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天才魔術師父子と私の魔法のごはん  作者: 氷雨そら


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11/12

愛と魔力の配分 3


 目覚めると、枕元にはお水が用意されていた。まだ、空は白んできたばかりだ。

 部屋の外に出て、旦那様を探す。


「……」


 旦那様は、魔導具に魔力を込めていた。

 鍛錬になるほど大変だと言っていたのに、律儀なことこの上ない。


「旦那様……」

「止めるなよ。これは、鍛錬のひとつで」

「はい、ありがとうございます」

「……」


 旦那様の耳が赤い。

 言い訳をしながら、照れているのだ。


「愛しています」

「は?」

「……毎朝、言うと約束しましたので」

「そんな約束が、もしや俺も言うのか」

「……いいえ」


 確かに旦那様は、毎朝私に愛しているといってくれた。

 けれど、彼は私に求婚したことも、結婚していたことも忘れてしまったのだ。


 それにもかかわらず、私のために魔導具に魔力を込めてくれている。

 十分すぎるだろう。


 彼は長々とため息をつき、それから私に向き直る。


「……っ、俺は、君のことを、ずっと」


 ――だが、その直後。


 パパパパパーンッ!!


 激しい音を立てて、いろいろな方向から何かが爆ぜるような音が響き渡った。


「――っ」


 旦那様が指先で魔法陣を描いた。私の足下から風が吹き上がる。


「君はここから動くな――」


 旦那様の息が上がっている。

 こんなに苦しそうな旦那様を見たことがない。


 ――パパンッ!!


 次いで、頭上でも何かが爆ぜた。

 見上げると、照明の魔導具が粉々になり、ガラスの破片が降り注いでいた。


 風が徐々に弱まり、落下のスピードが速まっていく。


「魔力が、尽きたか」

「え、なぜ」

「説明はあとだ。すべては俺のせいだ、すまない」


 旦那様が覆い被さるように私を抱き締めてきた。


「や、嫌です! 旦那様が怪我しちゃう!」

「平気だ。君よりは頑丈だろうし、死にはしない」

「だめ! 旦那様を助けて! ヴェリーキドゥーフイストーニカ!!」


 ――それは、とても嫌そうな鳴き声だった。


『わふ』


 次の瞬間、先ほどよりも強い風が足下から沸き起こり、私たちを避けてガラスの破片が散らばっていった。


 ――魔法、だ。でも、旦那様は、魔力が尽きてしまったと言ったはず。


 魔力が尽きてしまえば、筆頭魔術師である旦那様ですら、魔法を使うことなどできはしない。


「魔獣? なぜ、わが家に魔獣がいる」


 旦那様が、制服の魔石を引き千切った。

 魔力が溜めこまれた魔石を。


「待ってください! あれはうちの飼い犬です!」

「飼い犬!? 魔獣だ!!」

「えっ!!」

「白銀の毛並みでしかも喋るなんて、神格化されるレベルの高位魔獣だ!」

「……えっ?」


 私の脳裏に浮かんだのは、私があげた骨付き肉にかぶりつきながら、ぶんぶん尻尾を振っているイストの姿だった。


「君だけでも、王立魔術師団まで」

『まあまあ、レインハルト、落ち着けよ。今のお前じゃ、俺に一矢報いることすらできない。ロイも守れない』


 告げられたのは、なんだか眠そうな、でも内容は不穏な、いつものイストの声だった。

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