48:冤罪じゃないんですか?
そして神聖力を一気に叩き込む。
魔力をじっくり奪っている場合ではない。
私の体調が悪化したら、とても勝てないと思ったからだ。
「それにこれぐらい強力なら、倒すつもりじゃないとっ」
精霊使いは聖剣で戦う聖騎士よりずっと弱いけど、魔花にだけは強いのだ。
魔力への耐性を持つので近づいても影響を受けにくく、神聖力で屈服させることができるから。
ただ強力な魔花なので、体力を削った方が有利になれる。
ので、どうせ死にはしないだろうと、残っていた聖塩を直接花に当ててダメージを与える。
焼け焦げるような音を立てた瞬間、神聖力の入りが良くなる。
そのまま私は一気に押し通した。
じわじわと、色を薄いピンク色に変えていく魔花。
かなり負担が減って、あとは見守るだけになったところで、私はふと惜しくなった。
「このまま証拠が無くなるのって、ちょっと嫌かも」
種を置いていった人も見つからないのに、とんでもない魔花だと言ったところで、見せられなかったら誰も理解できないだろう。
ルディアス様は信じてくれるだろうけど……。
しおれるように力なくうなだれていく花を見つめていたけど、思い切ってそれを折り取った。
それが最後の押しになったかのように、魔花本体は薄いピンク色のガラス細工のような精霊花になる。
はーっと深く息を吐く。
気づいたら額に汗までにじんでた。
けっこう神聖力がぎりぎりだったのか、ぐったりと疲れていて立っているのも辛い。
でももうひと踏ん張りと思い、手に握っていた魔花の茎と葉の部分を杖に変えた。
「うっ、ちょっと禍々しいかも」
持っているだけで魔力が強いことがわかる。
普通だったら持っていられないだろう。
私の血を使って成長させたから少し抑えられるのと、精霊花の杖があるから、なんとかなっているだけで。
「もうちょっと大人しくさせるために、残りの聖塩も一緒にしておこう」
聖塩が入った小袋に、杖を入れておく。
一瞬、杖が身震いした気がするけど、気のせいだろう。
それをポケットにしまう。
杖はいつもより短く作ったので、小袋からはみ出したのはちょっとだけだ。じゅうぶんに大きめに作ってあるポケットに収まった。
ほっとすると、力が抜けそうだった。
魔力は取り込まないようにしておいたから、神聖力が足りない。
ふらふらとしながら、自室に向かう。
これを自力回復するのは、やっぱり眠るのが一番。
「でもルディアス様に知らせないと……」
とはいえ近くにいるだろう、町を巡回してくれているレーン伯爵家の兵士を探しに行く体力も気力もない。
どうしようと思っていたら、玄関の扉がノックされた。
「誰か来てくれたのかな」
様子を見に来た巡回の兵士が、訪問してくれたのかと思って、玄関へ向かう。
しかし扉を開ける前に聞こえたのは、予想外の言葉だった。
「開けろ! 危険な魔花を持ち込んだ者がいると通報があった!」
「え?」
魔花を持ち込んだからって、誰かが私を捕まえに来てるの?
わけがわからずにいると、扉がガンガンと叩かれ、そのうちに体当たりしているような音になる。
「こ、壊される!」
せっかく母から受け継いだ家なのに、壊されたくない。
私はつい扉を開けてしまった。
家の外にいたのは、二十数人はいそうな兵士の集団。
夜だから暗くて、兵士の衣服の紋章なんかが見分けがつかない。
先頭にいるいかつい顔の男性兵士が、再度さっきの言葉を告げてくる。
「危険な魔花を持ち込んだ者がいると通報があった! お前は家の持ち主か?」
「そうですが……」
「拘束しろ!」
問答無用で押し入って来た兵士二人が私の領腕を掴む。
え、理由も中の検証もせずにこれ!?
「あの、そもそも精霊使いは、魔花を持ち込んでも許されるはずです!」
私は抗議した。
これは何代も前の王様が決めたルールだ。
それ以来、ずっと精霊使いだけは魔花を人の生活圏に持ち込むことを許されている。
さもないと誰かが持ち込んだ魔花を移動しても、罪に問われてしまうからだ。
また、治療等において魔花から転化するその瞬間が必要な物があって、それを必要とする人のためにも許可されていた。
けっこう有名な話だから、知らないわけがないのに。
「理屈は結構、禁忌の品を持っていることそのものが罪なのだ」
兵士を取りまとめているいかつい顔の兵士は、私が罪を犯したに違いないという一点張りだ。
「中を確認してこい! 魔花があるはずだ!」
いかつい兵士は、他の人達に家の中に踏み込ませた。
ていうか、なんかさっき、おかしなことを言っていなかっただろうか。
(魔花の持ち込みだけならわかるけど、さっき言ってたのって……『禁忌』だったっけ)
禁忌の、と付いたらまた意味が変わってくるのだ。
普通の魔花や、ちょっと力が強い魔花とはわけが違う。
――人を大量に死に至らしめる力を持つ。
そういった力がある魔花は、精霊使いでも人の居住圏には持って来ることはない。
自分も周囲も、無事ではいられないからだ。
過去の精霊使いの冊子には、禁忌の魔花を発見したら、まずは対策を練って、必要な物を輸送する人員と魔物を討伐する者とを募って、多人数へ現地へ再度行き、それから精霊花への転化を試みた、という記録があった。
(ただ、普通の人には魔花が禁忌の物かどうかなんてわからないはず)
一体どうしてうちが通報されたのか。
魔花があるというだけなら、勘違いした誰かが通報したのかと思ったのだけど。
禁忌の物だと限定しているなら、話は変わる。
(誰かが見かけるわけもない。そもそもルディアス様の兵士が、この人達がやって来ているのに、何も言ってこないとか変)
この状況で考えられるのは……。
(魔花の通報は嘘で、この兵士達はあの種のことを元々知っている、とか?)
種を持ち込んだ人は行方不明で、身元もわからなかった。
そしてずっと種だったんだから、発芽するまでに見かけた人もいない。
むしろ発芽のタイミングを知っていて、今日来た可能性はないの?
(助けを求めよう)
私は腕を掴まれながらも、手をぎゅっと握って指輪に触れる。
これで、ルディアス様に何かあったと知らせは送れる。
そんなこんなと私が考えている間に、家の中の捜索を済ませた兵士達がドタドタと帰ってきた。
「隊長殿、どこにも魔花がありません!」
「は!? 嘘をつくな!」
いかつい兵士が驚きすぎて、声が裏返っている。
でも叱責された兵士も引かない。
「本当にないのです! 精霊花はありましたが……、事前に覚えた花姿の魔花がないのです!」
(事前に覚えたって……やっぱりそうだ。ここに種を持ち込ませて、発芽させようとした人達の仲間なんだこの人達)
私は叱責された兵士の言葉で確信を持った。
持ち込ませた側なら、あの魔花が禁忌の物かどうかも、いつ発芽するかもわかっているはず。
ただ、私が転化できないと思っていたんだろう。
予想外のことが起きてびっくりしている間に、逃げられないかと思ったけど。
「魔花はいい。とにかく連れていけ」
そう命じて、私を家の外へ引きずり出す。
抵抗しようとした私は、その時曇り空から月が現れたことで、あのいかつい兵士の服にあった紋章が見えた。
「フィディアス伯爵家……」
父が私に冤罪をかけて、連れ出そうとした!?
驚いた私が、その紋章を見つめていたのがバレてしまった。
いかつい兵士はさっと顔色を変えた。
「その罪人を眠らせろ!」
兵士達の中に、魔術師がいたらしい。
ただでさえ疲れ切っていた私は、魔術に抵抗できずに一気に意識が遠のいたのだった。




