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しがない伯爵令嬢は死に戻りで未来を手に入れます~精霊使いが家出したとたんに聖騎士と義妹が保護しようとしてきます  作者: 奏多


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9/23

9:新しい家 2

 とにかく管理人の女性ベリータが、気のよさそうな人で良かったと思う。

 前回の人生で、ずっとメイドや使用人には冷たくされ通しだったので、人と関わる時にはどうしても緊張してしまいそうになる。


 またいじめられるんじゃないか。

 もう一度、無視されるんじゃないか。

 見下したような目で見られるんじゃないか、と。


 ルディアス様が去った後も、同じように対応してくれたらいいけど……。

 と思っていたら、ルディアス様が茶器を持って戻って来た。

 湯が沸くのが早いようだけど、魔法を使ったのかもしれない。


「レモンバームの茶だ。すぐに人が来ると思わなくて、庭ですぐ摘める物で淹れたんだが」


「ありがとうございます、すっきりした味で好きです」


 お礼を言うと、ルディアス様はちょっと慌てたように手をわたわたさせ、持っていたカップを落としかけた。

 まだお茶を入れてなかったので、こぼすことはなかったけど。


「そ、そうか、好きか。君にそう言ってもらえて良かったよ」


「あの、大丈夫ですか?」


 わざわざここまで送ってくれたりして、疲れたんだろうか?

 聞くと、「いいや」とルディアス様は答える。


「少し手が滑っただけだ。おほん」


 咳払いし、ポットのお茶を注いで出してくれる。

 レモンに似た爽やかな香りがする。

 湯気と一緒にそれを吸い込むだけで、なんだか喉にいい感じがしてくるお茶だ。

 口にふくんでも、ほんのりとした酸味がある。

 なにより暖かい飲み物のおかげで、心が落ち着く気がした。


 ルディアス様は咳払いしていたけど、まさか喉に違和感があってこのお茶を選んだんだろうか。

 さっきから様子がおかしいのは風邪をひいているせいとか?

 でも聖騎士として鍛えているだろう人が、そうそう風邪を引くこともないだろうし。


「そういえばなんだが、食事はベリータに来て作ってもらえるように指示しておいた。ベリータは元々私が管理を任された上で配置した人員だ。給金のことも気にせずに使ってくれ」


「ありがたいですが、お給金のことはそういうわけにも……」


 食事の用意をしてくれるのはありがたい。

 私自身は、料理をほとんどしたことがないし、この町でのパンの買い方も作り方もわからない。

 でも私がここに住むのなら、ベリータを雇うのもお給料を払うのも、私がするべきなのに。


「管理を請け負っているんだ。それは君が住んでいる間も、こちらでやろう。なにより精霊使いはいてもらわなくてはならないのだし」


「そんなに精霊使いって重要なのですか? 父は『沢山いる』と言っていたんですが……」


 するとルディアス様は意外な言葉を告げた。


「いや、ほとんどいないんだ。時々偽物の精霊使いが現れて売ることもあるようだが、精霊花自体がそもそも出回らない」


「え? 精霊花なんて沢山あるから、お前程度が咲かせた物ならさして金にもならないと聞いていたんですが。父がそう言っていました」


 父の言っていた言葉を率直に伝えたら、ルディアス様はしかめ面になる。


「気の毒だが……おそらく君は、父親に騙されていたんだと思う」


「え?」


「君の母上のご実家、フロース家がまだあった頃は、少しは精霊使いも王都にいた。でも需要のなさと代わりになる物が増えて……なにより魔物除けが行き渡ったのを境に、魔花に対処する案件が減った。だからあまり必要とされなくなったんだ」


「そうなんですか……。でも、魔花の問題が起きなければ、精霊使いの出番がないのはわかります」


 精霊花はそこそこ高価なんだとは、母に聞き知っていた。

 魔花のある場所へ行く労力、魔花を倒す危険、転化させる精霊使いの神聖力を使うことから、それに見合った価格になるから。


 精霊花の代用品があるなら、魔花が問題を起こさなければ、精霊使いの出番はあまりない。


「今でも人が精霊花を見ることができるのは、王宮の庭と墓地ぐらいか」


「死者を送る花が咲いているんですね」


 王宮は単に珍しい花だったり、華やかな魔法を時折みせてくれるから精霊花を植えているんだろう。

 精霊花を保つだけなら、精霊使いがいなくても十分できるから。


 墓地は、以前は葬祭の精霊花を使っていた時期がある。

 何百年も昔の魔花が大繁殖していた時代、そのせいで遺体から飛び立つ魂が変質し、幽鬼となって人に被害を及ぼしたことがあったのだ。

 それを防ぐために始まった習慣で、少し前まで墓地には葬祭の精霊花を植えていた。

 当時植えた物が、まだ残っているんだろう。


「今は庶民がそうそう手に入れられる物ではなくなっている。貴族でも欲しかったら金を払って精霊花を人に探しに行かせるか、隣国の精霊使いの元から購入してくることがほとんどだ」


「……そんな」


 つぶやきながらも、心の中では(やっぱり)と諦めに似た感情が浮かぶ。

 母の家が没落したのも、精霊使いが少なくなったせいだ。

 援助をする代わりに、精霊花を優先的に仕入れて売ることで利益を得ていたらしい一族だったそうなので。

 それなのに、急に増えるわけもない。


 そして父が、いずれ殺すつもりの娘に正直に話をするわけがない。

 価値がないと騙して、取り上げるように持って行ってお金に変えていたのかもしれないけど。


(でもうちの伯爵家って、私が咲かせた花が必要なほど貧しいの?)


 マリーシアに買い与えていた物とかを考えても、お金がないようには見えなかったけど……。

 借金でもしてたのかな。


 私が黙り込んでしまったので、困惑していると思ったのかもしれない。

 ルディアス様が言った。


「確かめたいなら明日、花を扱っているかもしれない店を見てみるか? 精霊花がないというのを、自分の目で見るのもいいだろう」


 たしかに事実を知りたい。

 それなら自分の目で見るのが一番だろう。


「お願いします」


 私が言うと、ルディアス様が重々しくうなずいた。


「では……明日、また会おう。迎えに行く」

こうして明日も会う約束を取り付けたルディアスでした。


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