速まっていく。
「魔力が、尽きたか」
「え、なぜ」
「説明はあとだ。すべては俺のせいだ、すまない」
旦那様が覆い被さるように私を抱き締めてきた。
「や、嫌です! 旦那様が怪我しちゃう!」
「平気だ。君よりは頑丈だろうし、死にはしない」
「だめ! 旦那様を助けて! ヴェリーキドゥーフイストーニカ!!」
――それは、とても嫌そうな鳴き声だった。
『わふ』
次の瞬間、先ほどよりも強い風が足下から沸き起こり、私たちを避けてガラスの破片が散らばっていった。
――魔法、だ。でも、旦那様は、魔力が尽きてしまったと言ったはず。
魔力が尽きてしまえば、筆頭魔術師である旦那様ですら、魔法を使うことなどできはしない。
「魔獣? なぜ、わが家に魔獣がいる」
旦那様が、制服の魔石を引き千切った。
魔力が溜めこまれた魔石を。
「待ってください! あれはうちの飼い犬です!」
「飼い犬!? 魔獣だ!!」
「えっ!!」
「白銀の毛並みでしかも喋るなんて、神格化されるレベルの高位魔獣だ!」
「……えっ?」
私の脳裏に浮かんだのは、私があげた骨付き肉にかぶりつきながら、ぶんぶん尻尾を振っているイストの姿だった。
「君だけでも、王立魔術師団まで」
『まあまあ、レインハルト、落ち着けよ。今のお前じゃ、俺に一矢報いることすらできない。ロイも守れない』
告げられたのは、なんだか眠そうな、でも内容は不穏な、いつものイストの声だった。




