愛と魔力の配分 2
旦那様は、黙り込んだままシチューを食べ終えた。
そして、ポツリとこう言った。
「美味い……」
「記憶がなくても、味覚は変わらないですものね」
「土と風の魔力は本来なら打ち消し合うはずなのに、共存しているのはなぜだ」
「――野菜のお出汁と鳥のお出汁の配分でしょうか」
「では、光の魔力は」
「両方南端から届いたらしく、太陽をたくさん浴びているから……ですかね」
旦那様が目を丸くする。
メモ帳を取り出すのは、やめてほしい。
「いつもと同じですよ」
「君は……料理を魔力で分析されても、気を悪くしないのか」
「……ふふ、今でも愛情100%だと思っていますけどね」
旦那様のお皿を片付けようとしてふと視線を感じる。
顔を上げると、私たちの距離はとても近かった。
あいかわらず、綺麗な瞳だ。
金色の瞳はお月様のようで、結婚して六年経った今でも見惚れてしまう。
「お酒はいかがですか?」
「――それは、自分で用意する。君は飲むのか?」
「少しだけ……」
お酒はそれほど得意ではないが、甘ければ飲める。
そういえば、記憶を失う前は旦那様は良く私にカクテルを作ってくれた。
いつも同じカクテルを……。
――忘れてしまっただろう。少し残念だ。
旦那様は席を立ち、お酒がしまってある棚を開けた。
そこには、たくさんのお酒が並んでいる。
「ああ、そういうことか」
「……旦那様?」
「少し待っていてくれ」
旦那様は、二種類のお酒を手にして台所に向かった。
それから、グラスを二つ持ってくる。
それぞれのグラスには、お酒が満たされている。
――淡い、ピンク色の、カクテル。
「……それ」
「飲んでみてくれ」
旦那様がニヤリと笑った。
彼は、いつものようにロックのウィスキーを手にしている。
カクテルを口にした私は、ますます驚いた。
「――どうして、いつもの味」
「甘い酒は飲まない。つまり、君のために用意してあったのだろう」
私は一人の時にはお酒を飲まない。
いつも、旦那様が用意してくれていたのだ。
この味の……カクテルを。
「あ……もしかして、私と結婚する前に誰かに」
「君と結婚してからの記憶はないが、絶対浮気しないだろうし――記憶にある限り、誰かと付き合ったことはない」
「……」
ちょっと疑ってしまった。それくらいは、許してほしい。
だって、旦那様は魔力が強くて、格好良くて、とても素敵なのだ。
「……そんな目をして。作ったカクテルは、君のイメージだ」
「再現できるものですか」
「……誰かをイメージした魔力配分になるように、同じ酒を使ってカクテルを作ったら、いつでも同じものになるだろう。魔法薬を作るときと同じだ」
――普通は、魔力を配分してカクテルを作ることはできないし、同じものになるはずもない。
旦那様は、やっぱり天才なのだ。
「すごい技術ですね。でも、私には魔力がないのに」
「……? そういえば、不思議だな。ファクターXか?」
「恋の味……ということですか」
「恋に味があるのか?」
「甘ずっぱいです」
旦那様に笑いかけると、彼の頬は真っ赤になった。
彼はお酒に強いはずなのに、もう酔ってしまったのだろうか。
でも、私の頬だってたぶん真っ赤だ。
私たちは、今までのように二人でお酒を飲んだ。
ちょっと、飲み過ぎてしまったのだろう。目覚めたら、私はベッドの上にいた。




