10:ルディアスは動揺中
謎の女装男とルディアスが毛布を持っていた理由編
「あら、ルディアス様。ご夕食は一緒にされないのですか?」
一応ベリータに帰る旨を伝えに行くと、そう言われた。
ルディアスはうなずく。
「ああ、他の仕事もあるからな」
「まぁ……」
ベリータは頬に手を当てて気の毒そうにする。
「ずっと待っておられた方ですのに。あの方ですよね? いつかここへ来るとおっしゃってた方の年齢や背格好と一致しておりますもの」
そう、ベリータには話していたのだ。
いつか『レイナ』という名前の女性がやって来る、と。
ルディアス自身が連れて来るのは、自分でも想定外だったが……。
(いや、会えてうれしかったんだ。上手く門のあたりを通りすがったら、顔を見ることができないかと思ってうろついていたんだからな)
しかし貴族の家を、聖騎士として少し名前と顔を知られている自分がうろついていては、外聞に悪い。
だからフードを被って一周し、次は毛布をかぶって一周し、偽装していたのだが……。
ついでに部下に、女装をさせてそっちに注目が集まるようにまでしたのだ。
そうしたら、本人が外へ出て来た。
(ならば連れて行くしかないだろう。一人でここまで歩かせるとか、見知らぬ辻馬車に乗せるとかありえないからな)
そしてできれば今も、ずっとそばにいたい。
だけどわかっているのだ。
(彼女は、私のことを覚えているわけじゃない……)
知り合ったばかりの異性が、長時間毎日側にいようとしたら……怯えられるだけだ。
だから……。
「本当はここに住みたいに決まっているんだっ」
悔しすぎてその場に膝をついて呻く。
「どうして今日! 急に! でも六回目以降で良かったっ! でももう少し準備ができる余裕があれば!」
顔を覆って呻く。
聞いているベリータは「あらあら、また妙なことをおっしゃっているわねぇ」と頬に手を当てている。
不可解なのはその通りだ。
でもルディアスにとって、今回は異常だったのだ。
(いつも、戻るのはもっと前の時間のはずだったんだが。どうして今日だったんだ)
彼女が死んでしまうのは18歳の頃。
その後、ルディアスはいつも三年ほど昔に時間を遡るのだ。
なんとか彼女を救おうとしては失敗し、また時間を遡るのを繰り返して……七回目になるのか。
幸いだったのは、どうやら五回目の回帰をした自分に戻って来たことだったようだ。
この時のルディアスは、慎重にことを運びつつ、彼女の避難所を作ったりしていた。
おかげでベリータに、彼女の母が持っていた家の管理を任せてすぐ住める状態にできていた。
さもなかったら、自分の家に連れて来るしかなかっただろうが……。
想像して、ちょっとそれも良かったかと思ったが、首を横に振って想像を振り払う。
(ダメだ。五回目の私は、まだ館の人間を入れ替えていない)
彼女の父から匿うため、身元を明かせない以上、身分原理主義ともいえる使用人や親族が多いレーン伯爵家の人間達が、彼女にどんな迷惑をかけるかわからない。
その点を考えると、六回目に回帰したかった。
あの時は、初手で全入れ替えと親族の粛清をしていたのだから。
今も回帰時間の異常に気付いて、まずレイナの様子を見に行こうと思って外へ出たのだ。
おかげで彼女の保護に成功したのだが。
そこへ、台所側の勝手口から扉をノックして顔を出した男がいた。
「伯爵様、ホルガ―が戻りました。お嬢様の館の人間は諦めて一度引き上げたようです」
髪をそり上げた大男だ。
さっきまではルディアスの『目立つように』という命令によってとんでもないドレスを着ていたが、さすがに着替えたようだ。
今は元の伯爵家の騎士らしい服装をしている。
「助かった」
ルディアスがそう言うと、ホルガ―は照れたように髪のない頭をかく。
「伯爵様にそう言っていただけて良かったですよ。俺もまさか、例のお嬢様と遭遇することになるなんて思いませんでしたが」
それからホルガーがニヤニヤしだす。
「なるほど、伯爵様はちょっと儚げな美人がお好みなんですなぁ」
「黙っていろホルガー」
「はいはい」
茶化すような返事だったが、ホルガーは一応口を閉ざした。
「とにかく後は任せた」
これ以上はあれこれ言われてはたまらない。
ルディアスはベリータにはそう言って、ホルガーとともに家を後にしたのだった。
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