51:私が殺されそうになる理由
父が「これからはお前の顔を見ないで済むからな、教えてやろう」と言って話し出す。
「どうやら我が家の帳簿が盗まれたようでな。仕方ないので、見つかってはいけない品はお前が趣味で買い集めたことにしようと思ってな」
「え? 帳簿? 見つかってはいけない品?」
なんのことかわからないけど、私の疑問は流される。
「そこでちょうどいいのがお前だ。精霊使いなら、魔花の種を手に入れてもおかしくはない。あとはお前が魔花に囲まれて死ねば終わりのはずだ」
「魔花に囲まれて死ぬって……」
そこではっとした。
(まさか、私の家に持ちこまれた種って)
「私を陥れるために、私の所に持ち込ませたんですか?」
いくら憎いとはいえ、父自身にまで罪が及びそうなことをするとは思わなかった。
禁忌の魔花のせいで私が罪人になったとして、その父親になんの咎めもないわけがない。
あれだけ強力な魔花なら、普通の騎士や兵士では太刀打ちできない。
そして大量にあったら、聖騎士であるルディアス様一人だけでもどうにもできないまま、被害が広がる。
しかし父は心底不愉快そうな顔をした。
「陥れるだと? 私の役に立たない人間を陥れてどうする。利用してやってるんだから有難く思え。今まで育ててやった恩を返すつもりでな」
私は絶句した。
この人、本気で私のことを利用できる嫌いな道具として見ているんだ。
きっと、植木鉢に手足が生えているんだと思っているに違いない。
珍しい精霊花を咲かせられるけれど、という注釈ぐらいはつくかも。
だから最初は、植木鉢が逃げるなんて思わなかった。
お前は植木鉢だと言い続けて、私がそう思い込んで従っていたからだ。
以前の私は、最後まで自分が植木鉢だなんてわからなかった。
でも今は、人として生きていられる自分を知っているし、植木鉢のように扱われるのは嫌だ。
しかも罪を着せられるなんて、ごめんこうむりたい。
(もう、こうなったら仕方ない)
助けてくれる精霊花も少しはある。
ここに知らない魔術師まで連れて来たのなら、すぐにでも私のことを殺すかもしれない。
(助けが来てからと思ったけど、今やらないと!)
誰かが救ってくれるとか、時間が経てばとか、それを待ってちゃいけないんだ。
そう、私は前回も、マリーシアが結婚したら変わるとか、それまで我慢しておけばと思って逃げる機会を失い続けて来たんだから。
「……では、恩ではなく恨みを返すことにします」
「は?」
父は意味がわからずに目をまたたいた。
その間に、私はポケットの中に入っていた魔花の杖を、近くにあった鉢に突き刺して魔力を与える。
噴水のように、一気に広がる葉と茎。
今まで杖の形で閉じ込められていたうっぷんを晴らすように、滝のように茎をのばして人を飲み込もうとしてくる。
「う、うわぁぁぁ!」
逃げる父と、押されるように慌てて外へ出る魔術師。
私は精霊花を手元に集めて隅に避難し、じわじわと神聖力を与えて成長させて閉じこもれる空間を作った。
なんとかしゃがみこんでいられるぐらいは、隙間を確保できた。
魔花は神聖力を嫌がって、こちらに侵入しては来ない。
むしろ精霊花のほうが魔力を吸収するため、魔花にちょいちょい葉を伸ばしているぐらいだ。
ほっとしながら、とりあえず首輪を外せないか試す。
魔力をぶつけてみても、神聖力を抑えるために魔力を使っているのか、全然効かない。
「今度こそ、誰かが助けてくれるまでここにいるしかないかな?」
両膝を抱えてうずくまる。
時間を戻る前の、ルディアス様と隠れ潜んでいた時のことを思い出した。
あの時も、誰かに見つかったらどうしようと思っていた。
けど、ルディアス様がいたからすごく怖くても耐えられたんだと思う。
話す相手がいたから。
手を引いてかばってくれたから。
でも今は、いつ来てくれるかもわからない。
魔花が暴れていると聞けば、誰かが大騒ぎしてこちらに気づいてくれるかもしれないけど。
時間が過ぎれば過ぎるほど、魔花の勢いの方が強くなる。
家と違って、対策を講じることもできないし、神聖力も使えない状態では、私も飲み込まれて死んでしまうだろう。
そうなったらどうしよう。
心細くなったその時だった。
地響きが起こった。
何か建物が倒れるとか、そんな感じの揺れだ。
驚くけど、視界いっぱいを魔花の茎と葉が覆っているので全く何もわからない。
でも何度か同じ地響きがした後、背中をあずけていた壁がドン、とふるえた。
次いで金切り声が上がる。
短い金属音と、金切り声が何度も何度も響いて……。
ふいに、視界を覆っていた魔花が黒く染まって、灰のようにくずれた。
その先に見えたのは、屋根が吹き飛んで半壊した倉庫と、それを背景に白い光をまとう剣を持った人。
「ルディアス様……?」




